第7話 ヤー様は語る

「しかし、女神の娘とは……」

「すごいじゃろ?」


 先ほどまで戦っていた広場から応接の間に案内されたアユムとカーツたちは、エルフたちの給仕を受けながらカダーヤの得意話を聞いている。

 ここは大森林のとある場所にあるエルフの拠点の1つである。エルフは定住せずに部族ごとに各地を転々とするのだが、有事のために各地に拠点を建築している。カダーヤと長老会と呼ばれるエルフの首脳部は、これらに定住してエルフ全体を統治している。


「母上はこの森で父上と出会って恋に落ちてな。神とエルフの間に生まれたのが私と言うわけよ」

「それって何年前なんですか?」


 神々が地上から姿を消したのは太古のことだと伝承されている。地母神の巫女としてイェリアは当然の疑問を口にした。

 カダーヤはしばらく視線を空中に遊ばせ、指を何度か曲げたり伸ばしたりする。どうやら計算は苦手らしい。


「七千年くらい前かな」

「ななせ……ん?」


 エルフが人間よりはるかに長命なのは知っているがせいぜい10倍程度と聞いている。カダーヤのケタ違いの年齢にイェリアは絶句してしまう。


「若い?」

「え? ……ええ」


 イェリアの言葉にカダーヤが胸を張る。苦笑するアユムにカーツはそっと耳打ちをする。


「本当なんですか? オレには子供にしか見えませんが」

「長生きしたからって精神が老けるとは限らないからね」


 アユムの言葉に釈然としない顔でカーツはカダーヤを見つめる。カダーヤはそれに気づいてニヤリと笑った。



「神々の鉄か……そんな大したものではないぞ」


 カダーヤはお茶をすすりながら拍子抜けする内容を話す。カーツたちは神の娘の言葉をじっと聞き入っている。


「あれは母上たち神々が日用品の材料として作ったものでな。わりあいありふれたものだ。さすがにエルフや人間には作ることはできん。鍛冶の神ペルクナ殿が作っているものだからな」

「では、それを集めたところで問題はないのか?」


 アユムの言葉にカダーヤは頬杖をついてしばし考えこむ。


「強度はこの世界のどの金属よりも固いだろうな。ドラゴンなら傷つけることもできるだろうが、われらの作る銀鉄やドワーフどもの玄鋼では歯が立たないだろう」


 ドワーフのことに言及したときカダーヤの顔が曇る。カーツはそこにひっかかるものを感じたが、会話をさえぎるような質問を避ける。


「武器や防具として加工できれば相当強いだろうが……軍隊すべてを武装できるほどの量はもう地上にはあるまい」

「ユキヒサが自分の防具を作るためだけに使うには多すぎて、軍隊を武装させるには少なすぎるってわけか」


 アユムが整理する。カーツとイェリアはチラリとお互いを見るがどちらも考えが浮かばない顔でまた視線をそらした。


「あとは増幅効果だな。あれには使用者の魔力を増大化させる効果がある」

「……おそらくアイツの狙いはそれです」


 ユキヒサの魔力は人類のレベルをはるかに超えているが、それをさらに増大できれば地上に敵はいなくなる。カダーヤやアユムも強化されたユキヒサの魔力には勝てないとカーツは思っていた。


「それはそれで自分の装備品以上の材料を集める意味がわからないね」


 アユムが椅子に深く座って考え込む。


「何かの魔術儀式のために大量の魔力が必要なのではないでしょうか? それこそユキヒサの力以上の魔力が」


 イェリアの言葉にカダーヤとアユムが目をキラリと光らせる。しかし、二人ともしばし考えこんで息をついた。


「可能性はあるが、何をするかがわからんではな」

「大規模魔術でやれることなんていくらでもあるからね」


 カーツやイェリアは大規模魔術とやらを見たことがない。その後、カダーヤとアユムが会話をするが高度過ぎて何を言っているか半分も理解できなかった。


「あ、あの、カダーヤ様はアユム様とどうやってお知り合いに?」

「!」


 イェリアが苦し紛れに質問する。すると、カダーヤの眼が輝き、アユムが困り果てた顔に変わった。どうやら踏んではいけないものを踏んだらしいとカーツは一瞬で悟った。


「おうおう、よく聞いてくれた! あれは10年以上前になるか。ヤー様が大森林からちょこーっとお出かけしたときのことよ」

「……カダーヤ。それは後で」


 その後、カーツとイェリアはカダーヤからアユムとの出会いを2時間近く聞かされることになった。

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