第12話 制限付き戦闘

「ロロさん、条件を改めて確認するけれど……」

「1種づつ、確保……後は、問題、ない」

 最初に考えていた最悪の展開にはならなかったとはいえ、迂闊に殲滅するような攻撃をすることができなくなったという、イネちゃんとしてはどのみち結構な制限が付けられていることになる。

「少なくともビームで水平になぎ払うという1番手っ取り早い手は封じられたわけでなぁ……」

「がんば……って」

 ただ防衛ラインの構築に関してはかなりシンプルになった。街壁の外にはイネちゃんがひとりで飛び出し、先頭を走っている数匹を素通りさせてからあとは全力を出せば良くなったからだ。

 ロロさんが壁からすぐに躍り出れる場所に待機する理由は、この作戦ではどうしても動物が壁を攻撃してしまうために修繕が行き届いていない脆い場所はロロさんがカバーして、リリアが壁に取り付いた動物を眠らせる手はずになっているからである。

「まぁ……行ってくるよ」

 そう言ってイネちゃんは壁の外へと躍り出ると、勇者の力でミニガンを地面から生成してアニメのロボットがやってみせるように両腕で構える。

 動物の先頭はまだ距離はあるものの、やはり誰かが恣意的に操っているように感じられる形で近づいてきているのが確認できる。

「イーア、流石に今回は」

『分かってる、でも100匹くらいは抜けても仕方ないくらいに思っておいたほうがいいからね』

 このイーアというのはイネちゃんの身体に同居するもうひとりのイネちゃん……って言ってもわかりにくいよね、ごめん、でもこれ以上に的確な例えや説明は思いつかないんだ。

 そしてイーアとイネちゃんがそれぞれ思考と身体を動かす反射を別々に担当することで勇者の力ではない身体能力をかなり高い状態で動けるようになるわけなのだ。

 正直詳しくどうしてイーアがいるのかとか説明するとイネちゃんの半生を丸々説明することになるので今は割愛するけどね。

「最初の奴らは飛び越える!その後は……」

『自立型のビーム兵器を飛ばすよ!こっちは私が担当するからイネは目の前のをお願い!』

「分かってる、私たちなら何とでもできるはず!」

 できる保証なんてどこにもないけれど、実際今回は私にしか何とかできる可能性がある人間はいないのだから虚勢でもなんでも言ってのけるしかない。

 準備をしていた私の前には既に動物たちの先頭が到着しそうになっていたので大きくジャンプをして飛び越え……飛び……。

「流石に飛び越えられない!」

『仕方ないからビーム兵器の持ってる粒子を飛ばしてちょっとだけ飛ぶよ』

 いやぁいくら色々ブーストされているとは言っても流石に目の前がクマだと飛び越えられないよね、うん。

 イーアの言うとおり粒子上の金属を空中に展開して、勇者の力で自身と同化させる形で一時的に空に浮いて先頭のクマを回避し、すぐに降りる場所を確保するために両手のミニガンで軽くお掃除をして降りると、そこより後ろの動物たちはイネちゃんを驚異とみなしたらしく、特に近くの動物はイネちゃんを標的として突撃を始めてくれた。

「よーし、私に向かって来てくれるなら大歓迎だ!」

 私が勇者の力を発動していると、全身フルプレートメイルに包んでいるロロさんと比べるどころか、それこそ地面の岩盤や空想上の宇宙戦艦の装甲材のような硬さにもすることができるので、いくら動物たちが突撃してこようがダメージはないからね、それこそ街壁に突撃されるくらいなら私に群がってくれたほうが作戦目的の達成にははるかにいいからね。

 雄叫びと同時に私に向かって周囲のクマが飛びかかってくるもののそこは流石のミニガン、直撃させたクマは吹き飛ぶし、弾の弾頭には勇者の力で重金属系にして貫通力とかを上げてとにかく殲滅特化にしているので私の周辺にいる動物たちの処理は捗るのだけれど流石にカガイという街……そう、街というだけの規模の都市の東西南北の1方向を埋め尽くすほどの数ともなると焼け石に水で、多少マシになっている程度でしかない。

『ビーム、使うよ!』

「お願い!」

 流石イーア、私が欲しいタイミングで必要なことをやってくれる。

 私の身につけているマントに重りのようにして取り付けてあるいくつかの自立型ビーム兵器が稼動を始めて空を飛び、私のミニガンではカバーが不可能な位置を攻撃し始めた。

 当然ながらこのビームというのは私が普段使っている重金属粒子を高濃度圧縮したもので、それを電磁加速して撃ちだす方式なのだけれど……ヌーリエ様が色々教えてくれたおかげでSF的な謎粒子を使えるため空に浮くこともできるし、その粒子を空気中に満たすことができれば私本人だって空を飛ぶこともできるようになる

