第154話 ゲロした内容と対策会議

「はい、というわけで捕まえたあの人の役割は試合が始まった直後に火炎瓶を投げ込んでその燃焼を爆発的に大きくするだけだったそうです」

 ピンク色な尋問が終わったあと、得られた情報を共有するため関係者を集めてそう切り出した。

「問題を発生するだけなら火炎瓶だけで良さそうなものだが……そうじゃなかったと」

「滅びた世界の中で旧体制に不満を持つ人たちがいて、その象徴である王と元老院の要人を殺害しようとしたため会場が機能不全になった上で主力が突入できる環境が必要だったみたいだね」

「つまり大炎上状態でも突入できる装備なり能力が存在していたということ?」

「捕まえた男が現象、例えば燃えてる火が炎に変化したりとか、対流がある場所なら突風を吹かせられたりするとかそんな能力が使えるので、何らかの合図を送って侵入したんじゃないかと」

「なんというか……凄く厄介な能力ばかりね」

「リオさんだって天候操作だから結構凄い世界だったんじゃないかと」

 始めて会った時も大雪を降らせてきたし、相当凄いんだけど滅びたんだよなぁ。

 一応戦闘にも応用可能で、極めて有効な戦果が見込める人がそこそこの人数がいたとしても、相手が圧倒的数で押し寄せてきた場合ジリ貧なのは確かだからね、その中でもリオさんの天候操作ってやり方次第では戦場の2・3個を完全制御できるポテンシャルがあるにも関わらず、大陸が移住可能か、交渉可能かを調査しに来ていたわけで……そういう意味でもあの自称革命者は王や元老院に対して思うところはあったのかもしれない。

「ともあれテロ事件の目的は要人暗殺が目的だったということです。その上でこちら側の参加者もいる状態でやってきたということは他に何かしらの意図があったものとは思われますが、あの方は知らされていなかったようです」

「スーさんがそう言うなら確かだろうね。ガッツリえげつない予測可能回避不可能な手段で情報引き出してたし」

「大変美味しゅうございました」

 自分の深層心理含めて完全理想形の異性から性的に詰め寄られて理性を保てる人ってどのくらいいるんだろうね、本当。

「となるとやっぱ逃げられたのは結構痛いなぁ。目的を果たせば自首する可能性もなくはないけど、それはそれで滅びた世界の要人を見捨てることになるわけだからこっちとしては今後の為にも避けたいわけだし」

「お隠れになったっていうのはどうかしらね」

「それはどういう……」

 月読さんの提案にリオさんが眉をひそめるように即質問。

「比喩表現とかじゃなく文字通りね。輸送機なりシックなりに一時避難させればいいんじゃないと思ったのだけど」

「……それは難しいかもしれません。どうも皆さんの報告を聞いていると首謀者にインフォメーターが関わっているようですから」

「インフォメーターって……情報伝達ってことかしら」

「インフォメーターは私たちの世界の滅びが致命的にまでなった際でも、原因となったであろう鋼鉄クラゲが始めて現れた地点の情報を取得できる程の能力を持った人間です。となればいくら大陸の技術と能力を持っていたとしても王の居場所はすぐに把握されることでしょう」

「能動的に世界の情報を取得できるってこと?便利すぎるわね、制約とかないのかしら」

「普段は能力を遮断する衣服を身にまとって対処していたようですが、逆に言えばその程度で防げてしまう制約でしかないということになります」

「その衣服を要人に着せるには?」

「特殊繊維で生み出されていたので、大陸で入手できるとは到底思えません。滅びる直前に存在していた個数は3着しかありませんし、その3着全てがインフォメーターが所持していましたから」

「ヌーリエ様は全ての生命体を転移させたようなのですが……それでもでしょうか」

「素材があっても人と環境が難しいのです。私たちの能力は個々人が所有しているものではあるのですが、根源的には同じ領域から個人の脳を介する際にそれぞれの形での発露となるものですので」

