第145話 受け入れ中期、滅びた理由
貧困層の受け入れを始めてから3日後、ようやく受け入れ人数が1万を超えて、イネちゃんが建造した建物での最大収容人数が概ね20万くらいになり余裕が出てきたタイミングでイネちゃんの休日とリオさんの休日が重なり、目の前の問題が小さくなってきていたので遂にそれを聞く運びとなった。
「そういえばリオさんたちの世界って、どうやって滅びたの?」
公的な場で、あまり知らない人に聞いたら間違いなく胸ぐら掴まれて1発か2発殴られるような質問を投げかけた。
「イネさんはご存知ではなかったのですか?」
「うん、というより聞くタイミングがなかったっていうのが本当のところだけどね」
しかし……いや当然というべきか、ムーンラビットさんだけじゃなく政治的な主要な場所にいる面々はリオさんからその事情は聞いていたようだね、滅びた理由次第ではこんな1箇所に全員を集めるなんてことすれば滅亡戦争の続きを始めかねないわけだし。
となればリオさんたちの世界って何かしらの外的要因があったのだろうけれど……世界そのものが消失しているってことを踏まえると蝗害系は考えにくいし自然災害でも流石にそこまでのものはそう起きるものではない……いやまぁそれが起きたって可能性も否定できるものじゃないから、微量ながらもその可能性はあるわけだけど。
「まず、私たちの世界は頻繁に人類同士の争いが発生していて、それらの争いに役立つような様々な技術が生み出されました。私の習得している気象制御もその1つですし、ビーストテイマーの持つ言語能力を持たない存在をある程度制御する術もそれです」
なんか世界の説明が始まっちゃったけど……まぁそんな感じの説明もあっていいか、イネちゃんって滅びた世界のことはリオさんとビーストテイマーの子、それにミスリルのことしか知らないし。
「もちろんミスリルもその過程で生み出されたものですが、人類共通の敵相手に唯一と言っていいものであったのに実戦での安定性が確保できず……」
「大陸で実験を繰り返していたと」
「申し訳などできるはずもありませんが、既に私たちの世界は人類の領域で実験を行えるような状態ではなかったのです……そしてその中でこちらの世界の調査も同時進行していたわけです。ヌーリエ教会に確保されたビーストテイマーの少年と私、他に20人程度の人間が調査をしていて、移住可能であるかを調べていたわけですが……それもヌーリエ教会が信ずる神、ヌーリエが居て始めて可能となるものだったという結論に至ったわけです」
調査か……それならなんで攻撃してきたのかと思うけど、戦乱ばかりで自分たちと考え方が違う相手にはまず攻撃することが挨拶みたいな世界があっても完全否定することはできない可能性があるからなぁ。
でもあまり攻撃的な性格でないリオさんと最初の方でエンカウント出来ていたのはかなり幸運だったわけだ、お互いの実力差とかをしっかり把握できて、会話も問題なく行えるのであれば対話で決めるのが大陸としてはありがたい。
「ミスリル実験をしていた方々は大陸で実験を行っていた都合、敵対せざるを得なくなったこともありイネさんたちに蹴散らされたわけです。そして世界が滅びる前に私たちが戻ることができず、平和的な移住が実現しなかったわけですが……」
「そろそろ本題?」
「助長になってしまい申し訳ありませんでした。本題である私たちの世界が滅びてしまった原因なのですが……どこから現れたのかもわからない鋼鉄のクラゲに蹂躙され、更に彼らの支配領域は文字通りに消滅していったのです。最後には人類最後の生存区域であった王都だけとなっていたでしょう」
リオさんはその時シックにいたわけだから憶測にならざるを得ないか。
まぁ大陸に来る前の情勢は把握しているわけだし、それほど憶測と事実が乖離することもないとは思うけど……。
「私はその時の詳細はわかりませんが、少なくともあの時に私たちの世界の技術において本来なら不可能なレベルの転移ゲートが生成されたことはシックの客間で感じました。恐らく王は神は見捨てなかったと皆を先導しこちらの世界へと降りて……それがシックの近くであったのでしょう」
「うん、ヌーリエ様が手引きしたっぽいからそこは勘違い含め間違いないけど……とりあえず滅びた理由っていうのはその鋼鉄のクラゲだけ?」
「私が把握している範囲では、クラゲを生み出す場所が消滅した地域の先にあるだろうという観測情報までです。どのみち実際私たちを攻撃し、世界を消したのはクラゲですよ」
