第131話 同時多発的襲撃
日記を再開できた翌日、それは起きた。起きてしまった。
「現状報告!」
「北の方から野盗……じゃねぇな、明らかに訓練された軍勢がおよそ100、東から野盗、ちょいと現状戦力で全力防衛できるのなら余裕ってところだが……」
「いやぁ……私が飛べる範囲にもブロブがいるッスからイネさんはそっちに行ってもらわないと無理ッスよ」
「ついでに言えばキュミラさんを含むハルピーの人が飛べる限界高度よりちょっと下付近に正気を失った火吹きトカゲ群れが……」
とまぁ先日の会話をフラグと捉えた場合、全回収というわけではないけれどもニアリーイコールにぶち当たったような畳み掛けるような展開が現在進行形で押し寄せてきているのである。
「となれば援軍要請にはリリアちゃんとヨシュアの坊主。対軍隊には俺とロロ、野盗にはティラーのおっさんを中心に戦える連中……ウェルミス、悪いがキュミラちゃんと一緒に火吹きトカゲ任せていいか?」
「ちょっとまって、ウェルミスさん飛べるの?」
「一応はノオ様の
「そこはキュミラちゃんたちハルピーにカバーしてもらえばいいだろ。で、もっと悪いんだが……」
「分かってるって、ブロブの相手はイネちゃん単独。シックに援軍要請が届けば押し返した上でブロブ殲滅もできるからね、それまでは防戦に徹するよ」
まぁ攻撃的防戦したほうがイネちゃんとしては大変楽だし、幸い相手はブロブなわけなので殲滅の方向で考えるけどね、うん。
「よし、地上の方はこっちの様子を伺って止まってるが、上空は時間の問題……」
「ブロブは既に接触済み。今は予め作っておいた迎撃システムが交戦中」
「だったらイネちゃんはもう出発してくれ。上空組も準備が完了次第頼む。それじゃ……やるぞてめぇら!」
「「おー」」
返事がウェルミスさんとロロさんのみである。
「気合入れてくれよ……」
「それじゃあ地上は任せた。トーリスさんの指示は的確だし……ヨシュアさん、リリアを頼んだよ」
それだけ言って返事を待たずにイネちゃんは低軌道ステーションへと移動を開始した。
軌道エレベーターは既に9割型完成させていたこともあり、建物内部のリニアレールに電力を流して起動させて、鋼鉄靴に磁力を帯びさせて一気に上昇する。
『同化して一気に行った方が早くない?』
「それだと万が一中にブロブが入ってた場合の対処が遅れるでしょ」
『そんなに早く入ってくるかな』
「入ってきてる前提で動いた方がいいよ。それにこっちのほうが消耗が少ないし、低酸素に体を慣らしつつ予め考えておいた宇宙戦闘用の外部装甲を構築しておく時間にもできるしね」
随分前から宇宙で戦闘をすることになるだろうと想定していたので、スマホにダウンロードしておいたSFアニメからいくつかイネちゃんが再現できそうなものをピックアップしてこういう時のためにデザインとかまで考えておいてあるのだ。
ブロブが軌道エレベーターと低軌道ステーションの外部から襲撃してきたのでお披露目する舞台としては丁度いい……いや本音を言えばお蔵入りになった方が楽なのは確かなんだけど、せっかく考えたのだから使ってみたいじゃない?
こういうのはロマンっていうのはコーイチお父さんの口癖だけど、実際ロマンを有効活用できる能力があって、それを現在進行形で活用できるともなればイネちゃんだってロマン実行したくなる。
『でも内部で戦闘って実弾くらいじゃない?』
「まぁ、そうだね。でもトーリスさんが2日前まで忘れてたメモにね、イネちゃんがミスリルを生成することができるだろうってあったんだよ?」
『ミスリルで何するのさ』
「イーアは覚えてない?コーイチお父さんが持ってるアニメにさ、金属生命体が突撃して融合する描写、ミスリルは液体金属だから似たようなことできるんじゃないかなって」
ちょっとムカつくことに、トーリスさんにメモを渡したであろうグワールはイネちゃんが思いつくであろう使い方に関して可能かどうかの検証までしてたんだよね。
まぁその中でもミスリルを最大限最効率に運用するとなれば相手の体内に侵入させてっていう滅びた世界の人たちが使ってたやり方ってだけなんだけどね。
『それなら水銀でも良さそうだけど……』
「まぁ真似るだけならね。ただミスリルって水並かそれ以上の安定物質なんだよ」
『それはまぁ、解析したときに把握してるけど』
「それで今から使う場所と相手を考えれば、水銀とどっちが向いてると思う?」
『宇宙線とトラペゾヘトロンか……』
「そういうこと。宇宙で運用するならミスリルはすごく適してる」
しかも材料である金属は今から戦うブロブの体がそれなのだから後はやるだけなんだよね。
