第132話 イネちゃんと巨大人型兵器

『イネ、1つ聞くけどこいつのデザインって……』

「思いつかなかったからアングロサンのアグリメイトアームとコーイチお父さんの持ってるアニメをごちゃまぜしてちゃんと物理的に動くようにしただけ!」

『だと思った、だって明らかに必要のないものとか結構ありそうだし……』

「流石に内部構造までは詳しく調べること出来なかったし、全部勇者の力で制御するスタイル。というか戦闘機作った時だってアレコーイチお父さんの持ってたマニアックな本がなかったらそうしてたし」

『いや実際制御系再現できなかったから結局勇者の力だったじゃん』

「起動してさっさと外のブロブ駆除しに行く!」

『はぁ、了解了解。じゃあいつも飛んでる時みたいな制御するから、戦闘は全部任せた』

「宇宙にあがるまではそれで了解!」

 勇者の力を発動して軌道エレベーターの更なる上層、成層圏から上、宇宙と呼べる領域に向かって上昇していく。

 ちなみにイネちゃんの好きをぶち込んでいるので、現実で見たことのあるアグリメイトアームという巨大人型兵器の面影はあまりなくって、重装甲、超火力、高推力というロマン溢れる仕様で、見た目も結構ゴツめにさせてもらっている。

 更に言えばそこに他のロマンを追加して変形して大型戦闘機形態にもなれるという男の子の夢とも言っていい代物に仕上がっているのだ!

 ……いやイネちゃんは男の子じゃなくて女の子だけどね、周囲にあった娯楽が基本的にコーイチお父さんのものとルースお父さんのものが中心で、女の子が好きそうなものはステフお姉ちゃんのものが本当に少しだけだったからでね、しかもステフお姉ちゃんは学者寄りであまりサブカルチャーには触れてなかったからイネちゃんの趣味嗜好もそっちに寄っただけなんだよ、本当だよ。

 まぁそういうのはどこかに置いておいて、変形してまずはブロブが入ってきた穴を塞ぎに向かう。

『メンテナンスハッチから入ってきた感じかな』

「そこが一番装甲薄いしね。低軌道ステーションは少しでも衝撃を受けたら即防御体制に入るようにしておいたし、そっちの超硬質ガラスを割ってきたってことはないと思う、ブロブのビームに耐えられる強度は準備してたから」

『……うん、確認した感じ低軌道ステーションは無傷ではないけど迎撃用のターレットもまだ稼動して迎撃してる。やっぱり低軌道ステーションの真下に作ったメンテナンスハッチからだね』

 これだけ大きな構造物のメンテナンスを行うため、アングロサン側からメンテナンス用アグリメイトアーム……正確には工業用のそれはメンテナンスアームというらしいけど、総称がアグリメイトアームだから問題ないらしい、紛らわしい。

 つまりは今イネちゃんが乗っている巨大人型ロボでも問題なく出入りできるだけの巨大な扉が存在している。

 縦30m、横50mくらいの大きさにしているし、他の装甲にも遜色ないくらいには防御力を確保したつもりではあるけれど、結局は稼動部分で耐久面で他の部分よりも劣ってしまうのは仕方ないとしてそのまま軌道エレベーター建築を優先したわけだけど……。

『トラペゾヘトロンかな、あの超絶不安定物質なら何かしら科学領域を飛び越えて超常で攻撃できてもおかしくないし』

「多分あれの運用は宇宙がメインだろうしね」

 まぁ元の持ち主であろうニャルラトホテプさんとクトゥさんは完全にこちら側……って言っていいのかな、特にニャルラトホテプさん。

 ともあれどういう意図かは……ムーンラビットさんがいるからこその友好的態度だろうし、ムーンラビットさんが関与しない場所では逸話通りに振舞っているかもだからこう、信用はできるけど信頼は置けないっていう難しいところだよね、ニャルラトホテプさん。

 最も、この軌道エレベーター事業に関して言えばムーンラビットさんが関与しているし、万が一ニャルラトホテプさんの攻撃だった場合、ヌーリエ教会側から何かしらアクション……具体的にはササヤさんが既に到着して解決するくらいの勢いがあってもおかしくはないのでニャルラトホテプさん黒幕説は一旦思考から外す。

 となればブロブを使って攻撃してきたのは、完全にイネちゃんたちが知らない別勢力か、イネちゃんが想定した最悪の1つであるアングロサンの排他的政治勢力が自分たちの手駒としてブロブを運用しているパターンだけど……それはそれで火星と木星、最低でもその2つに敵対行動、つまりはアングロサンの内部で武力衝突が起きていることになるわけで……そのパターンは本当に面倒なので知らない別勢力でお願いしたいところだよね、構図が単純になって今後の方針も決めやすいし。

