第133話 上空圏の状況確認

「大気圏突入は問題なかったか」

『私が寝ている間にここまでガッチガチなのを作ってたことにドン引きしてる』

「でも嫌いじゃないんでしょ?」

『まぁ……っと、すぐに戦闘機モードに変形して、キュミラさんとウェルミスさんの戦闘空域に入る』

「了解」

 まぁこんな1人脳内会議をしておきながらも、可変するのも勇者の力で制御するので会話が終わる時には既に変形を終えていて既に空中制動に入っていたわけだけど……。

「まず、機体が重い」

『詰め込みすぎだからね、ミサイル分軽くなってるとは言っても今度はミサイルを収納していた場所がデッドスペースになってるわけだし……パージする?』

「パージできるのは脚部の外付けくらいで他は装甲と推進能力と同居してるから無理だよ」

『なぜそんな無駄なところまで再現したのか……あぁロマンだからか。とにかく脚部の奴はバックパックのほうのミサイルに変換しておくから、ミスリルを利用してでも制動して』

「まぁ……ジェットするよりは無難だよね、知ってた」

 この重量と巨体をジェットだけで大気圏内運用するロマンは別の機会にするとして、今は状況打開にするためにロボットの巨体による威圧効果を狙っていく。

 最も、火吹きトカゲに関してはやらざるだろうから、可変状態でもいくつかの高火力武装は使用できるようにしておいたので申し訳ないけど1匹か2匹には今夜の食材になってもらう方向で状況を確認する。

『イネ!上昇!雷撃がくる!』

 イーアの忠告と同時に反射で機体を上昇させると、その直後に軌道エレベーターの辺りから扇状に雷撃が広がって範囲内にいた火吹きトカゲが一部は感電、一部は焼け焦げて地上へと落ちていくのを目視で確認してしまった。

「今のは……」

『多分ウェルミスさん。軌道エレベーター近く、今の雷撃が放たれた付近にキュミラさん以外のハルピーの姿が確認できたから、固定大砲したんだと思う』

 なる程、火吹きトカゲの群れの撃退はちょうど終わるタイミングだったのか。

 ともあれこれなら一度状況整理のためにウェルミスさんなりキュミラさんと会話する余裕があるはずだし、人型に変形してから近づこうと思ったタイミングに。

「えーっと……イネさん、ッスよね?」

 そして変形しようとしたところにキュミラさんと思われる声が聞こえたわけで……。

 流石に変形を止められるタイミングではなかったので勢いよく変形してからミスリルを機体の下に広く展開して空中に静止してコックピットを開く。

「キュミラさん!?」

「いきなりびっくりしたじゃないッスか!というか当たるところだったッスよ!」

「ごめんごめん、上空戦線の状況はどうなってるの?」

「今の一撃で大体終わりッス。ところでそれ、なんッスか」

「かっこいいでしょ」

「いやその大きさって作るの時間かかるってイネさん言ってたじゃないッスか」

「そうだよ、宇宙で戦うことになる可能性が高かったから軌道エレベーターを作るついでに作っておいたんだよ」

「うわ……」

 キュミラさんがドン引きしてきた。

「いやね、一応必要もあったからだからね?」

「具体的にどういう理由ッス?」

「酸素。生物が活動するのに必要な空気の確保だよ。人1人分の機密を確保することもできたけど、それだとイネちゃんの勇者の力は殆ど使えなくなるからね、いっそここまでやっちゃったほうが戦闘能力を落とすことなく運用することができるからって理由だよ」

「本当ッスかぁ……?」

 ものすごく疑われてしまった。

 いやまぁ半分以上ロマン実現のためだったからある意味で仕方ないけれど、キュミラさんがどうにもイネちゃんの趣味嗜好を一緒にいた面々の中で一番理解している節もあるし、非常にイネちゃんとこういう感性が近いのかもしれない。

「イネさん!」

「お、残存掃除終わったみたいッスね」

「ウェルミスさん、状況は?」

「火吹きトカゲの攻撃に対しては撃退はできました。ですが風の声を聞く限りまだ何か起きるかもしれません」

「何か?」

「それが何か私には答えられませんが……少なくとも敵意……いえ、叫びが聞こえているのです。そしてそれはこちらに向かっています」

 風の声で、その内容は敵意ではなく叫びか……詳しくはわからないけれどどうやらウェルミスさんには心当たりのようなものがあるように感じる。

「それでも一度降りて休息を取れるなら取ったほうがいいんじゃないかな」

「……はい、そうですね。少なくとも盾であり壁になってくれていたハルピーの方々には休んで頂いたほうが良いとは思っています。ですが地上の方は空間的な戦闘ができない上に広範囲攻撃を行える方がミミルさんのみということもあって苦戦しているようですから……」