うーん、鋼鉄のクラゲ……それがブロブと同じと考えるのは早計すぎるけど、なんだかイネちゃんの中でその2つが強く結びついている感覚がある。
そして更にその感覚の奥の方で同一だという確信がある辺り、ヌーリエ様が無意識のところに情報を置いていったんだろう、どうせなら認識しやすい場所においていって欲しかったけど。
でもまぁ、無意識下にあった情報を認識できたことである程度全容が想像できるようになってきたし、それはそれでよかったとしておくけれど……。
「うーん、正直なところその鋼鉄のクラゲは世界を消去する程の力はないと思うよ」
「私も同意見です。それができるのであればこちらがミスリルを使って数体捕縛した時に相手を消せていたはずですので、できなかったのであればそれは鋼鉄クラゲの生まれる場所……そこにいた何かがその能力を持っていたと考えるべきでしょう」
そこにいた何かだと曖昧すぎるなぁ……鋼鉄のクラゲがブロブなのであれば、その動力はトラペゾヘトロンなわけで、もしニャルラトホテプさんたちが関わっているのであれば世界を消すっていう出来事も大げさではない……のだけれど、それは既に本人が否定しているし、ムーンラビットさんとササヤさんも特に言及をしなかったってことは別の何かがC系神話の力を使って何かしていると考える方が自然なわけだけど、2人が真実を隠している可能性も否定できないからなぁ……まぁ少なくとも大陸を滅びた世界の二の舞にすることだけは絶対しないって断言できるけどね。
「とりあえずすごく大まかな概要だけは把握した。ただ理解したわけじゃない……というか正確に言えば理解するだけの情報はなかったわけだけど」
「すみません……」
「あぁ別にリオさんが悪いわけじゃないでしょ。その様子だと滅びた世界の人たちで把握している可能性が少しでもあるのは王族くらいなわけだし、リオさんが大陸に来る直前までの情勢で言えば多分だけど把握していなかったと思うし」
まぁ把握したからこそ、対抗するより他の世界への移住を最優先にしたとも言えるけど、そうなると滅ぼした存在が転送ゲートを通って大陸まで来なかった理由がわからなくなる。
「何か気になることが?」
「んー……あると言えば1つあるけど、今考えても答えがでない類のだよ?」
「それでも構いませんので、教えていただいても?」
「まぁそういうならいいけど、なんでその滅ぼした何かってのはリオさんたちの世界を滅ぼした後にそこの住人を追って大陸まで来なかったのかなって」
「……確かに、わからないですし答えが出ませんね」
「全部憶測にしかならないからね」
鋼鉄のクラゲとブロブが同一だっていうのも、あくまでイネちゃんの無意識でそう認識しているってだけだし、大陸に現れているのブロブに関しても大陸に直接来ているわけではなくってアングロサンからワームホールを通って来ているわけだからね、もしリオさんの世界を滅ぼした存在が今いるとするのならばそれはアングロサン世界ってことになるけど、これっぽっちも確証がないのであちらの担当であるササヤさんたちに情報集めを頑張ってもらう以外に今のイネちゃんができることはない。
「さて、リオさんそろそろ休憩時間が終わる頃じゃない?」
「え、あぁ本当ですね」
「軽食とか食べなくて大丈夫?」
「リリアさんが作られたおにぎりというものであれば移動中に完食できますので、はい。休憩に関してもイネさんとお話することができたので私にとってはうれしい時間でした」
あ、はい……どうしよう、イネちゃんリオさんのこと人間としては好意を持てるけど異性としての好意は全く持てないから凄く不憫で申し訳ない気持ちになってくる。
「それでは、イネさんは良き休日を楽しんでください」
そう言ってリオさんは仕事へと戻っていった。
リオさんの背中を見送った後……。
『まぁ……異性としてどうかって言われると私も同じだけど、不憫だよね』
「うん。というかイーアもイネちゃんと好み同じじゃん」
『だからこそ余計に不憫なんだよね……』
「異性として意識できないってのは既に伝えてアレだから、こっちとしてはできることが殆どないよ」
頭の中ですら意見一致でリオさんに申し訳ない気持ちになりつつも、イネちゃんは休日を結意義に使うため月読さんの部屋に向かったのだった。
あのロマンの塊の名前とか、追加武装するならどういうのがいいかとか相談しなきゃだからね、現役巨大人型ロボットの開発者の意見を聞くのは凄く有意義な時間の使い方だよね、うん。
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