第二ウェーブ 特定種達の疑問


 私はぽかんとして尋ねます。


「何で? めっちゃおもろいやん」


 末弟は今度は、妙な静けさを纏って話し出しました。


「分からないのかねワトソン君? このアンケート結果とはつまり……。うちのクラスの男子とは殆どの者が、ラノベかそれを原作としたアニメばっかり見ている、脳味噌ハッピーセット野郎共だという事がッ!!」


「いやそんなん人の趣味やん」


「わァたしは言いたいッ!!」


「何をよ」


(※この辺りで既に互いの温度差は、北海道と沖縄ぐらいを観測しています)


「――夢を見るのはいいが、そんなこの現代に溢れ返っている、ライトな! 浅い! ご都合主義では無い! もっと深みのある作品やキャラクターを、愛せないのかとッ!!」


「君の年齢って丁度、ラノベユーザーやけどねえ」


 この十代特有と言いますか、自分が好めないもの=駄目とか、悪、みたいな流れになりつつある会話をどう修正しようかと、私は完全にゲームの手を止めながら口を開きました。


「それに君、元々はラノベ読んどったやん。『とある魔術の禁書目録インデックス』。新約も、途中までは追いかけてさ」


「表紙を飾る女性キャラクターが、巻が増すごとにどんどん脱衣していって、ほぼ全裸みたいな奴が現れてから付いていけなくなって買うのやめた!」


「せやったね」


 もう何年か前に、聞いていたのを思い出しました。自分が追いかけていたラノベに限らず、昔と比べて今のラノベとは、何だか読み応えがなくなってしまったと。余りに主人公に有利過ぎる、つまり、余りに主人公にとって都合のいい展開を取る作品が増え過ぎていると感じ、彼は中学の三年生ぐらいから段々、ラノベを読むのをやめたのです。よく見る『チート』という言葉も、かなりのゲーマーでもある私達姉弟きょうだいにとっては、正直に言えば不快な単語ですし。


 ここに触れると長くなってしまうので軽く済ませますが、チートとは英語で表すとcheat。ズルや、騙す、上手く逃れるという訳にあるように、多くのラノベが題材としているゲームの世界では、本来絶対に許されない不正行為です。ゲームを愛していればいる程。末弟はとてもゲームが上手で、このチート使い=チーターと呼ばれるプレイヤーを、正々堂々、磨き上げた自分の腕で撃退するような人なので、この頃のチートでうんちゃら、という作風が多いラノベ界は、どうしたって認められないんですね。だって彼は、あるFPSのゲームで、当時日本最強だったプレイヤーと戦って、認められたような人なんですから。


 ある意味、物語の世界に逃げなくたって、自分の好きな事で、楽しく生きて行けている人です。それは言い換えると、今のラノベを読まなくたって、充実していると言えるのかもしれません。今のラノベに多くある作品では、彼を楽しませる事も出来ないと、言えるのかもしれません。


 でもそんな人って、決して多くないんですよね。世界レベルで生きてるような人に認められる程の力を付けるなんて、どんな事でも並大抵の努力では叶えられませんし。現に末弟は、毎日のようにFPSの動画を観て、プロゲーマーや実況者達の知識や技術を吸収し、自分が満足出来るプレイを追い求めています。自分の夢を叶える為の、大学推薦枠を取れるぐらいの成績も保ちながら。


 ラノベなんてナメてんのかよ。


 彼の心は、そう言っているように感じました。

 

 自分が本気で好きなものの為になら、どんな努力も惜しまず払って、何度ボロボロに負かされようと、満足出来るまで高みを目指せよ。そんな事もしないでズルして勝って、何が楽しいんだ。そんなもの、本気でやってる奴に対する、ただの侮辱だ。そのゲームを作ってくれた、開発者達に対する冒涜だ。何にもしないで夢ばっかり見てる奴らが読んでる小説なんて、俺は絶対に認めない。


 夢を見てるだけで、夢を追いかけてはいないんだから。


 夢を与えるって何だろう。


 末弟がゲームをしながら、最近のラノベつまんなくてやだーと話す度に、考えます。


 私は、ラノベがきっかけで本を読むようになって、ラノベ作家を目指す十代が、カクヨムさんのコンテストを見るだけでも、それは沢山いるんだなって感じます。いーじゃないですか。青春で。彼らだってきっと、本気なんですから。ラノベだってチートものが目立つだけで、色んなジャンルがあるんですし、チートという言葉も本当にチートを使っているような動作をキャラクターがするだけじゃなく、チート級に強い、とか、チート級に有利な条件の下楽をする、という、ただの表現にしか用いていない作品もあるんですし。ただ、何てんでしょ。チートを扱った作品が人気を出して、手を変え品を変えながら増え続けているのは多分、ラノベ特有の読みやすさと、ソシャゲの普及もあるからで、ソシャゲってチート使用者とんでもなく多いんですね。その理由は、プレイヤーの低年齢化。


 今って小学生でもスマホ持ってるじゃないですか。ソシャゲとはプレイ料金が基本無料ですから、勝手に入れて遊んじゃう。ネットやゲームに対してのルールやマナーを知らないまま入り込み、チートを、ゲームを有利に進める為の単なる道具として捉え、不正行為と知らずに使う、中高生ユーザーのその膨大さが、もう何年も前から問題になってるんです。


 チートとは余りに悪質だと、アカウント停止じゃ済みません。書類送検にまで発展している事件だってあります。でもこの辺の現実を、今の十代って一体どれだけ知ってるんだろうと考えると、このラノベのチートを扱った作品の、長きに渡る流行り具合を眺めていると……。知らないんじゃないの? と、私はどうしても、考えてしまいます。チートが英語って事も、その訳すらもきっと、知ってる十代は少ないのではないのだろうかと。意味知ってたら……。面白い? こんなに長く、流行るのかな?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る