第8話 バジリクスバードの生態
「で、捕まえたはいいけれど……流石に全部は無理だから数匹不可抗力しちゃったよ?」
「いやイネさん流石ですよ……並の冒険者ならバジリクスバード相手だとどうしても犠牲や被害は免れないですから、むしろクマ肉まで守りきったのは流石としか言い様がないです」
「褒めすぎ、明らかに全部とはいかないまでも殆どを捕まえられたのはリリアのおかげだし、守りきれた要因の少なくない部分はロロさんの機転だったからね。イネちゃんだけじゃどうしても殺しちゃう数の方が多くなったはずだよ」
正直、バジリクスバードの総数が100を超えるとは思っていなかったイネちゃんとしては想定外もいいところだったのでこれは本音というか単に事実を言っただけである。
イネちゃんが最前面を防ぎ、ロロさんが止められなかったのを必要なところだけ止めて随時リリアが催眠をかけてぐっすり眠らせるという形を自然に取れていたし、別にイネちゃんが特別、指示を出さなくても全員が最適な行動を取っただけだから本当にこれは謙遜でもなんでもない。
「とりあえずバジリクスバードの基本的なことなら教会でカバーできるから……近くの町に行かないと」
「まぁリリアの言うとおりだよね、流石にこの数は食料がどうこうとかそういう次元の話じゃないし」
100はなんとか数えたけれど、よくよく考えたらイネちゃんは数を数える義務がないことに気づいてから数えてなかったから正確な数字はわからないけれど、それより多い数が今ここでお縄についているわけで……むしろ運搬の問題まで生じている事態であると言えるのだけれど、どうしたものか。
「運搬が問題でしたら、ここをこう設定して……人間でなければOKにしてっと……離れてください、結構大きいのが出現しますから」
ジャクリーンさんはそう言って手元から拳くらいの大きさのボールを投げると、大きな爆煙が吹き上がりそこには今までなかった建造物が姿を現していた……っていうかこれ、元検疫所の現在税関であるゲート管理棟である。
「ディメンションミミックは元々便利な運搬道具として開発されていましたので、使ってください。設定も人間以外の生命体は制限なしにしたのでアレが発動することはありませんから安心してください」
そういえばこれ、自然動物とかじゃなかったんだったっけか……王侯貴族の魔道具の1つらしいけれどそうか、ジャクリーンさんは貴族の出だから持っていても不思議じゃないっていうかキャリーさん誘拐事件のときに運用していたから持っていて当然だったわけだ。
「とりあえず1ついいかな」
「はい、なんです?」
「なんで今まで出さなかったの?」
「これの運用って結構疲れるんですよ……実質無制限に物が持てたり、誰かを軟禁したりと便利に使えてしまうのでセキュリティや機密の面でかなり使用の制限が大きいんです。今回はこれを使わないと教会から増援があっても日が暮れても終わりませんから、仕方なくです」
それでも持っていて使うことをあまりためらっていないあたり、1人で行動していたときは普通にディメンションミミックをテント代わりに使っていたんだろうなっていうのがなんとなくわかってしまうのがこう、なんとも。
消耗が激しいというのは事実かどうかわからないけれど、今助かるのは事実なので特に追求したりすることはやめておこう。
「じゃあ運び込んじゃおう、ついでだから知ってる範囲でどういう生態しているとか教えてくれないかな、一時的とは言っても管理することになるわけだし」
「そうですねぇ……まずは肉食であるということが挙げられます。群れで行動します……後は砂漠で活動することはわかっていますが……」
とりあえず何も分かっていないことだけはわかったので黙々と運び入れることにする。
「一応大丈夫だとは思うけれど、肉食獣ってことを考えて集団檻と単体檻である程度分けておくよ。共食いした場合は食料が確保できない場合は共食いをするっていう生態が判明するわけだし、もしそうであるのなら全部一緒にするのはリスクでしかないからね」
「あ、じゃあお願いします」
