第122話 艦内戦

「むぅ……火力足りない感じで、でも強くできないのが本当にもどかしい」

 クトゥさんに外で戦っていた人たちを正気に戻すようにお願いした後、私は艦内に入り改めて感知の条件を変えてしてみたところ、ちょっと洒落にならない状態だったのでショゴスの殲滅を優先して動いてはいるけれど……。

「どうにもこの艦の構造が特殊すぎて1人だと時間がかかって仕方ない」

 ショゴス自体の戦闘能力は全身筋肉といった単純質量による攻撃だけだし、突進に関してもそれほど素早いわけではないので迎撃しながら防御をするのは容易いのだけれど、それだけ単純な構造をしているだけのことはあって痛みに鈍重、艦内を傷つけないように気をつけて実弾を使うと思った以上に弾数を消費させられるし、ビームでは出力を上げすぎないようにかなり繊細な集中力を要求されてしまうので時間がかかって仕方がない。

「ケテリ・リ、テケリ・リ」

「意思疎通は不可能……というか何を言っているのか完全にわからん!」

『何を言っているのかわかっているクトゥさんでも無理だったんだから諦めて殲滅するしかないよ』

「それはそうなんだけど……」

『爆発物解禁したいところだけど……肉片撒き散らすのは流石にまずいかな?』

「まずいんじゃないかなぁ、直視するだけで正気を失うような感じだったし」

 先ほどから何度かエンカウントしているショゴス相手に生ぬるい体温のようなものを感じているから、この艦の乗員でまだ正気を保っているだろう人たちは熱探知を通して交戦しているらしく、かなりの割合で誤射されている。

 というか艦内でビームとか使っていいんだろうかってくらいにビーム撃たれて、これで殲滅完了したあとでこっちのせいにされたら溜まったものじゃないよね。

『私たちがやった攻撃で壊れた箇所はその都度私が治すから、イネは気にせず殲滅する方向で……いっそ焼夷グレネードとか使ってもいいんじゃないかな』

「それは弾数がしっかり存在するから……あぁそうだ、バーストナックル」

 スパークナックルと一緒に作っておきながら使いどころがなくてずっとマントの収納の倉庫番みたいになってたから忘れかけてた。

 バーストナックルなら鉱物資源側の準備だけで大爆発……かは出力調整次第ではあるけれど、超高温を瞬間的に限定空間のみに叩き込むことができるので今回みたいな状況であるのならば使いどころは大変多い。

『そっちの制御はイネがやってね?』

「わかってるって、イーアは艦の補修任せた」

『任された』

 本来ならショゴス相手に近接戦闘とか最悪の選択なんだろうけれども、私なら耐えられるだけの防御能力があるし、正気が削られるようなこともなく、周囲への被害を鑑みればこれが最良になりうるのがね、だいぶ偏っている気はするけれどできてしまうのだから仕方ない。

 ともあれ方針が決まればすぐにバーストナックルを取り出してチャージを開始して、とりあえず目の前のショゴスは以前買っておいた近接武器の1つであるショートソードの刀身をビーム化させて焼き切っておく。

「テケリ・リ!」

 ショゴスが巨体なだけあってショートソードサイズのビームソード化では絶命させるまでに時間がかかり、結構な反撃を受けてはいるけれどまぁダメージはないし、何かしらのウイルスやらがあったとしても常時勇者の力で浄化もしているのでそちらも問題ない……まぁ大陸出身者であれば特に気にする必要はないかもしれないけれど、今この艦のしたにはシックがあって現在他の世界からもお偉いさんや地球のTVカメラも入ってきているので万が一にも漏れ出て感染だの起きてしまうと取り返しが難しくなるからね、そういう意味では必要なことである。

 ただ1つ言えることは……。

「面倒くさい!」

 ある程度チャージを完了させたバーストナックルのトリガーを引いてショートビームソードでちまちま削っていたショゴスに叩きつけると、接触した瞬間にバーストナックルの炸薬部分が爆発し肉塊であるショゴスを肉片へと変える。

『あまり撒き散らすと掃除が……』

「武器の性質上仕方ないでしょ!」

『まぁ今は丁寧に蒸発させるよりは速攻での殲滅優先だからわかるけど……一応記録しておくよ』

 移動の邪魔にならない場所にぴょこんと<ショゴス爆散地A1>というタグが飛び出して、ここで戦闘が起きたことを示していた。

 アングロサンの人たちが私たちが使っている文字を認識できるかはわからないけれども、少なくとも火星北部の人たちはほんの少し学習するだけで習得できたわけだからね無駄ではないはず。

