第三ウェーブ 過不足だらけの最前線
あくまでフィクションなんだから、そこは現実と切り離して楽しめばいいって話なんですけれど、でもゲーマーとして、ソシャゲの実態を知っている身とすれば、はっきり言って不安です。
ラノベは頭カラッポにして読めるからいいんだって方もいますし、私だって本の楽しみ方なんて、人の自由だって思います。でも、意味を分かった上で頭をカラッポにして楽しむのと、最初から何も入れてないのにカラッポのまま楽しむのは、全く意味が異なってしまう。
子供に世間を教えるのは、大人の役目。だけれども、大人もゲームとか、スマホの事はよく分かんない。だからほったらかされて、世間では毎月のように、ソシャゲによるチーターのアカウント停止が、何万、何十万と起きている。余りに悪質だと警察沙汰、裁判沙汰だって起きています。無知であろうと、子供であろうと、反社会的な行為をしている事には、変わりが無いんですから。
……こんな現実があるのに、大した説明も無くソシャゲやチートに乗っかって儲け続けてるラノベ界、本当に、いいんですかね?
もしこんな声が届いたとしても、ソシャゲ界の問題はソシャゲ界の仕事だとか、「ちゃんと、この作品はフィクションです。実際の団体やうんたらには、一切関係ありませんって書いてますから」って言うんでしょうけれど、誰がどの職業やってる以前に、子供にものを教えるのは、やっぱり大人の役目なんじゃないでしょうか?
「人の好き嫌いを邪魔したらあかんよ」
ぐるぐると考えながら、私は末弟に言いました。
「数字を出してしまえば今のアニメって、そういうラノベ原作のものが多いらしいし、つまりアニメ化出来るだけ、原作は売り上げを出してるって事になるやろ? うちらには全く分からんかったとしても、それが好きな人は一定数おるんやから、自分がどれだけその作品を許されへんかったとしても、その物差しを、人に押し付けたりしたらあかんよ。うちらがゲーマーとして、チートやチーターを絶対に許されへんように、そのラノベやアニメが好きな人かって、その作品を馬鹿にされんのは、絶対に許されへんねんから。確かに最近のラノベは、アホなチーターが蔓延ってるソシャゲを題材としてるものも多いから、どうしてもゲームに詳しい身にとっては、グレーに見えがちになってまうけどね」
「楽ばっかして何が楽しいんよ」
末弟は吐き捨てました。
私は、考える為に、とっくにプレイの手を止めていましたけれど、彼は話しながら、ずっと戦い続けていました。話しながらでもあれだけのプレイが出来るとは、やっぱり彼は強いんだなと、毎度思い知らされます。彼は私よりゲームに詳しいですから、ソシャゲにおける、中高生のチーター問題だって知っています。
末弟は、うんざりしながら言いました。
「今時の流行りが、私には全く分からんよ」
私は、せめて、この嫌に重たい空気だけでも取り除こうと、妙にひょうきんに返します。
「まあ、確かに言えるのは、君の周りの友達にソシャゲやってる子おったら、ゲームについて教えたってな」
「チーターとなんか遊びたくないから絶対に確認してる」
「それは結構」
寄せ付けないような末弟の即答に、私はプレイを再開しながら答えました。
十代の中でラノベが流行ってる理由は、もう何となく分かってるだろうけれど、今はストレスが多い社会だって言われてて、大人になると、遊びの中でもストレスを感じたくないから、そういう頭カラッポにして楽しめるラノベとは、子供に限らず若い人には、今はやっぱり人気なんだよとは、敢えて言いませんでした。
これは私の物差しですが、仕事の中だろうと遊びの中だろうと、泣き言なんて簡単には言いたくないので。ましてこうやって、自分が好きなものに本気で取り組んでいる、子供の前で。
かと言って、今すぐ末弟の為に何かしらの案を出せる程の力もありませんから、この話になる度にふんふんと、私は彼の話を聞いてやります。彼も文句ばっかり言ってる訳じゃなくて、最近のもので面白いラノベや漫画は無いだろうかと、日々探してるみたいですしね。あれは面白かったとか、どれは暇潰しぐらいにはなるとか、ちょくちょく教えてくれます。
大人になっても、中々ヒーローにはなれませんね。
そこで、ふと私は、まだ残っていた疑問を思い出しました。
「……そう言えば話戻すけれど、君はそのアンケート、何て答えたん? やっぱり一位の『お兄ちゃん』か、二位の『ご主人様』……」
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