第140話 会議の結果
「とりあえずは協力関係ということで物資交易中心、一部民間娯楽での交流で、軍事面では木星とは不干渉、火星とは対ブロブでの戦闘では共同作戦を取ることで締結したんよ」
会議を終えたムーンラビットさんたち大陸組と、アングロサン火星北部代表として交渉の継続で参加していた艦長さんとイツキ中佐さんが降りてきて会議の内容を教えてくれた。
「とりあえずって確定じゃないってことです?」
「木星側は独自の思惑が強すぎてな。あちらさんの懐事情の関係でこっちの食料を欲してきたから今回の形で暫定的ながらも決定したのがギリギリやったな。正直私以外が交渉してたらもうちょいこっちが不利な感じになってたと思うんよ」
「横で参加していたものの、アングロサン側の内部事情を半分近く垂れ流されたときには冷や汗が止まりませんでした」
「頭の中を見れるって言ってもそのカードをどう切るべきかの判断は経験やからな、あの手の高圧的な奴には畳み掛けるレベルで隠しておきたい内心をこっちが把握していることを教えてやった方が展開は公平に近くできることの方が多いんよ」
「頭の中身が全部見えていなければできない芸当ですな……」
「他の夢魔では性的な方面ばかりで政治的なところの踏み込みは苦手やからな。ごくごく一部に替りを任せられるのもいるにはいるが、今は地球とムータリアス、それに滅びた世界からの難民に4人、出しちまってるんでこっちを任せられるだけの経験を積んでる奴がいなかったのが面倒よ……私にしかできないと他に支障が出るかもしれん状況やのにな」
「そんなに人手が逼迫しておられるので?」
「滅びた世界方面がな。復興とかそういうレベルでなくマイナスからの開拓やから人手を割かざるを得ないってのが効いてるんよ。他はもう担当2・3人で対応できるが、そっちは直近もいいところで圧倒的に足りてない。アングロサンが現れてなければイネ嬢ちゃんにお願いしてたレベルよ」
「半月で軌道エレベーターを、我々アングロサンの最新型以上に頑強で整備性の高い形で建造してしまった力ですか……」
事実だけどそれを常時できるとか思わないで頂きたい。
まぁ……過去に何度か都市規模開発を経験しているから難民用のってなると確かに順当に回ってくるだろうお仕事になるのは理解するけどさ。
「それで、地球組は今後の方針決めたんか?」
「暫く賓客扱いもいいとは思ったが、事情を聞いた以上はそれなりに働くのもやぶさかではない」
「ま、人手が足りないなら高天原で物資運搬くらいはできるだろうしな。燃料代分と飯代分くらいは働くさ。帰るための方策も体を動かしながら考えるさ」
「私は肉体労働はしないぞ」
「最初から期待してないから安心しろ」
「変わってないねぇ。いやまぁあの戦いの直後やし当然といっちゃ当然なんだが。ま、アレの整備と燃料は必要経費で教会が出すし、食料に関しては調理前でいいならいくらでも持ってっていいんよ。大陸はヌーリエ様の加護で世界総人口の2・3倍が平均収穫高やしな」
「そんなに作ってどうする」
「半分は保存食、半分は家畜の餌。ま、最近は3倍ベースが基本になりつつあるがな、他の世界との交易用で。アングロサンとの交易でまた増産するだろうが……ま、民間側は今でも人が余り気味やから問題ないんよ、試算では本気で食糧生産すれば総人口の10倍超の生産ができるってデータもあるかんな」
「では普段は総人口の2倍生産か?」
「いや、この試算はあくまでヌーリエ教会のみで行えるデータ。王侯貴族は完全独立してるかんな。大陸の総人口で食糧生産にのみ力を傾けた場合はもっと上の数字が出るんよ」
「理解した。参考数値程度として捉えておく……最も、その数値なら政治や軍事、その他生産活動を止めずに行える数値は6倍程度か。というよりも王侯貴族の生産量を含めないにも関わらず総人口で計算する方がおかしいだろうに」
「あくまで目安やからなぁ。普段は1倍ベースで問題ないし、開拓事業で畜産多めになったとしても1.5倍でお釣りが来るってのが実際の数値やし」
となると最近の2・3倍って交易用なのか。
「しかし本当にそんな作付面積を管理しきれるのか?」
「自然魔法って便利なものがあるかんな。農業向け中心のものばかりよ」
ヌーリエ教会の神官が使ってる魔法って農作業用だったのか……イネちゃん医療行為ばかり見てたから知らなかったよ。
ただ確かに考えてみればシックの周囲に広がる田畑の面積は地平線の彼方までって表現できるくらいに広いのだから、考えてみれば何かしらの手段で一気に収穫ができるってことだもんね、うん。
問題はその収穫した食料品をどこに保管しているのかってことだけど……。
「ディメンションミミックと同系統の技術で空間魔法ってのがあるんよ、イネ嬢ちゃん」
「頭の中の疑問についての回答ありがとうです」
その代わり、アングロサンの人たちと高天原の2人がディメンションミミックって単語に困惑しているけど。
「ともあれ話を戻すとな、正直今後の人事について迷ってるのが現状なんよな」
「イネちゃんがどっち担当するか?」
