第135話 高天原

<<ファフニールもどきと……なんだあのアニメから飛び出したような人型キメラは、物理法則なぞこれっぽっちも考えてない!>>

<<おい、あっちが有人で聞かれてたらどうすんだ>>

<<構うものか……いや、ちょっと待て。この反応……あのキメラからぬりえと同波長の反応だと?>>

 突然現れた人型……高天原を名乗った機体は国際救難チャンネルで雑談を垂れ流している。

 どうやら最低でも2人、つまりは複座なんだろうけど……それよりもその1人である女の人の声が言ったファフニール、確かニーベルンゲンの歌に出てくる邪竜の名前だったはずなので恐らくはこのでかいメタルドラゴンのことで、キメラ扱いされたのは私のロマンのこの子のことだというのは推理できる。

 しかもその女の人はそれを言った上にヌーリエ様の名前っぽいものを口にしたわけで……とりあえず通信に答えてみるのが無難かな。

「えっと、高天原……だっけ。とりあえずここは大陸という世界で、地球にはゲートで繋がっているけど日本どころか地球全体を見回しても巨大人型ロボットなんて運用している国はないし、人型であること自体が兵器としては不合理でロマン以外の理由で採用する理由はないと思うのだけど……あなたたちは一体何者?」

<<キメラの方から通信が帰ってきたか……>>

<<地球に繋がっているのか?>>

<<狼、そう簡単に信じるのは>>

<<ぬりえの波長と同じだったんだろ?なら最悪にはならないだろ>>

 どうやらあっちの言うぬりえっていうのはヌーリエ様に近い存在らしい。

 波長というものがどういう意味なのかはわからないけれど、少なくともあちらの言うぬりえと勇者の力を全力活用中の私が同じだと勘違いする程度にはヌーリエ様みたいな存在との交流と知識があるわけだ。

「ともかくあれを止める必要がある。建造中の軌道エレベーターに一直線で向かってるから、止めないと破壊されるし、下にそれなりの人数の人がいるから」

<<了解、だが俺たちは漂流者だ。どちらに偏りすぎて後々不利になるっていうのはごめんなんだが……>>

「それならあっちはどうにも有人か無人かわからない状態だし、こっちも破壊Onlyって形で動いてるわけじゃない。無力化できる手伝いをしてくれるだけでいいよ」

<<なる程、手伝いだけでいいのなら問題ない>>

<<許可も出たか、だが竜相手に生け捕りとなると……>>

<<魔獣、神獣の類を捕縛しておく神話の道具ならあるだろう、北欧神話に>>

<<だがあれを実際に使ったのって、どれだ?>>

<<構わん、あいつが使っていた神を使え……この状況を納得しているようだからな>>

 私には何が何だかわからない会話の後、それは聞こえてきた。

<<ひもろぎシステム、コード:オーディン>>

 その機械音声のような声が聞こえた直後、高天原の外見が変化……いや変形していき、どこをどう質量補完していたのかって感じの変化をした後、これまたどこに収納していたのかってレベルで巨大で長大な紐を出した。

<<グレイプニル……これだけで拘束できれば御の字か>>

 グレイプニルって北欧神話に出てきたフェンリルを束縛する道具だったっけか……あ、私がそのへん詳しいのはコーイチお父さんの影響なので色々と間違えないように。

 それはさておき、高天原の出したグレイプニルによってファフニールもどきと呼ばれたメタルドラゴンの動きが鈍くなる。

<<くそ、鈍らせるだけか!>>

<<機体が万全じゃないんだ、それに私たちは手伝いできればそれでいいのだからこれでいい。ではキメラ、任せた>>

「任された……と言いたいところだけど、こっちの切り札はさっき諸事情でダメだったんだよなぁ」

<<じゃあ無計画の無策か?>>

「破壊するのなら楽なんだけどね。捕縛……しかもここまで動きを鈍らせてくれたのなら色々と色目が……ってマズ!」

 動けなくなってメタルドラゴンの方は焦ったのか、その口を軌道エレベーターに向けて広げてチャージを始めた。

『熱量がちょっとまずい』

「全力で防ぐよ!」

<<おい、そのエネルギー量を防ぐのは無理だ!>>

「だからって諦めるわけにはいかないからね。大丈夫、初撃にもらった奴の倍を防ぐ前提でやるから!」

『ミスリルを伸ばして地面に突き刺すのは間に合わないよ、どうする?』

「軌道エレベーターに接触する。それなら地面に立ってるのと変わらないから!」

 変形して軌道エレベーターに向けて、先ほどの加速を上回る速度でブースターに火を入れる。

<<おい、防衛目標に向かってどうする!>>

<<いや……ろう、行かせろ。あれのパイロットがぬりえと同質であるのなら勝算あってのことだろう>>

 うーん、やっぱりぬりえってヌーリエ様のことかな……私の中の勇者の力が肯定も否定もしない……のはまぁただの力なのだから当然なのだけど、その力を運用している人間としての感で言えばどっちとも言えないという感覚になってモヤっとする。

