第10話 闇のエルフたち

「しかし、ダークエルフか……はじめて見たな」


 ユガたちの姿を見たアユムが驚いたように言う。正体を隠す意味がないと判断したユガたちはフードとマントを脱ぎ去り、身動きしやすい姿で2人を包囲した。

 全員が浅黒い肌をもった白髪のエルフであった。武器を構えて距離を伺いつつ、二十人ほどが攻撃の隙を伺う。


「ダークエルフ?」


 持っている剣に雷撃の魔法を込めつつカーツが聞く。アユムは鞘から抜きもせず、周囲のダークエルフを眺めた。


「いや、本当にそう呼ぶのかはわからないけどね。ボクのとこじゃダークエルフって呼んでた」

「先生は何でも知ってますね」


 尊敬を込めたカーツの言葉にアユムが苦笑する。ユガは輪刀を構えつつ、片頬を吊り上げた。


「ダークエルフと知っているとはな。我らはユキヒサ様に魔力強化されたエルフよ」

「わざわざ作ったのか……手間のかかることをする」


 呆れたようにアユムが言う。その瞬間、ダークエルフの1人が輪刀を投げつけるがそれをあっさりを鞘ではじく。


「やるな……」


 それを見たユガがゆっくりと距離をつめる。同時にダークエルフたちも動き出す。


「来るぞ!」

「はい!」


 一斉にダークエルフが土を蹴った。飛行魔法で飛び上がったカーツは彼を追って放たれた輪刀を空中で次々と叩き落す。アユムは懐に入ろうとするユガをかわしつつ、鞘で左右からくる輪刀を迎撃した。

 反応速度も膂力もレベルが違う。戻ってきた輪刀をつかんで斬りかかっていった2人のダークエルフをあっさりと気絶させ、アユムはユガへと視線を向ける。態勢を崩したところを狙った彼らの連携がアユムの化け物じみた動きによって破られたのだ。

 ユガは舌打ちをすると輪刀の柄をいじった。輪となっていた刃が左右に広がり、双身剣へと変化する。


「ユキヒサ様より与えられしナギナタブレードを味わうがいい……」

「また扱いづらそうなものを……」


 ユガの言葉にアユムはまた苦笑するしかなかった。前世で見たアニメを思い出しながら、アユムはユガとの距離をはかる。


「そんな武器は役に立たないだろ。突くにしても振り回すにしても手間がかかりすぎる」

「そうかな?」


 ユガの顔が笑みに歪んだ。力を込めると右腕を覆っていた衣服がはじけ飛び、銀色の腕が露になる。


「義手?」

「そうよ。ユキヒサ様がオレに与えてくださった銀腕よ!」


 そう叫ぶとユガの手首がありえない角度に動く。肩も肘も手首も角度を変え、持っていた双身剣が高速で回転しだす。


「おい、本気でゲルググか」


 高速で動く双身剣をかわしつつ、アユムは驚いた。双身剣をまるで丸鋸のように操りながら、ユガは次々と攻撃を繰り出していく。


「先生! 大丈夫ですか!」


 ほかのダークエルフと戦っているカーツが声をかける。アユムは滑らかなステップを踏みながら、そちらへ顔を向けた。

 カーツは十人ほどのダークエルフを相手に善戦していた。強化されているであろう彼らの変則的な攻撃を剣で左右にかわしている。


「こっちのほうは心配いらない。カーツは自分の身を守ってくれ」

「は、はい!」


 飛行魔法を解き、木々を盾にしながらカーツは見事な戦いぶりをみせている。愛弟子の成長を頼もしく思いながら、アユムはまた飛来したユガの双身剣をかわす。


「ちょこまかと!」


 アユムは剣を一度も抜いていない。体術だけで攻撃をかわし続けている余裕にユガの怒りが増していく。だが、百戦錬磨のユガは動きが乱れることのないように自制しつつ、憎悪を刃に込めて精妙な攻撃を繰り返した。


「反撃しなければオレは倒せんぞ!」


 上下左右に襲ってくる刃をかわすアユムをユガが挑発する。アユムは困ったような顔をして、一瞬だけ空を見上げる。次の瞬間、アユムは一気にユガと距離をとった。


「カーツ!」

「了解です!」


 アユムの合図でカーツが同時に跳躍する。2人が一気に距離をとったのをみて、ユガたちダークエルフの動きがわずかに止まる。


「! しまっ!」


 ユガが事態に気づいたときには遅かった。頭上から無数の光の槍が降り注いだ。



「めいちゅー、じゃな」

「お、おそらく」


 片目を閉じて手をかざし、彼方を見つめるカダーヤの横でイェリアが必死に目を凝らす。

 エルフの視力は人間の比ではない。ましてや神との混血であるカダーヤはケタ違いの視力を持っている。点にした見えない距離を飛ぶ鳥を易々と射落とせると豪語するのをイェリアは聞いていた。


「森の~、あそこらへんで殺気がグルグルしていたのでな。ドドンと撃ち込んでみた」

「カーツさんとアユム先生は大丈夫でしょうか」


 心配そうなイェリアにカダーヤはニシシと笑う。


「なーに、アユムならチョチョイとかわすであろうよ。カーツは……まあアユムの弟子なら大丈夫じゃろ」

「そんな無責任な……」


 カダーヤが放ったのはアユムと戦った時にも使った光の槍の魔法である。豪雨のように降り注がれた光の槍によって、森の一角に光の林が出来ている。


「さて、ゆくぞ! 全隊突撃じゃ!」


 背後のエルフたちに号令し、カダーヤは手綱を絞る。あわててイェリアも走り出す。


「急ぐぞ! アユムたちが全部倒してしまう前に到着するのじゃ」


 好戦的な笑みでカダーヤが叫ぶ。徒歩で駆けだしたイェリアは自分の体力がどこまでもつかだけが心配だった。

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