第121話 木星母艦

「さて、現着……って言っていいのかな」

 シックを全てその巨体の影で覆ってしまうほどの大きさである艦に到着したと言ってもそれは艦底で、そこに足元を同化させて立っているようにしている私が周囲を見渡しても機械の地平線みたいな風景が広がっていて入口が見当たらない。

「とりあえず内部状況を確認しては?」

「まぁ……それもそうか、クトゥさんのほうでは近づいたことで何かわかりました?」

「ケテリ・リ、ケテリ・リ、という鳴き声はより大きく聞こえるようにはなりましたね。ただ元より数が多く肉体的強度が高いことが特徴の種族なので、どこかから入り込んで襲撃されたとなればひとたまりもないんじゃないですかね。この世界の方々であれば問題ないでしょうが、なんだかんだ直視してしまえば正気を失う人間もいるでしょうし」

「それは……私大丈夫かな」

「むしろ安全圏の中心かと。見た目への嫌悪感や不快感はあっても正気を削られるようなことはないと思いますよ」

 うーん、まぁ確かにクトゥさんを直視しても思考が乱されたり嫌悪感を感じたりとかはないしそういうものと言われたらそうなんだって感じの納得はできちゃうけれど……だからと言って理屈で理解しているわけでもないからどういうことが起きるかわからない事からくる恐怖心とかは立派に存在しているんだよなぁ。

「まぁ……艦底から侵入できそうな場所はいくつか判明しているけれど、できれば上から行きたいよねぇ」

「鳴き声はこの辺りから強く聞こえるのでそれがよろしいかと」

 足元にいたのか……どうにも勇者の力で感知できないからお化け屋敷みたいな感じにびっくり要素が満載になりそうで少し足が重くなる。

 そういう意味でも一度甲板に該当するような場所に出れば、アングロサンの技術体系と同軸線に存在している巨大艦艇……しかもチラチラ聞こえてきていた単語で空母となればこの艦は空母、アグリメイトアームを多数搭載している旗艦空母と言えるような存在である可能性が高い。

 まぁアングロサンの世界に直接行ったわけじゃないし、わからない事の方が多いのだからこの規模でも軽空母なのかもしれないけれど……少なくとも私が知っている、アメリカでゴブリンとかと戦ったときに見た地球最大規模のアメリカ所属の空母は今私が移動しているこの航宙艦の大きさと比べたらそれこそ随伴艦程度のサイズになってしまうので、どうしてもどのような思考になってしまうよね。

「ケテリ・リ」

「絶対に直接見るな!バイザー越しでもなるべく見ることなく撃退しろ!」

 なんかとんでもない命令が聞こえるようになってきた。

 そろそろ甲板にあたる場所へと移動できそうなところで聞こえてきたということは……格納庫とかカタパルトに該当する場所が近いのかもしれない。

「えぇと、とりあえずまずは私がショゴたん……あぁ正式名の方がいいんでしたね、ショゴスと対話を試みてきますので、イネさんは今交戦中の方々の精神的治療の方をお任せしても良いでしょうか」

「精神的にって……割と即ブツ的というか、物理メインな私の力だとそれは難しいんじゃないかな」

「まぁ難しいようでしたら無力化と拘束をして頂ければ。自傷もできないようにしてショゴスの手が届かない場所があればベストなんですが」

「物理で解決できるようならそうしてみます」

 物理的解決法が許されるのなら話は単純になるし、ショゴスってやつが集団的に襲撃して来ていてクトゥさんとの対話に応じないようであるのならば殲滅戦に移行しても問題はない……はず、多分。

 正直なところ精神面でのケアとかに関してはヌーリエ様と神化どうかできるのであれば問題なくすることができるし、そうでなくても気休めの応急処置程度の治療はできなくはないのだけれど……私もイーアもあまりメンタルケア方面の知識や魔法による治療の知識が決定的に欠如しているので現実的な観点からはできないとしておいた方が無難なのだ。

「ケテリ・リ、ケテリ・リ」

 鳴き声とビームの軽い発砲音、それに怒号が入り混じっている艦上に回った瞬間、こっちにも思いっきりビームが飛んできた。

「危な!」

「まぁショゴス相手なら当然乱戦ですよね」

「それ早く言って?」

「直撃しても大丈夫かなと思いましたので」

 流石に準備無しだと無事の範囲には収まるだろうけれど大丈夫ではない。

「それじゃあの狂乱状態の方々はお任せしますね」

「あーうん、どっちが楽だとかそういうのなさそうだしクトゥさんも気をつけてね」

 どのみちショゴスとも戦うことになりそうだし、こっちはこっちで下手にクトゥさんに対人戦をさせるわけにもいかないからね、ムータリアスでやりたくもない対人戦の指揮をさせられていたわけで、更に言えばショゴスよりも上位な神話生物なのだから状況を悪化させかねないこともあって役割分担は最初から決まっていたようなものだよなぁ。