『わかった。じゃあ内部の奴はミスリルで掌握してって流れにすればいいね』
「うん、イーアは制御お願い」
『いつものだね』
イーアとのやり取りが終わってから数分後、もうすぐ低軌道ステーションという地点で数機のブロブを視界に捉えた。
「内部の奴はミスリルを試す」
軌道エレベーターの内壁から水漏れするようにミスリルを生成し、自身の周囲にいつもイネちゃんが空を飛んでいるときに使う架空金属粒子展開し、それを応用する形でミスリルを自分の近くに固定する。
『ブロブの装甲を突破できる程度には固くするか鋭くしないと』
「それも試すけど、もしダメなら液体のままぶつけて強制的に掌握して利用する」
単純に質量の問題にもなりそうなので少なくともブロブと同程度になるだろうミスリルの質量を調整してエレベーター内部に侵入していたブロブに向けて射出する。
射出されたミスリルは空中に浮くために使った架空金属粒子と摩擦することで不思議な音を奏でながら空を飛び、ブロブに接触したとき硬度不足でミスリルが変形したものの……。
『接触固定、これなら掌握いける!』
「了解!ミスリルで包み込む形でやってみる」
アニメのようにとはいかないけれど、ミスリルが相手を包み込んでいくにつれてブロブの動きは鈍くなっていき、内部に侵入したミスリルがトラペゾヘトロンまで到達したら完全にイネちゃんの制御下にすることができて、こちらの手駒をねずみ算的に増やしていく。
ねずみ算っていうのもこれ、制御下においたブロブを一部分解してもう一度ミスリル、質量的には2つ分で生成することができたので倍々的にこちらの手駒が増えるんだよね。
しかも制御下に置いた後はトラペゾヘトロンさえイネちゃんが制御してしまえばブロブを構成している全てを利用できるので、そのブロブを支配するときに使ったミスリルまで再活用できるので最初の数的不利を凌ぎきれば今度はこちらが圧倒する形になっていくわけである。
更に言えばそれらミスリルは元々イネちゃんの勇者の力で生成したものなので、イネちゃんが自分の武器にすることも、防御に使うことも自由自在なわけで……。
『エコな上に超効率的、でもこれは……』
「えげつないってレベルじゃないね……対人で使うのは控えたほうが良さそう。これじゃあ恐怖心を植え付けるだけのモノになっちゃう」
今は機械体であるブロブが相手だからそんな心配はしなくていいんだけど、ミスリルはその特性上生物にも有効だってこともありかなりえげつないんだよね。
まぁイネちゃんたちがミスリルを知るきっかけになったのも生物による利用だったわけだしね、まぁグワールのメモにはどうにもヌーリエ様の加護が強い存在、大陸の平均的な人間にはミスリルが体内に侵入しても外部からの魔力信号は受信しないようになるし、すぐに体外へと排出されるとか書いてあったから罪人か立候補者で人体実験したってことなんだろう……流石にヌーリエ教会の立ち会いのもとだろうし、まぁ今回は情報だけ入れておくことにして目の前の状況へと意識を戻す。
掌握できたブロブを半分残して、残り半分は全てミスリルに戻してからイネちゃんの近くに集めておく。
『そろそろ酸素がなくなる。どうするつもり?』
「成層圏含めてそれ以上の、宇宙に入る場所で戦うのなら……まぁ一番楽なのは球体、ボール型だけど……」
正直、そんな効率でカッコ良さとか可愛さを捨てたくないので、ここは一騎当千なカッコ良さを優先したいところ。
『じゃあ人型?AMBACだっけ、あの姿勢制御の法則。あれ本当の無重力空間で使えるの?』
「ルースお父さん曰く、現実の宇宙飛行士も使うから問題ないらしいよ。まぁAMBACって名称はアニメで使うために考えられた用語らしいけどね」
『なら人型で?』
「宇宙の3次元戦闘だと突破力も欲しいから……戦闘機みたいな推進力も欲しいかな」
『それ、パワードスーツとかじゃ無理だよね』
「だから……作るよ!」
『あぁ……必要以上に疲れていた理由って』
「そういうこと。イーアが寝てる間に作っておいたのだ」
軌道エレベーターの、今イネちゃんが立っているのとは対角線上に存在しているレールに電力を流し地上から最高速度で今いる場所までそれを運搬する。
『まさかこの軌道エレベーターで一番最初に運搬したものが私たちのロマンの塊になるだなんてね……』
「襲撃してきた連中が悪い!飛ぶよ!」
こうしてイネちゃんは酸素がなくなる地点に到達する前に、軌道エレベーターのついでに作っておいたロマンの塊へと飛び乗ったのであった。
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