 とはいえ気難しそうな女の人が信用とまでは言わないにしても信頼してくれたのだからこちらとしてもそれに答えるしかないって奴だよね。

『距離的にもう逆噴射!』

「了解、人型で姿勢制御しながら着地する!」

 機体をひねりながら軌道エレベーターに脚部を向けて人型に変形し、あえて架空金属粒子による空気抵抗軽減をなくして急制動、同時にブースターもふかしながら速度を落として感性を殺して勢いよく着地する。

 その影響で軌道エレベーターの外壁の一部が剥離しそうになったけれど、全力で力を使って剥離仕掛けていた部分をミスリルに変換し、機体をビームから守る形で架空金属粒子の能力を100%発揮できるシールド状のものを複数生成して架空金属粒子を利用して複数展開……を初撃の時の3倍ほど用意してビームに備える。

『相手のビーム、着弾……今!』

 イーアの観測は正確で、今!の言葉と同時に一番外側に展開していたフィールドにビームが当たり、打ち消しきれなかった分が減衰しながらも更に後ろに展開していたフィールドへと当たっていき数枚のフィールドを残しビームを受け止めるのに成功した……はいいのだけれど、照射時間が長かったためか最初にビームを受け止めたフィールドが破壊される。

<<ふむ、少し計算してみたが……>>

<<どうした?>>

<<良い情報と悪い情報があるが?>>

<<良い方から、悪い方も続けて教えてくれ>>

<<このペースなら軌道エレベーターへの被害は軽微だろう、精々外壁を多少溶かすか焦がす程度だろう。悪い方はあのキメラ本体もビームに飲まれる>>

<<俺たちにできることは?>>

<<ないことはない。だが博打……ちょっと待て、生体反応が登ってくるぞ!>>

<<精霊機か!?>>

<<いや、生身だ!>>

 今の私にしてみれば少々雑音になる垂れ流しの通信からの情報を聞いて無意識に地上の方向へと視線を向けると、確かにそこには綺麗と表現するのがしっくり来るような和装……というには少々着崩れがひどいし、端々の特徴からすればベースは巫女服のようなものであるのは想像できなくはないがあまりにカスタマイズされていて断定も難しい服を身に纏ったココロさんが、空中で空気を蹴る形で文字通り高高度と言えるこの高度まで上がってきている姿が飛び込んできた。

「遅れて申し訳ありませんが、騎兵隊の役割はしっかり務めさせて頂きますのでご安心ください。そちらの方もご助力ありがとうございます」

 直接頭の中に囁くような感じでココロさんの言葉が聞こえると、ココロさんはいつもの棒でビームを斬ると同時に発射方向へと投げた。

「なる程、あの火吹きトカゲもどきは無力化にこだわればイネさんには厳しい相手のようですね。それとこれは叫びではなく、怒号……人種というものに対して悪意と殺意を声高らかに発しながら実行しているだけに過ぎません」

<<オープンチャンネルにする。あのデタラメな超人にも聞こえるように……>>

「そのままでも問題ありません、今の状態であれば聞き取れますので」

<<ファンタジーすぎるだろう……>>

「そういうわけですのでイネさん。あれはムーンラビット様やフルアクティベートをした私の力でも流石に和解は難しい……いえ物事は正確にですね、はっきり申し上げれば不可能です。そしてあれの声が原因で火吹きトカゲが暴走しているようですので、彼らの尊厳のためにもあれは許してはいけない存在ですので……やっちゃいましょう」

<<ちょっと待て、調査などはしないのか?>>

「できればしたいのですが稼動状態で放置はできませんし、あの声を止めない限りはイネさんの勇者の力による無力化も困難ですので……」

<<手段がないというわけか……なら調査の手伝いを申し出てもいいかな。無論無力化の手伝いはさせてもらう>>

「そちらには何か手段が?」

<<あれがこちらの知る機体をコピー、または模したものであるのであればだがな。完全に消滅させるのはそれを試した後でも構わんだろう?>>

「なる程……承知しました。でしたら協力をお願い致します」

<<助かる……しかし1つ疑問を答えてもらってもいいか?>>

「はい、なんでしょうか」

<<どうやって空中に浮遊しているんだ?>>

「高速で空気を蹴ることにより圧縮されたソレを足場にしております。重力に負けない程度でしたらこの状態の私なら陸上を走るのとそう変わりませんよ」

<<聞いたこちらが悪かった。では始めることとしよう>>

<<もう全部ファンタジーで片付けておけよ……まぁ、神獣捕縛から竜退治に目的変更する>>

 なんだか女の人とココロさんの会話に入れないまま状況が変わったけれど……まぁなんというか、うん、シンプルになったからよしとしておこう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る