第126話 外宇宙対策船団

「なぜ貴様はそんなに偉そうなのだ!」

 艦長……つまり責任者を名乗った初老の男性が力強くちゃぶ台を叩いたところでイネちゃんの思考は現実へと戻ってきた。

 現実逃避で頭の中でずっと読めてなかった漫画読んでる気になってたから反射で体が跳ねちゃったけれど、目の前に飛び込んできた状況は緊迫した空気になっていて特に何を言われることもなくそのまま進行していく。

「いや実際この世界の最大組織の偉い人やからな?」

「子供の嘘にも限度があるぞ!」

「あ、イネ嬢ちゃんおはよ。いやぁ思考やらなんやら公開してやっても信じてくれなくて大変なんよー」

「戻ってきたと同時に巻き込まないでください。もうちょっとあちらの気持ちになってみるといいんじゃないかな……」

 というか思考どころか絶対嗜好の方まで部下が全員見聞きしている状態で公開したからこの責任者さんはアレじゃないかな、引けないというか下手に出れなくなってるんじゃないかな。

 普通に公開処刑だからなぁ社会的に。

「えっと、申し訳ないですが現実逃避していたイネちゃんにあなたの自己紹介を聞かせてもらってもいいですか?」

「この状況で……いやそういう連中であることはもう飲み込むことにしよう。私は木星外宇宙探査船団所属、外敵排除艦隊旗艦クラウス艦長のゲルヒウラル。貴様らの所属と氏名、この艦に乗り込んだ目的を嘘偽りなく言え」

 怒りを抑えられない様子がまじまじと見えるけれどしっかりと自己紹介してくれた辺り状況を進めたいという気持ちの方が勝ってくれたようだ。

「大陸ギルド所属の一ノ瀬イネ、この艦が突然聖地シックの上空に出現したため調査に乗り込んだ……結果この艦が非常事態に陥っていたためその問題をこちらで排除して今に至るわけだけれど……まず1つ、そちらに主導権を戻す前に言わせて。この説明を嘘だとか言われたらもうこちらにはこれ以上の説明のしようがないし、同じ内容を繰り返さないといけないことは宣言させてもらいますよ」

「……いいだろう。今艦の記録を洗わせているところだ、真実かはすぐにわかる。現時点の状況と情報ではここがアングロサン星系のどの惑星でもないことは確認できているからな、こちらが制御を失った……というのはにわかに信じがたいが状況証拠はそちらの説明を肯定する要因がないわけでもないのも事実だ」

 じゃあなんでムーンラビットさんの説明で納得しなかったのだろうか……まぁ多分だけどいつもの飄々とした掴みどころのない感じに説明したから要領を得なかったというか捉えられなかっただけなんだろうけどさ、それでイネちゃんが矢面になるのはやっぱ面倒くさい。

「ちなみに先ほどからそちらと応対していたのは大陸最大の組織であるヌーリエ教会の司祭ムーンラビットさんです。実質実務トップなので間違いなく偉い人なのは間違いないですよ」

 露骨に信じられないという顔をされる。

「まぁ……そちらの文明で言うところのサブカルチャー、特にファンタジーと呼ばれる分野に該当する世界であると思って頂ければ概ね飲み込みやすいと思いますよ」

「ファンタジーなぞあるものか」

 宇宙文明もイネちゃんが暮らしていた地球では十分ファンタジーなんだけどなぁ。

 とりあえず目の前の艦長さん、ゲルヒウラルさんは相当に頭が硬い人だということだけはこの短いやり取りで理解できた。

「報告します。居住区画の被害は駐留部隊が全滅、民間人のシェルター避難は完了していたようでそちらの人的被害は認められませんでしたが、ペットとして飼われていた小動物が全て姿を消していると報告が上がってきております。そして我らの随伴艦の反応はありませんでしたが、この惑星地表に火星北部連合所属の揚陸艇の反応を1機確認しました」

「揚陸艦と連絡をとり状況の確認に努めろ。それと艦の航行記録の詳細をタイムラインで確認できるようにし、艦外の大気成分の確認と有毒物質の確認も並行して進めろ」

「了解しました!」

 うん、完全無能ってわけではないのか、情報確認前にイネちゃんたちに対して完全上位認識で動いちゃってるけど無能ってわけじゃなさそうな指示出しだった。

 まぁ完全無能だったらイネちゃんの可能な限り丁寧に説明した内容に対して問答無用の否定かました後一斉射撃命じてるか。

「しかしなぜここなのだ。動力でもなんでもなく、特に重要でもないはずであったと思われたこの家屋……しかしながらこの構造を再現しなければクラウス級は稼働しなかったのだ。そしてその謎の家屋になぜ貴様らは……」

「となると思いの力は残ってたんやなぁ。まぁ精神的な力を物理変換するシステムだったからこそとも言えるか」

「何か知っているのか!」

「知ってるもなにも、あんたらがこの艦のベースとして選んだやつに乗っていた存在の1人やからな。想定通りに稼動するのならフォトンだろうがブラックホールだろうが目じゃないほどのエネルギーを得られるシステムの基礎にあたる部分がここ、神社と社務所」

「超常の力とでも言うつもりか?」

「そのとおりよ。神様とかそういった存在の力を物理的に影響を与えられる形に変換して運用するシステムが動く世界で作られたわけやからな、ここは艦の構造を強化維持に必須だった場所やったし、一番人の思いが集まっていた場所やからその影響が残ってたんやろうな」

