第136話 救世の者たち
<<生体反応がない以上狙っても仕方ないとは思うが、まずはコックピットを狙うぞ>>
<<了解、せっかくオーディンの力を借りてるんだ、アレを使わせてもらう>>
まずは高天原がこれまたどこから取り出したのかわからない槍を投げてメタルドラゴンの首の付け根の部分を攻撃、貫いた。
しかしメタルドラゴンは動きを止めず、どこからエネルギーをバイパスしているのかわからない状態でもその口からビームを吐き出すと、それを私がさっきまで軌道エレベーターを守るために使っていたシールド型の自立兵器で受け止める。
『出力は落ちてる。なんだかんだで重要な場所……って普通重要だよね、あそこは』
「首の付け根だからね。生物ならもう終わってるね」
<<次は
「ではそれは私が担当しましょう。そのスピリットエンジンというものはどこに?」
<<腹だ。私たちが知っている機体と同一であるのならそこに動力を積んでいる>>
「分かりました。では援護をお願い致します」
それだけ言うとココロさんはメタルドラゴンに1発蹴りを入れて、お腹を狙いやすいようにしてから棒でひと突き。
棒の形でメタルドラゴンのお腹に風穴が開くと……。
「イネさん、ピンポイントに狙えますか?」
といきなり振られてしまう。
「いやいきなりそんなことを言われましても……ロマン詰め込んだからそんな精密攻撃……いやできなくはないのか」
コックピットハッチを開き、ココロさんの開けた風穴にぶち込めるサイズの超大火力武器であるアンチマテリアルレールキャノンを生成して構える。
「じゃあイーア、機体の固定は任せた」
『わかったけど……反動までは殺せないからね』
「十分」
1度使って以降は結構便利に使ってはいるけれど、超電磁加速の電流によって弾頭内部の炸薬が暴発しないように空気や水と言ったものが使えない弾頭の炸薬を囲んでいる金属部分を勇者の力で常に絶縁性能が無くならないように調整しているのでかなり繊細な武器なんだよね、これだけ作って他の人に渡したら、使おうとした人が吹っ飛ぶくらいの危険物である。
但しそれだけの苦労をするだけのことはあり、貫通力は地球にある既存の対物銃よりも高く、炸薬は勇者の力による特製で爆発力は自由自在、更には2km超の射程を保ちつつ即着弾くらいの速度を確保できるすぐれものなのだ。
<<なんだあのデタラメなものは……なぜ暴発しない……>>
<<あー……もうファンタジーってことで思考放棄しとけ>>
何やらオープンチャンネルで聞こえてきたけれど気にせずに十分に帯電できたので引き金を引く。
電磁加速された弾丸はメタルドラゴンの身をよじる間も無くココロさんの開けた穴を丁寧に進み、中心部辺りで破裂するように時限信管を設定しておいたので……。
「爆発、今!」
その合図と同時にメタルドラゴンから爆発音がして、ココロさんが開けた風穴から少し爆風が漏れ出たものの、メタルドラゴンが全壊しない程度の炸薬量を、相手の装甲……1度だけ当てることができたミスリルからの情報で確保しておいたので内部だけにダメージが入る程度だったので、外見はダメージを受けたのか少しわかりにくいけれど……。
<<おい、これは少々やりすぎだ……>>
<<ま、色々手間は省けたんじゃないか?ファフニールもどきの高度が落ちて……って本当に落ちてやがるな>>
「まず!下には……」
「大丈夫ですよ、私がいるのですから当然師匠もいますので」
「あ、それなら慌てる必要はないか……ところでココロさん、乗ります?」
<<なんでそんなに落ち着いているんだ、下には民間人もいるんじゃなかったのか?>>
至極当然なツッコミをされているけれど……なんて説明したらいいんだろうか。
「そちらの方々も大丈夫です、安心してください。下には私の師匠がいますので絶対安全です」
<<絶対という言葉の方が信用できないぞ>>
「あー……ココロさんの師匠に関してはなんというか、それ以上に言うべき言葉が他に見当たらないので、大丈夫です、はい」
<<今以上のデタラメなファンタジーがいるのか……>>
<<だからもう思考停止しておけって>>
うん、まぁ……ササヤさんに関してはもう完全に思考停止しておいたほうが絶対的に楽だからね、今のこの流れにしておいたほうがいいからね、本当。
「とりあえず降りましょう。イネさんも相応に消耗していることでしょうし軌道エレベーターの被害の調査は後日でいいでしょう」