……のだけれど、これはすごく消耗が激しく、正直私は最後の手段、切り札のポジションに位置づけている。

 簡単に高所が取れて広域に実質の防御不可能の攻撃を加えることができるのにも関わらず使わない理由の1つがそれで、もう一つは単純に威力が高すぎるんだよねぇ。

 実際のところ今回だって動物の生存が条件になければ開幕戦略級のビームを叩き込むだけで開幕9割は持っていけたと思うし。

『イネ、考え事よりも先に殲滅!』

 イーアの叫びと同時にカバが突撃してきた。

 一応防御力を優先していたので意識外からの攻撃でも単純質量による攻撃なら相手もよほどSFしてない限りはそうそうダメージになるいことはない。

 ところで私はカバって呼んだけれど、ヘラジカのような角を生やしているそれはカバなのだろうか、基本的な造形が動物園で見たそれとほぼ一緒だったからつい呼んでしまったけれど……まぁ今は便宜上カバでいいか。

『そいつ、ミニガンの攻撃受けても怯まなかったから注意』

「うへぇ……やっぱり大陸だと人を相手にする方が絶対楽だよなぁ」

 チタン合金系の弾にウランを配合させた弾頭で、威力や発射速度の初速をかなり高めているミニガンによる銃弾の雨をまともに受けて突撃速度すら落ないというのは流石に想定していないんだよなぁ。

 いやまぁ貫通力が高いだけでストッピングパワーはその連射力に依存してるから戦車の装甲並の皮膚を持った重心が低めの体重のある動物相手だと効果は元々薄いんだけどさ、殲滅を優先して貫通力を上げたのが裏目に出るとは……大陸の動物こわい。

「ウランからビームコーティングに変える、それならカバだって……!」

『待った!……動物たちの最後部、更にその後ろの方の感知した気配って、人じゃない!?』

「は?こんなところに人なんて……巻き込まれたわけじゃないよね!?」

『どちらにしろ、ビームを地面と水平に撃つとその人にあたるからやめておいたほうがいい!巻き込まれた人なら助けないといけないし……』

 首謀者であるのなら生きた状態で確保しなければいけない。

「ちょっと制限厳しすぎないかな!」

 イーアに任せておいた自立型ビーム兵器だって無尽蔵に動かせるわけではなく、既に結構な広範囲の殲滅に使ったから重金属粒子の残量がもう殆ど残っていない。

 流石にこうなってしまったら1度戻して充填しないといけないわけで……。

『いい、今使ってるのは戻して。私は固定砲台なりなんなり生成してみるから直接戦闘はお願いだよイネ』

「それは構わないけれど……やれる?」

『MLRS使えばなんとか』

 MLRS……たしかに広域空間を制圧するのに向いたもので、ミサイルの着弾点を集中させるように設定してあげれば十二分に火力面でも問題はないのだけれど……MLRSはビーム並に消耗が激しいんだよね、ミサイルを数作らないといけないし。

 ただそれでもビームと比べれば破壊箇所が限定されるから私とイーアが感知した人の気配の付近に影響を出すことなく動物の群れに対してのみを攻撃できるからね、私としてもイーアが可能というのならやぶさかでない。

「それじゃあ一気にやるよ!」

『片付けたら人の気配からじゃなく、リリアの援護を優先するからね』

「分かってるよ!」

 私が処理できなかった分は既に街壁へと接触しているみたいだし、大丈夫だとは思うけれど万が一に備えて守ることを優先する。

 そもそもが防衛戦だからね、そこを間違えて飛び出すとそれこそあの人の気配が首謀者のものだった場合は罠に飛び込むことになりかねない。

 そんなことを思いながら両腕のミニガンに関しては維持しつつも、私は足元の地面を操作して個人携行が可能なMLRSを生成すると、ビーム兵器で使っている粒子を利用して私の背中の方へと浮かしてからミニガンを手放……さないでこちらもMLRSへと変換、そのまま発射して広域殲滅でありつつも狙った空間だけを制圧していくと、対ゴブリンと戦っていた時よりも炸薬量が少ないとはいってもそこは流石に小型ミサイルによる飽和攻撃なので結構地面に爆発時にできたクレーターが残り、暴走していた動物たちは街壁に取り付いたものを除いて動かなくなったか、跡形もなく消し飛んでいる。

「さて……それじゃあ対話の始まりかな」

 イネちゃんはそう独り言をつぶやきながら、ようやく肉眼で確認できた人影に向かって足をだしたのだった。

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