このジャクリーンさんは……なんだろう、成長前のキュミラさんに似たようななにかを感じるのはなんだろう、こう、この人を年長者として扱ってはいけないという感覚になってくるよね。
「ねぇイネ、共食いだとかで分けるのはわかったのだけれど……大きい施設を丸々倉庫として使えるにしても限界があるんじゃない?」
「うん、だから20匹の檻を3つ、5匹の檻を4つ、残りは全部1匹づつにする予定。まぁこれでも結構なスペースを使うけれど、教会に寄るまでの間だからこれでいいかなって思うよ」
「そういうものなのかな……」
「ずっと持って管理してくれとか言われたら流石に変えるから安心して……って言ってもできないよねぇ、この数は流石に。ところでこの数って元々のバジリクスバードの特徴なの?」
「どうだろう……私も詳しくは知らないから」
まぁリリアの場合遠い砂漠地帯に関して興味はあってもそこに住んでいる動物まで意識が向いていたのかは別問題ってところだろうし、仕方ないか。
「うーん、大体20匹くらいが基本ッスよ。少なくとも私みたいなハルピーたちのコミュニティーではそれが常識とされてるッスから」
やだ、キュミラさんがいつになく頼りになる。
「実際のところ肉だけ食べてるってわけでもなく、クマと比べると肉にしか目がないタイプの雑食ッス、ただ共食いするとかそういうのまでは流石に知らないッスよ」
「身体能力に関してはどれくらいかな、今回のやつは流石に数に押されていたし、リリアの魔法で眠らせたからよくわからなかったんだよね」
「私が直接見たわけじゃないッスよ?」
「それでいいよ、ハルピーの意思や知識の共有能力でわかる範囲で」
「そうッスねぇ……全力で走っても流石に狼やクマほど早くはないッス。ジャンプ力に関してはそこそこあるッスけれど、ハルピーからすればちょっと高めに飛べば回避できる程度でしかないッスし、正直なところ今まで驚異と感じたことはなかったッスよ」
まぁ、自然界で飛び道具がない前提であるのなら高所を取って身体能力も高い猛禽類系ハルピーであるキュミラさんは本来食物連鎖という観点で見れば頂点に限りなく近いポジションだよね。
それでもゴブリンとか相手に逃げたりしていた理由は、単純に飛び道具を使ってくるというのもあるけれど、それ以上に身体能力の差を活かした戦い方をうまくできないということだったからね、イネちゃんもそのへんは理解していたけれど、安全をできるだけ確保した状況でキュミラさんは逃げてたからね、うん。
そういうことを経験済みだったからイネちゃんの中でキュミラさんの評価はかなりのストップ安だったのだけれど、ゴブリン関係が概ね解決した今現在、割と頼りになる本来の空中戦力とそのハルピーネットワークによる知識と知恵で結構信頼度が急上昇している。
「まぁ……万が一の場合はキュミラさんにバジリクスバード、捕食してもらおう」
「生はいやッスよ……アレ、結構寄生虫が多いことで有名なんッスから」
寄生虫による食中毒に関しては外傷扱いでヌーリエ様の加護から外れるのか……いやまぁ元々空の民であるハルピーの人たちには大地の女神であるヌーリエ様の加護が弱く、空の神であるノオの加護が強いとは聞いていたけれど、やっぱり根底の身体能力というか免疫力にも差があるのだろうかとか思っちゃうよね。
大陸だと人体実験扱いになるから生態調査とかの範疇ではなくなってしまうのだけれど、治験モニターとかそういう方向から少し調べてみたくなるよね。
「私としては食材として使えるか知りたいし……そこは私が料理するからさ、お願い」
「なーんだ、リリアさんが料理してくれるのなら安心ッスね!」
「むしろイネちゃんもそれは食べたくなるな……」
話が逸れてそんな和気あいあいとした雰囲気になりつつあったところで、ジャクリーンさんが。
「あのー……私とロロさんだけでは運びきれないのでお手伝い、お願いできませんですかね」
この後めちゃくちゃ皆で運搬した。
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