「そっちはイネちゃんがこいつで降りれば、少なくともどっちかは撤退判断させられるんじゃないかとは考えるけど……でもウェルミスさんが休めないか」

「イネさんも休めないのではないですか?」

「んー、一度作ったものを運用するだけなら楽だからなぁ。まぁ確かにこいつを動かしたり飛ばしたりするのは勇者の力で制御してるし、多少疲れるのは事実ではあるけどこの程度なら問題ないよ」

「いや、終わったらすぐに建築の方をやらないといけないからじゃないッス?」

 あぁそういえばそうだ……というか多重襲撃をなんとかすることを優先してたから破壊したハッチの方も直してないんだよね、機能停止したブロブは集めて軌道エレベーターにくっつける程度のことはしておいたけど。

「どのみち地上の援護は必要だし、追加で襲撃があるようなら一応予定を前倒しに進めていたこともあって今日は作業中止しても問題ないから、いっそそうしてもいいんだけど……」

「そうした場合、今後襲撃が激しくなった場合が大変になりますよね」

「来ると思う?」

「少なくとも私たちが担当した場所では……いえ、既に第2波が来たようです。イネさんは地上を……」

「いや、会話してる間ウェルミスさんの表情を見てたけどここはイネちゃんに任せて下に降りて。場合によってはブロブももう1度来るかもしれないし、そうした方が効率が良くなるからさ」

 最も、そうなったら割と状況的には真っ赤もいいところなんだけど、それでも消耗戦になってウェルミスさんが戦闘不能になったときの方が押し返しが難しくなるし、それこそシックから誰か強い人がこない限り状況打開が難しくなる。

 高度1kmくらいの時点で地球の最高高度である山よりも酸素は薄いし、本来なら人間であるウェルミスさんがまともに動けること自体がファンタジーそのものなんだけれど……だからこそそのファンタジーを体現できる人が来ないと厳しい。

 まぁ来たらきたで単騎で無双して軌道エレベーターの建造の続きをすぐに始めることになるわけで……そうなると流石にイネちゃんはともかく他の人の疲労がそろそろ限界になるんじゃないかって心配があるんだよね、イネちゃんは数日の間皆が色々気を使ってカバーしてくれたこともあって作業のコツを掴んだ上に日記を書くだけの余裕もあるからね、なら皆に恩返しをした上でイネちゃんのおやすみも獲得するという目標を目指すだけ。

「特にウェルミスさんは休息を取ること。ノオ様の加護が強いって言ってもこんな上空で気を失ったら確実に死ぬでしょ?」

「それは…………はい」

「だったら今すぐにでも降りて休憩。顔、結構青いよ」

「んじゃ私たちは降りるッスから、イネさんお願いするッス」

「え、キュミラさんちょっと……」

「皆さんも降りて休憩ッスー、ここはヌーリエ様の勇者様に任せるッスよー」

 キュミラさんが強引にウェルミスさんの方を足で掴んで軌道エレベーター周辺で待機していたハルピーの人たちもキュミラさんの言葉を聞いて地上を目指し始めたのを確認した。

「キュミラさん、お願いね」

「了解ッスよー。下には申し訳ないッスがまぁ援軍が来るまでは持つと思うッスし、何より血気盛んな連中が勝手に手伝うと思うッスから安心して暴れちゃってくださいッス」

「うん、わかった。それじゃあ……やりますかね」

 キュミラさんと会話している最中に機体のカメラがこちらに近づいてきている何かを捉えていたので背部にマウントしておいたバズーカを構えて降りていく2人、特にウェルミスさんに安心感を与えるために牽制に時限信管で1発射撃しておく。

『ウェルミスさん大丈夫かな』

「キュミラさんに任せれば大丈夫でしょ。あれでなんだかんだ肝が据わってるときは頼りになるし……それに逃げる行動だからさ」

『納得した……爆発、今』

 イーアの言葉と同時に牽制で発射した弾が爆発した。

「あれは……」

 そのバズーカの爆発は向かってきているものを照らすように後方で爆発していたのだけれど、こちらに向かってきているもののシルエットが火吹きトカゲのものとは明らかに違っていた。

『キュミラさんたちは既に影響範囲外!』

 イーアの言葉を合わせてビームライフルを出力を上げて、今度は直撃コースで発射する。

『……防がれた、今の縮退率と出力が防がれるのであればアングロサン文明の標準防御機構』

「……有人だと思う?」

『でなきゃウェルミスさんが叫ぶなんて単語を選ばないと思うよ』

「了解、相手の自由を奪って止める」

 向かってきているのは、機械仕掛けの巨大なドラゴン……大陸に住んでいるドラゴン族とは違って、地球のファンタジーに出てくるような爬虫類の延長の姿で、大陸で言えば間違いなく火吹きトカゲとほぼ同一の姿をしている存在が口を開いてイネちゃんに向かって極太な高出力ビームを発射してきたのだった。

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