「どちらにしろ恐らくブロブと対峙することになるしな、ニャルラトホテプとクトゥには調べてもらってるが、どうにもアングロサンとは無関係っぽくてなぁ。ヌーリエ様に関してはブロブの件と高天原の件で独自に動いちゃってるっぽいし、神託がないって司祭連中が嘆いているのが鬱陶しい」
イネちゃんに対しても囁き程度の言葉しか送ってこない辺りヌーリエ様も結構大変なのかもしれない。
「でもブロブの戦闘能力ならギルドでも対応できるんじゃ」
「ある一定の強さならな。ゴブリンでひぃひぃ言ってた連中は絶望しか感じれないラインなんよ、あれでも」
「トーリス、一応……トップ、だから」
「一応は余計だロロ。だがそれだといつものギルドに任せるって手が使えないってことじゃねぇのか?」
「いつものはランカー向けで出すんよ。他の面々には人数指定の護衛や物資運搬を回すことにするんよ」
今の会話で冷静に考えたけど、確かにビームとなるとロロさんでもガードが難しいわけだし、いざ戦うとなると事前情報があっても最低ランカークラスでないと単独対応は絶望、ランカーでもロロさんは火力不足なところもあるしきついのは確かなのか。
ブロブと最初に対峙してから苦戦しなかったから麻痺してたけど、イネちゃんは勇者の力があって始めてメタれるだけで、地球から持ち込んだ武器だけで戦うとなるとかなりの曲芸が必要になるし覚悟も5回くらいは完了させておかないときつい脳内シミュレーションができてしまう。
「ま、そんなわけでな、人の配置に関してはかなり慎重にならざるを得ないのが現状というわけよ。ちなみにササヤはシック待機な、木星に睨みを効かせる意味でも今回は動かしにくいし、アングロサン側の事情で対ブロブに手を焼いている以上はアザたんと繋がりが深いササヤはそっち寄りの配置にどうしてもなる」
あー、これイネちゃんわかった、自主的に難民の人がいる島に向かわせようとしてる奴だこれ。
ササヤさんがアングロサン寄りの対応をするってことだし、メタルドラゴン戦でココロさんが割り込んできたことも考えると宇宙戦線の大きい人事は決定しているようなものだよね、ココロさんとヒヒノさんは勇者って言ってもヌーリエ教会の司祭長さんの娘なわけだし、政治的な内容強めであるのならそっちに配属するのが最適だからね。
いつもの自由意思に任せる的なやつだよ、うん。
「いや、自由意思なのは変わらないんやけどイネ嬢ちゃんには本当、どっちを担当してもらっても嬉しいんよ。宇宙開発もある程度やっておかないと火星側の出向してきた連中が船を止める港がないって状態やしな。難民の開拓と宇宙コロニー建設、どっちも火急な内容なわけなんよ。ちなみにどちらにしても宇宙は火星北部からの出向メンツ、難民側は現状の教会からの出向してる連中で進めるのは変わらないかんな」
イネちゃんが参加したほうは予定をかなり前倒しにできるってことか。
経験的には開拓の方があるから速度をあげるという点では楽だろうけど、難民っていうのはただでさえ厄介事が頻発するところに、難民の内容が滅びた世界の総人口そのままっていうわけだから絶対厄介なことになるよね。
ロマン的には宇宙の方に行きたいけれど、ブロブの襲撃頻度が高いことが予想できるし、アングロサンの人たちが満足できるだけの居留地を建造できるのか、そもそも大陸の宇宙にどれだけの鉱物資源があるのか不透明なところも多いから色々と難航することが予想できる。
まぁ……アングロサンに対して睨みを効かせるためにササヤさんが待機するわけだし、最悪ササヤさんが分身殺法とか気合で習得してくれる……。
「いやササヤは確かに強いが分身とかできんからな」
「脳内で納得するためのジョークにツッコミ入れないで!」
「でも分身か……ちょっと練習させてみるかな」
どうやら余計なことを言ってしまったようだ。
あのササヤさんが分身とか習得してしまったら一体どうなってしまうのか、焚きつけた形になってしまったイネちゃんでも戦々恐々な気持ちになってしまう想像しかできない。
「ま、ササヤのことは置いておいて、イネ嬢ちゃんがそんなことを考えたってことは……」
「まぁ……対アングロサン抑止でササヤさんをってことなら実質そっちはササヤさんが対応可能ってことですし、そこにココロさんとヒヒノさんが自由に動ける状況って形になるでしょうから、イネちゃんが難民の人たちの最低限を整えるお仕事をしたほうが無難……いや後々を考えると1番後で楽ができる流れなのかなって」
受けないという選択肢もなくはないけど、その選択は絶対後で仕事量が倍増になって、しかも受けざるを得ない状況に追い込まれそうだしね、だったらあらかじめ面倒の種は間引いて楽になるだろう可能性の種は蒔いておいた方がいい。
「よし、それじゃあイネ嬢ちゃんは自分たちの裁量でお願いするんよ。ただまぁできれば今月中には出発して現着、開拓補助について欲しいところとは言っておくんよ」
「随分ゆっくりできるんですね」
「問題になってるのはあっちの階級制度そのままで持ってきたことによる分裂やからな。その手の対応に慣れてるのを送り込んでるからまだ大丈夫よ」
階級制度そのまま……政治的な内容は全部今送り込まれてる人に丸投げするにしても、面倒になりそうな予感しかしないよね。
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