「非科学的な……」

「残念ながらその世界ではアングロサンでは非科学とされるものを科学的に解明されていたんよ。神様の実在証明がされている世界ってことな」

 今まで聞いた内容だと地球科学文明の上に神様の実在証明が科学的に行われていて、更にはその力を運用する技術もある世界ってことになるんだけれど……大陸でもそこまで行ってないよね、勇者システムだってヌーリエ様主体によるものだし。

 それにしてもこの艦の名前、クラウスって米系……少なくとも英語圏系の名づけだよね、まぁ宇宙文明で各種自治体はあるけれどそう言った西暦文明系による人種、言語による区別はほぼなくなっている世界だとは思うので一概にそうとは言えないだろうけど少なくともこの艦を建造した時に名づけをした人は日系人じゃないだろうね。

「ついでにいえば今いるこの世界も実在証明されてる世界やからね」

「一体どうして証明できるというのか」

 ムーンラビットさん、そこでイネちゃんにウインクしないでもらっていいですかね。

「勇者の力を見せてやるだけでもええんよ」

「勇者と来たか、ファンタジーを見られるのであれば見せてもらいたいな。最も、子供だましにもならん手品だろうが」

「子供だましって……子供を騙す方が難しいんだけどなぁ」

 そう言いながらイネちゃんは立ち上がると。

「誰が動いていいと言った!」

「見せろって言ったのはそっちでしょう?動かなきゃ見せられないじゃない」

「その場で座ったまま見せろ」

 無茶を仰る。

「イネちゃんの勇者の力って、地面や鉱物資源が重要だから外の土の場所まで移動しない場合武器とかを抜かなきゃいけないし、それ相応に使ってみせなきゃいけない都合上周囲が無事じゃ済まなくなるよ。でもまぁ艦長であるゲルヒウラルさんの指示なわけだし仕方ないよね」

 そう言いながら銃に手をかけようとしたところで……。

「そういうことなら早く言え!」

「言えもなにも言わせなかったし聞かなかったのはそっちだからね?」

 正論で返すと黙って道をあけて。

「わかった、ただしファンタジーを示せなかった場合は拘束させてもらう」

「何をもってファンタジーを定義するかによると思うんだけどなぁ……」

 特にイネちゃんの力だとファンタジーよりは即物型な能力だから余計に心配になる。

 ともあれイネちゃんが勇者の力を披露することで神様の実在証明に関してはできないかもしれないけれど、少なくともファンタジーであることの証明をすることはできる……かどうかはイネちゃんの見せ方次第ではあるのでちょっと自信がないけど一応は納得させるだけのものを見せればいいというシンプルな図式になってくれたわけである。

「それじゃあ簡単なものからやっていきますよ」

「さっさとやれ。だがこちらに害することは……」

「しませんよそんなの……面倒くさいことになるし」

 さっそく地面から全て鉄で構成された中型のメイスを生成して手に持ち、ゲルヒウラルさんに持ち手を差し出す。

「はい、これは単純構造だけど構成金属とかを調べて見てくださいね。自然界ではまずありえないようにセラミック合金で作っておきましたので……あぁそれとかなり重いのでそこは注意してください」

「よりにもよってこんな野蛮な武器を隠しているとは!」

「隠していたのであればこうやって持ち手をそちらに向けると思います?第一この地面のどこに隠していたというのか、ゲルヒウラルさんのお好きな理論的、科学的説明をお願いします。できないのであれば十分にファンタジーでしょう?」

「私は専門家ではない。故にその判断を確定事項とすることはできない」

 うわめんどくさ!

「じゃあ一旦こちらにそれを返してもらっていいですかね、既にそいつがフル金属の打撃武器だっていうのは把握したでしょうし」

「確かにその判断であるのなら私でも確定できるが……一体何をするつもりだ」

「その判断で確定事項があるのならばファンタジーをより強調することができることを」

 イネちゃんの断言する口調に少し悩むような仕草を見せたゲルヒウラルさんは、他の人と目と目で確認を取ってから。

「馬鹿な真似はするんじゃないぞ」

 そう言ってこちらにメイスを返して来た。

「しませんよ……まぁちょっとそちらの認識にしてみたら刺激的なものにするので勘違いして攻撃しないでくださいね」

 そう言いながらメイスをアングロサンが使っているビームライフルに変換する。

「な!?」

 そして忠告したにも関わらず周囲にいた他の人が銃を構えて……。

「撃つな!……いいだろう、ファンタジーが存在することは認めざるを得ないだろうからな」

「まぁ……ついでなのでそちらのエネルギー動力であるフォトンエネルギーもちょっと解析させてもらいましたよ。ここまで疑ってきたのだからその対価だと思ってください」

「こっちは攻撃もされてたしな。ま、火星北部の連中は今は友好的やし遅かれ早かれで認識しといてなー」

「くそ……いちいちこちらを苛立たせるような口調で。そちらに関しては私の権限では判断できん。だが近いうちにアングロサン連合元老院にて採択が下ることだろう」

「おう、そっちの色眼鏡だけでの報告は勘弁な。こっちは戦争とかそういうの望まないし」

「だったらその言動を改めてもらいたいものだ……」

 ふぅ……こういう時にはやっぱり許されるだろうライン限界ギリギリを攻めるのが一番効果的で、ゲルヒウラルさんがイネちゃんが想定した優秀さを発揮してくれて助かったよ。

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