『艦内の殲滅を頼まれたって言っても……これどのくらいの広さがあるのか』

「感知してる感じだと、艦艇部分にかなり広い空間が存在しているし、どうにもそこには土や植物が相当量存在しているっぽいから……もしかしたら街の規模が艦内に存在してるのかも」

『そんな船、ある?』

「私たちが知らないだけで、宇宙で長期間航行するのなら必要だったりするんじゃない?技術も進んでるし、艦内で栽培して味と栄養を均一化するためにレーションにするっていうのならわからないでもないけど……」

 特に今私がいるこの艦は木星出身だっていうのを火星北部出身の艦長さんから聞かされてるからね、木星圏で居住可能空間はアングロサンには既にあるのかもしれないけれど、少なくとも自然界環境下においては人が暮らせても食物栽培に適した環境かどうかという問題が大きいからね、それならいっそ巨大な人工物の内部に地球と同程度の環境を生み出して運用したほうが楽という結論に至ったのかもしれない。

『ショゴスの多くがそこに集まっているっぽいのはどういう意味があるんだろう』

「流石にわからないよ、私らはショゴスじゃないし……それよりもイーアも覚悟しといてね、今の私の予想が当たっていた場合かなり悲惨な地獄の光景が広がってる可能性の方が高いから」

『百も承知かな……まぁシミばかりって可能性も高いだろうけど、内蔵とか撒き散らしてる可能性は強く覚悟しておかないとね』

 今まで戦ったショゴスの戦闘方法とかを鑑みると、単純質量による攻撃が中心でそれ以外の攻撃手段はあまり見られなかったわけだからね、恐らく一番綺麗な被害者は内臓破裂で外傷はあまり目立たないタイプ、次はそもそも血液しか残っていないとかそんなレベルの損壊……正直一番見たくないのはショゴスに頭を殴打された結果頭の中身を撒き散らしちゃったのとかが可能性として考えられてしまうので踏み込む前に相当な覚悟をしておく必要があるのだ。

 よく創作とかでそういう現場に踏み込んだときに吐き気とかを模様す兵士の描写とかがあるけれど、あれは単純に覚悟の仕方や量に問題があっただけだと私は思っている。

 場数を踏めばどの程度の覚悟をしておけば確実なのかとか経験で把握できるようになるからね、場数が足りないって言われるのはそのへんはもう慣れでしかないという認識にもと行われれうわけだ……これは医療関係者にも同じこと言えるらしいけど。

『エレベーターは動いてるけど、どうする?』

「私たちなら大丈夫でしょ、ショゴスと同乗し続けるのは遠慮願いたいけど」

 ショゴスの知能がそれほど高くないのかもしれないけれど、艦内に突入してから電気系に異常が起きているところの殆どは物理的に破壊されている場所で、基本的にはその物理的に破壊されている部分をバイパスしている場所以外は生きているようだった。

 正直、宇宙船でバイパスラインが1箇所だけって時点で欠陥じゃないのかと思うけれど、もしかしたらもっと根本的な部分が物理的に破壊されているのかもしれないから特にアングロサンの人たちを責めたりはできないよね、とりあえず艦自体が爆発していない時点で重要なエネルギーバイパスは死守しているか、艦の運営に支障がない重要な場所を優先しているだけって可能性も十二分にあるわけだし。

 でもそうなると今乗り込んだエレベーターの電力が生きているということは、ここが結構重要な動線という可能性もあるわけで……。

「地図も何もない、初めての軍事施設で殲滅戦をするとか本来なら無理無茶無謀の三拍子だよなぁ……」

『多少取りこぼし前提でしょ。その中でも私たちなら感知の仕方次第で可能な限りショゴスを消せるっていう信頼からの艦内殲滅依頼だったわけだろうし』

「正直なところクトゥさんでも良かった気がしないでもない……そりゃアングロサンの軍人さんと戦闘するわけにはいかないってことを含めると、そっちの攻撃を無視できる私の方が適任なんだろうけどさ」

『まぁそこは割り切ろう。シック上空でのドンパチで迂闊に艦にダメージ与えられないのなら、常時艦へのダメージを修復できる私たちが最適解だったって思えば問題ないでしょ』

「それもそうか……それじゃそろそろ地獄に到着するよ、覚悟はいい?」

『とっく。ゴブリンの地獄と比べたら覚悟しやすい部類でしょ』

「それじゃ……いくよ!」

 エレベーターが到着を告げる短い電子音を鳴らすと、扉が開き地獄特有の鉄分の臭いが鼻を刺激してきた。

「うん、想定通りの地獄だ。救世主なんて柄じゃないけどやりますかね」

 艦内とは思えないような、地球でいうところの地方都市の風景のような居住区域での殲滅戦に移行するのであった。

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