第4話 火吹きトカゲ
イネちゃんが村に到着すると、既にいくつかの家屋が炎上していた。
流石にロロさん1人では複数匹もいる群れを抑えきることができないのはわかっていたけれど、これでロロさんはゴブリン以外にも故郷を焼かれてしまったことになってしまった。
最も、そのことを嘆くのはいつでもできるので今は被害を最小限に抑えるために、ロロさんが抑えられていない火吹きトカゲの1匹に狙いをつけて対物ライフルの引き金を引く。
空気の壁が破砕するソニックブームが村全体に響かせることが目的で、実際にこの弾が当たらなくてもイネちゃんとしては問題ない。
まぁ流石に悠長にホバリング状態で静止していた的を外したらそれはそれで問題なので最初の1射目は確実に命を奪ったけどね、うん。
そして当然のことながら仲間を一撃で絶命させた音の発生源であるイネちゃんに火吹きトカゲのヘイトは向いてくれるので、愛用の鋼鉄靴をローラーダッシュモードにして高速で村の敷地外へと誘導する。
……と思惑通りに行ってくれればイネちゃんも楽だったんだけどね、ついてきた火吹きトカゲは群れの3分の1程度で、これでは派手に登場して真っ先に大暴れOKな場所まで来た意味が薄くなってしまう。
あ、ちなみに大陸では他のファンタジーでドラゴンだのワイバーンだの恐れられてそうな連中は火吹きトカゲのただの爬虫類扱いである。
これは火吹きトカゲ側が一般ファンタジーにおけるドラゴンと同じ程度の能力しか持たないにも関わらず、大陸では他の生物も軒並み身体能力が異常発達しているために、直接火であぶられても平然とするクマとか、ヴェルニアのお屋敷の本で読んだのだけれど素手で火吹きトカゲと戦って勝った人間がいるらしいとか……どうにも扱い的には『確かに強いことは強いけど、常人でも到達できなくはないライン』という認識で、上位ランクの冒険者や傭兵なら2・3人、ロロさんのようなランカーであるのなら1対1なら余裕で対処できてしまうのである。
とは言えそんな火吹きトカゲが群れで村を襲うという事案は、戦う力を持たない人からすれば十二分に驚異である……この辺は地球でも大型肉食獣が民家に群れで押し寄せてきたっていうのを想像すれば伝わりやすいかもしれない。
「ともかく数を減らさないと……」
なにか理由があって本来の生息地から離れざるを得ない状況になってしまったのかもしれないけれど、それはそれ、これはこれということで今この場で行われている無意味な破壊は止めないといけないしね。
しかしイネちゃんが読んだ本だと火吹きトカゲの性格は激しいものの、今回みたいなあちこちに火をつけてってことはしないって書かれていた記憶があるんだよねぇ。
元々の調査が間違えていたのか、それともゴブリンの影響で凶暴化してしまっているのか……もしかしてイネちゃん、ジャクリーンさんの依頼でそのへんも調査対象だったりするのかな。
流石に自由に空を飛べちゃうような肉食獣系統の火吹きトカゲが調査対象になってるとイネちゃんの能力だといろいろ足りない気がするんだよなぁ。
火吹きトカゲがイネちゃんがあれこれ考えている間もずっと火を吐いてきているけれど……まぁイネちゃんの勇者の力はヌーリエ様の力を一部ながら行使できるもので、基本的にその影響範囲は無機物なのだけれど例外が存在して、その例外である自分自身の身体を火に対して圧倒的に強い溶岩であっても耐えられるようにしてあるのでこの程度でイネちゃんがダメージを受けるようなことはない。
つまり……武器の耐火性能にさえ気をつけていれば火吹きトカゲ相手なら一方的にこちらだけ有効打を叩き込み続けることができるため負けることがまずあり得ないからね、ちょっといろいろ考える時間にしちゃってるな……集中しなきゃ。
再びイネちゃんが対物ライフルの引き金に指をかけたところで、それは来た。
「我が同胞がすまない、人の子よ……これ以上殺めるのはやめてもらえると助かるのだが……」
イネちゃんの真上、影が落ちていないし羽ばたく風切り音すら聞こえなかったのに、突然声だけ聞こえてきてそりゃもうびっくりしたよね、流石にびっくりして引き金を引いてしまうよなミスはしなかったけれど慌てて銃口を地面に叩きつけてしまったので分解メンテか勇者の力による力技で対応しなきゃいけなくなってしまった。
いやまぁそれで済むならいいじゃんと思うかもしれないけれど、状況的に悪い方に流れたらこの声の主と即戦闘という可能性が否定できないわけで……そうなるとその一瞬の間が隙になる可能性が極めて高いので会話をしながら少しづつ銃口に詰まった土をどうせだから銃身とかの補強のために分子構造を変換して空想合金に変換しておく。