<<そういや1つ気になってるんだが、やってることや言ってることはファンタジーなのに軌道エレベーターやら人型ロボやら銃なんて現実的な単語が混ざるんだ?>>
高天原に乗っている男の人の方が質問をしてきた。
「その説明に関してはムーンラビット様にされるといいでしょう。大陸で最も知識を持たれている方ですので」
<<いや、答えられねぇのか?>>
「答えることはできなくはないですが……望まれている答えを的確に欲されるのであればやはりムーンラビット様にお聞きになるのが最適解ですので、余計な先入観を持ってしまうと情報を正しく受け取れないこともありますし」
<<だがこちらが安心感を持てる程度の情報開示はしてはもらえないだろうか。何せこの世界には先ほど漂流したばかりで右も左もわからないのだから、せめて安全である確証が欲しい>>
「……確かに、こちらの配慮が足らず申し訳ありませんでした。この世界は大陸。ヌーリエ様により様々な加護を受けし世界です。そうですね……差し当たって伝えておくべきことは、地球の方が最初に訪れた際に起きたことですが放射性物質と呼ばれるものが地表に存在致しますので、その耐性がなければその機械の外に出るのは都市規模の人里以外ではしっかりと調査をなさってからの方がよろしいかと思われます」
<<地表に不安定な重金属とは……よく生命体が存在できるな>>
「ヌーリエ様の加護ですよ。それにこの世界の放射性物質と呼ばれるものは地球のものとは違い安定しており、性質はほぼ同一と聞きましたよ。ただそれでも放射線と呼ばれるものは出ているようですので、それが有害な世界からの訪問者であるのであれば警戒することに越したことはないでしょうしね」
<<なる程、あれだ、ファンタジーだな>>
男の人は順応性が高いというか……思考停止レベルがちょっと高すぎないかなって思うよね。
「あぁそれと……私の名前は築防ココロと申します。今姿はありませんが双子の妹のヒヒノは今私と一体化していますが、しっかりと情報は共有できておりますが、姿が見せられない失礼をお許しください」
<<うん、ファンタジーだ>>
完全に思考停止しておられる……ファンタジーを言う機械になっていないだろうかちょっと心配。
「所属はヌーリエ教会ですが、勇者であるため完全に組織に組み込まれているわけではありません。最も、生まれと育ちが教会ですのでどうしても思考や価値観は教義に寄ってしまうところはありますが」
<<物腰から推察するにお嬢様かしら、教育の内容は別にしても相応の礼節を身につけているのだから私なんかよりも圧倒的に上等な教育を受けているように感じたから>>
「お嬢様……と言われれば確かにそうですとしか答えられませんが、あまり民間の方々と比べても教育に差異が大きくないようにとの方針がありましたので」
「まぁ……教育機関に関して言えば寺子屋ならぬ教会屋みたいな感じで施工されてるから、基本的な教育方針とかはヌーリエ教会がある場所なら変わらないらしいよ」
<<宗教国家か……>>
「大陸以外の世界ではそれはあまりいい意味を持たないことは存じています。ただヌーリエ教会の教義において最も重要なところは皆笑顔で仲良くですので、お客人にも笑顔でいてもらうのが第一ですよ。最も、例外もありますが」
<<明らかに殺意と悪意濡れの連中だけにその例外が適応されることを願うよ>>
「そこは言葉を尽くしたところでご満足は頂けないのが心苦しいですが、最大限の努力は致します」
<<とりあえず布団で眠れれば俺は満足するけどな>>
<<まぁ……そうだな。計器類はあれから半日しか経っていないが、私たちの消耗はかなりのものだからね。あれこれ言ったが、衣食住が保証されるのであれば飛びつきたいのは事実だよ>>
ココロさんからヌーリエ教会の教義を聞いた後から、女の人の明らかに警戒してますっていう声色からかなり落ち着いていたような声色に変わった……ぬりえって人もヌーリエ教の教義のように皆仲良くって人だったんだろうか。
ともあれイネちゃんとしては怒涛の畳み掛け……いやフラグ回収となったこの日を乗り切れたことにホッとしながら着陸に備えるのであった。
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