『ハッチ、こじ開けられてるね。電動式の稼動部分が破断して変な形になってる』

「となると……吹き飛ばすしかないかなぁ。全部ミスリルなりに変えて新品に取り替えるにしても時間かかるし」

『それも後々面倒だけど……』

「修復にはブロブを使うよ」

『それならいいか、エコだし』

 まぁ、大陸の宇宙がどうなっているのかっていう部分はあるから、その様子次第ではそのへんのデブリとかを利用してもいいしね、宇宙の特性自体は地球やアングロサンとほぼ同一らしいし、天体状況が大きく違うと考えるべきだろうからそれこそ見てみないとわからない。

 普段イネちゃんが使っているビーム兵器を巨大化しただけの……っていうとちょっと語弊があるのだけれど、ともあれ効果的には同じ、大きくなった分だけ出力を増加することができたのでいつも以上に大質量高威力のビームを発射して軌道エレベーターのメンテナンスハッチ、一応は機密ハッチにあたるけれど、既にブロブに開けられているので気圧は気にせずに吹き飛ばした。

 下に広がるのは緑の大地、青みを帯びた空間……そして上には数多の光を携えた漆黒の空間で……。

「うん、月は確認可能だね」

『見上げたことは殆どなかったし気にしてなかったけど、複数なのかな』

 イーアの言ったように、今視界に捉えることができる範囲にすら複数の月が確認できる。

 まぁそのへんは後日暇なときに調べたりするだけでいいとして、今はブロブを撃退して早く下に援軍として向かわないといけない。

『感知はちょっと厳しいけど……視覚センサーと動体センサー、一応ブロブが推進能力を持っていることを考慮して熱源探知もしているけど……熱源は太陽光が出た瞬間役立たずになるからあまり役に立たないと考えて』

「やっぱアグリメイトアーム、しっかり調査させてもらえば良かったな……宇宙文明なんだから宇宙で有効活用できるレーダーやセンサーの類があって然るべきだし」

 実のところ地球の技術でもレーザー通信を活用する方法で距離などを測ることはできる、できるのだけれど流石に高機動戦闘中にそれを活用できるのかって言われると軌道エレベーターと一緒に作っておいたものではあるけど、本来なら内部構造の機械も含めて数ヶ月……量産ラインが整っていて大量生産が可能な状況を作り出せばひと月か戦争時のような有事であるのなら粗悪品が出てもいいとして生産すれば2週間もあれば作れるけれど、イネちゃんが今乗っているこれは完全ワンオフ……俗に言うところのスーパーロボットみたいなところがあるので実際に建造するのであればそれこそ年単位が必要というか作れる文明を探すところから始まるわけで……。

『イネ、思考がすっ飛んでる』

「あぁごめん。でもセンサー回りだけでもアングロサンの人たちに提供してもらわないとなぁ」

『別に地球の高解像度のデジカメでいいってお父さんたち言ってなかったっけ』

「そうだっけ?」

『うん、でも今はブロブ。とにかく大陸の宇宙を守らないと』

 それもそうだ。

 イネちゃんの気が抜けているのかわからないけれど、なんでか関係ないことを考えてしまう。

『気が抜けてるっていうよりはイネ、テンション爆上がりしてるだけでしょ』

「……そんなに上がってたかな?」

『さっきから思考がこのロボットのことに関連してるもの。まぁ気持ちはわからないでもないけどさ』

「ごめんごめん。でも外に出たから軌道エレベーターの状況はちょっとわからなくなったし、ここから気を取り直して……見える範囲にミサイルパーティー!」

『うん、すごいテンション高い』

 呆れるイーアとは別に肩部脚部胸部バックパックに作っておいた小型ミサイルを全弾掃射する。

 ブロブの数も多いし敵の位置が把握しきれない以上は空間制圧したほうが無難なのでこれは仕方ない、決してロマン追求した結果ではないことを記しておく。

 追撃に両腕部に折りたたみ式で備え付けておいた大口径2連装ロケットキャノンを軌道エレベーターを巻き込まない場所に時限信管で撃ち込んで徹底的に空間制圧する。

『ねぇ、ちょっと今のロケットキャノンは何かな。爆風がやたら大きいんだけど』

「核じゃない手段で可能な限り威力を上げてみました。自爆しないように初速から最高速になるようにアンチマテリアルレールキャノンと同じ方式でやってみたんだけどどうかな」

『どう考えてもオーバーキルというか不必要だよね』

「いやぁ、ここまでロマンを詰め込んだのなら行くところまで行っちゃおうかなって」

『能力の無駄遣い……まぁ今まで効率求めすぎてたところもあるし、今は皆も数的不利ではあるけど籠城すれば確実に守りきれる状況だからわからないでもないけどさ、私らが戻るのが早いに越したことないんだからね?』

「まぁ今のでブロブの大半はやれたはずだから、殲滅戦、しよ?」

 先制を取れたこともあり、このあとめちゃくちゃロマン無双した。

 流石にブロブのビームを無効化できるレベルの装甲にしたのはやりすぎだったかもしれないと思いつつ、軌道エレベーターの損傷を確認してから地上を目指すしたのだった。

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