「おっとすまない、今の状態ではそちらから姿が見えぬな……礼を失して申し訳ない」
そう聞こえた直後、村全体に影が落ちた。
「更に失礼を重ねているが……我が名はナガラ、最もこの名はアスモデウス殿に付けてもらったものではあるがな」
「アスモデウスって……ムーンラビットさんのこと?」
「む、今は別の名を名乗っておられるのか……気まぐれなあの方らしいな。ともあれ貴殿の考えるとおりのお方で相違ない」
貴殿とか呼ばれてイネちゃん、背中にぞわって感じになったけれどともあれ会話、対話が可能であるのならやることは1つ。
「同胞を殺すなというのなら……」
「わかっている、我の言葉でも止まらなかったものはそちらの法で処罰してもらって構わないし、食してくれてもよい。元々あの方とはそういう契約で生かしてもらっていたのだからな」
過去形ってことは今回のは約定破りということかな。
「それはで今から言葉をかける。それでも破壊行動を止めなかった者に関してはもう我の言葉も届かぬほどに畜生に成り下がったもの……畜生であるのなら明日の糧にでも肥やしにでもなんでも好きにするとよい」
ナガラさん……って呼ぶとこう、日本人っぽいよねどことなく。
大陸のヌーリエ教会と関わりが深い人たちは基本的に和名みたいな感じだけれど、それはまぁ見た目人間だからヨシュアさんでもそれほど困惑しなかったけれど、流石にドラゴン相手に和名っぽい呼び方はイネちゃんだって困惑しちゃう。
「やめろ」
あ、言葉がわかる。
イネちゃんの場合元々大陸と日本語と英語のマルチリンガルではあるけれど、流石にドラゴン語とかわからないと思っていたから意外。
これもヌーリエ様翻訳だったりするのかもしれないけれど、ドラゴン語がしっかりと理解できるのなら今は便利だからね、とりあえずイネちゃん側で止まらなかった火吹きトカゲが居た場合に備えて対物ライフルをいつでも発射できるようにしておかないとね。
「……ダメだ、ここにいる同胞は既に正気を失って時間が経ちすぎたようだ。我の声ですら届かなくなってしまっているとは流石に想定外だ」
「じゃあ、火吹きトカゲは全部倒すけど、いいの?」
「仕方があるまい、我ら龍種が約定を違えたとあっては沽券に関わる。同胞とは言えここまで狼藉したものの処理をそちらに全任してしまうのも気が引ける、微力ながら力を貸そう」
「いいの?」
「何、人が行う争いと比べればな。これは人の言葉に直せば法執行となるだけだ」
「そういうことなら」
丁度会話が終わったところで対物ライフルの詰まりも解消したし、イネちゃんの発砲音とほぼ同時にナガラさんの咆哮からの尾撃で一気に蹂躙されてしまった。
ドラゴンと呼ばれる人語を完璧に操る種に関してはなる程、これは普通に強い。
「イネ!」
そして事態が概ね片付いたところでの即リリアである。
「リリア!まだ戦闘中!」
「で、でもそのドラゴンって……」
「な、なんと……アスモデウス殿!?い、いやしかしこれは少々魂の形が違っておる……どういうことだ」
「あ、やっぱりばあちゃんの知り合いだったんだ、私はリリアです」
「むぅ……ばあちゃん、というのは人間語では先々代だったか?となればあのお方は子を成したということで……本当、気まぐれなお方だ」
うんまぁ……リリアの社交性ならナガラさんは問題ないとは思ってたけれど、正直ナガラさんの方が困惑することになるとは。
「ともあれだ、今はこやつらを鎮めねばなるまい。たとえ絶命させてでもな」
「まぁリリア、そういうことだから……被害のまとめとかは終わってからで、ね」
そう言いながらもリリアが駆け寄ってこれるレベルで、既に終わってはいるんだけどね。
残っているのは他で戦闘中だった数匹だけで、ナガラさんの協力もあり残った火吹きトカゲはすぐに一掃することができた。
さて……この後の絶対面倒になる流れはどうしたものかね、うん。
今後の展開にイネちゃんはちょっとげんなりしながらも被害状況を見ながらロロさんのことを考える。
今回の火吹きトカゲの襲撃で結果的に2度も故郷を焼かれてしまったわけでね、その心境は察するにあまりあると思うのだけれど……。
「ナガラさん、リリア、事の経緯と被害規模についてのお話は任せていいかな、イネちゃんはちょっとロロさんのところに行きたいんだけど……」
そういうとリリアとナガラさんは静かに首を縦に振ってくれたのでイネちゃんはロロさんのところへと急ぐのだった。
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