「その説明の仕方からすると、滅びてこの世界に転移させられる前に死んでたということかな」

 ヒヒノさんの憶測にリオさんはゆっくりと首を縦に振って肯定した。

「それに環境も小さい部屋で魔法が反響するコーティングをした上で特別な加工者が必要であると、少なくとも私は聞いていましたから、新たに作るのは不可能かと」

「参考程度に聞きたいのだけど、具体的にはどのような技術、能力でそれらが作られたのか。そして素材や見た目に関する情報はないのかしら」

「すみません、そのようなものがあり、今お教えしたような環境で生み出されているとしか私には……」

「あぁ別に謝らなくていいのよ、私の知的好奇心で聞いただけなのだから」

 月読さんって技術的なことになると興味津々で突っ込むよなぁ……いや別にいいけど場合によってはかなり危ない状況になるのではと心配してしまう。

「そこで今後の方針なのですが、隔離が無理な以上はむしろ常時健在をアピールする方向にしたいと思うのですが……ヒヒノ様とイネ様はどうお考えでしょうか」

 なんでこの2人?と一瞬思ったものの、その手の相手に負ける要素なしで対応可能なのがイネちゃんとヒヒノさんの2人だけってことなのかと自己完結してから少し考える。

 現状、転移能力者相手に問題なく圧倒できるのは間違いなくイネちゃんとヒヒノさんの2人で、ロロさんは相性としては最悪の部類になるため戦力としては数えてはいけない。

 なにせ転移能力でゼロ距離接近した上で撫でるような動きでイネちゃんの腕に触れようとしたわけなのだから、意図した空間のみを切り取る形で転移させられるものなんだろうと予測できるので、何かしらの手段で物理防御を行わなくてはいけないロロさんは相性が最悪なわけである。

 むしろ転移相手ならスーさんの方がいいまであるからね、相手の思考を把握した上で常に先手を打てるってだけでその手の能力者とは相性は最高だし。

 次にサイコショックだけど……こいつのおかげでヨシュアさんも戦力外にせざるを得ない。

 もしかしたら滅びた世界への召喚特典でその手の洗脳とかは無効化されるかもしれないけれど、ヌーリエ様の加護と比べたら脳を直接揺らされるっていう方向での防護の点で劣るためやはり相性は悪いしね、そもそも転移能力相手に後の先を取れる力はなかったはずだし。

 サイコショックの特性上スーさんがどんなダメージを受けるのかって心配もあるから、やっぱあのクズを相手にするのであればイネちゃんかヒヒノさんが最適解になる。

 まぁ……あいつだけならもしかしたらリリアがって手段もなくはないのかな、戦い自体が苦手ではあるけれど、思考を読むことができてサイコショックの影響もまず受けずに、逆に相手をチャームで無力化できるわけだし。

 ただそれ以外の敵を考えた場合、リリアだと捕まえている男の事象関係のものが防げないし、あの自称革命者の力が判明していない以上は下策になってしまう。

「うん、消去法で結局イネちゃんとヒヒノさんの2交代制による警護が必須になるね!」

「思考を読んでたら尚面白い多面相していましたよ……ですがまぁ、有事の際にはお二人が必須であることは事実です。今回は平時におけるシフトなどを決めるべきかと思いまして」

「私は援軍兼補助として来たからね。有事のときには基本私が動くのが1番だと思うよ。ただ有事になったと同時に私かイネちゃんがその場にいるなんて都合のいいことはない前提で警備体制はしておいたほうがいいかな」

「それははい、当然そのように編成する予定です。基本は私を含めた夢魔と誰かが組む体制が最も適したものかとは思いますが、物理側の戦闘力の問題がありますので少々難航してしまいそうなのです」

 物理側のって……イネちゃんそっちを心配してなかったから以外な展開。

「トーリスさんが負傷し、ウェルミスさんはそちらの看護を行うらしく無理強いはできません。ヨシュアさんに関しても恐らくは単独で物理面を補える方でしょうが、対人、人を攻撃するという行為自体に忌諱感を今でも抱いておられるようで……」

「となるとティラーさんとミミルさんにウルシィさん……かなり無理することを考えればキュミラさんを混ぜて行ってもシフト的に厳しいのかな」

「はい。ロロさんは大丈夫と言ってくださっていますが、流石にこの人材不足ではヒヒノ様とイネ様にかかる負担とあまり変わらないものをロロさんに押し付けてしまうことになりますので、教会、ギルド双方の本部への増員要請は出していますが……」

「アングロサン側の情勢でココロさんが不在だからそっちに数を回したいってことかな……こっちがかなり精鋭で組まれている感じ、最悪に転がっていっても解決できるって考えなんだろうけど」

「手段選ばず。生死問わずって流れもやむなしな感じになっちゃうよねー。一応まだその領域じゃないとは思うけど、まーた野生動物をミスリルで操ったり、火山が大噴火したりとか起きちゃうと時間的にそんな余裕なくなっちゃうしね」

「人的資源的にも、かなぁ。一気に解決できる可能性があるのはイネちゃんとヒヒノさんだけで、一時的にでも相手の用意周到な計画を止められる人材が少数……」

「他の人だと時間稼ぎ程度か、ほんの1歩程度を歩くくらいの時間しか稼ぐことしかできないだろうね。特にあの転移してる人は状況次第では私も苦戦しそうだし、負けることはまず無いけどね」

「そして現状は……」

「「その最悪に一歩前進してるよね」」

 イネちゃんとヒヒノさんの声が完全に揃った。

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