「識別信号だけで判断しろ!」

 あ、これ対話とかそういう以前にまず無力化しないとダメなやつだ。

 それを証拠に絶賛先行したクトゥさんが的になってるし……まぁただ見ているだけというわけにはいかないので勇者の力で甲板を構成している金属を掌握しパーフェクトイネちゃんモードで一気に距離を詰める。

「はい、武装解除してねー。対話可能な状態であるのなら解除しないにしても対話可能な相手にそれ相応の認識と動きを見せてくれればいいからね」

 言葉は聞こえてきていた言葉の意味をしっかりと認識出来ていたし、アングロサンの火星北部の人たちとの会話データの蓄積で問題ないことは確定しているので少々荒っぽいものの既にこちらは攻撃を受けているので仕方ないのだ、決して私が交渉が面倒くさかったわけではないのであしからず。

「無力化しろ!あの生物の仲間かもしれん!」

「失礼な……」

 先ほどからチラチラ横目で見えているショゴスと思われる物体はどう見てもただの肉塊でしかないのに私を同列に扱われるのは流石に納得がいかない。

 まぁこれが色々と精神がやられている状態ってことなんだろうし、あちらの望み通りにとりあえず無力化してあげないとか。

『とりあえずビームを防ぐのを作るよ』

「アングロサンのやつなら鏡面装甲でいけるんじゃないかな」

『それを作るのも結構大変なんだよ』

「知ってる」

 私の目の前に強力な効果が期待できるレベルまで光学的なものを反射できる金属装甲を生成して少しづつあちらのところへと移動を始める。

 しかしこの宇宙船の外部装甲、惑星間航行船というだけあって私が今までこんな感じだろうとそれっぽく作っていた宇宙船の装甲と比べてもかなり洗練されていて構成金属はそれほど特殊なものではないのにも関わらず頑強さ、柔軟性がどれも高いレベルで実現されていて……これは今後も使えそう。

「ビームが……」

 まぁ絶賛ビームを撃たれていても全部反射して少しづつでも近づいているからあちらからしてみれば驚異……。

「鏡面装甲か!」

 あ、概念として存在してた。

「だがどこから出した……やはり化物ということか!」

 化物認定されてしまった……これに関しては勇者の力で強引に作ったから否定できないからなぁ、まぁそれはそれとして対処できないというのならばこのまま進んで……。

「実弾を持ってるやつはあの鏡面装甲へ攻撃!格納庫が確保できればアグリメイトアームを奪還して迎撃するぞ!」

 実弾も持ってたか……確かに鏡面装甲とか生成に時間もかかるし、勇者の力がなければそれこそ通常の装甲を生成する時間の倍はかけて作る必要があるだろうから実弾で削っていくのは大変有効な戦術なのは確かなのだけれど、私に対して実弾という選択は知らないとはいえ下の下になるわけで……可哀想だけどチャンス到来ということで一気に距離を詰めさせてもらおう。

 宇宙船の装甲と足を同化させて移動したらそれはそれでまた化物認定されるかもしれないので、いつものパーフェクトイネちゃんモードで鏡面装甲の盾から一気に飛び出すようにして突っ込む。

「突撃!?構わん撃て!」

「相手をちゃんと対話可能でどういう存在かというのは把握してから攻撃命令だして欲しかったかな!」

 それなりに距離を詰めていたので無限軌道による最高速による突撃にあちらは対応しきれなかったようで、相手は攻撃すればフレンドリーファイアという位置まで移動をしてから可能な限り落ち着いた口調でそう言いつつも、こちらに向いてきている銃口だけは簡易装甲を展開してそこから発射されるだろう攻撃に対して備えつつも対話を試みてみる。

「ついに意味のある言葉を喋るようになったか!」

「そういうのいいから。あなたたちは今おもいっきり侵略者みたいな状態になってるから……襲撃されて混乱しているってことなんだろうけど、流石に失礼がすぎると私は思うかな」

 少しは無力化したほうが話がスムーズに進むかな、と思っているとクトゥさんが吹っ飛ばされてきた。

「いやぁこのショゴたんたちはもう暴走しすぎてますね。駆除しないと無理です」

「大丈夫?」

「まぁこの程度は。むしろ懐かしい感覚ですよ。イネさん、艦内にいるショゴスはお任せしてもよろしいでしょうか」

「いや感知できないんですって」

「接地面が広すぎるだけだと思いますから、そのように感知しなおして見てください」

「また増えただと!」

「……まぁ了解。クトゥさんはこの人らをちょっと大人しくさせといてもらっていいかな」

「また難しそうな難題ですね……」

「それじゃ……殲滅してくるね」

 このあとめちゃくちゃ殲滅戦を始めることとなった。

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