第伍話 自縄自縛の過去 (2018.12.06) PM10:45

2018.12.06 PM10:45 某所


 今日日、空は薄暗い都会の様相と等しく。人工的な光の方が目立つ。

 五反田は飲み屋の帰り、この日は早めに帰路へ着く。閑静な路地に差し掛かる、手じかな灯りは街灯のぼんやりとしたし光だけ。後ろからヘッドライトに照らされて、白いバンが停まったかと思う間もない。後部座席のドアが完全に停車する前から開いていた。角材に数十本の釘を打ちこんだ物ゲバ棒で殴られ、突然車内へと引き擦り込まれる。必死の抵抗で、ドアをこじ開けてアスファルトへ転がり出た。手癖で武器になりそうなものを探すが、非情にも武器になりそうなものは無い。暗がりばかりが広がる裏路地だ。五反田が大きな舌打ちをすると、後部座席からは先ほど自身の頭を殴った男が降りる。――その顔には見覚えがあった。十四年前に検挙した指定暴力団、高岬組の殺し屋だった。

「ずっとこの日を待ち望んでいた」

 片手には殺意を具現化した角材。濁った瞳は暗がりからでも爛々としている事がはっきりと分かる。池亀いけがめたくは憎悪に燃え、復讐心むき出しで車内から降りた。

白兎ウサギの仇はきちんと取ってもらおう」

 運転席からツレの男が降りる。うっすらと月光が雲から覗き、差し込んだ。五反田は容易に想像できる、――この男が最古にしてトップ、高岬組の残党だと。

「どっちがヤクザだかわかんねぇな」

 岬は声を張り上げた。片手には真っ黒な銃身をした自動式拳銃。減音器サプレッサーのついた銃口から上がっていたのは硝煙。彼が撃った事は明白だった。

「舎弟の心臓ぶち抜いて、兄弟に擦り付けるだなんて」

 唸り声をあげて五反田は膝をついた。右腿の肉は裂け滴る血の色は紅。薄桃色の肉片じみた欠片がアスファルトに散らばる。鮮血があたりに小さな水たまりを築いていった。

「腐れ外道にもほどがあるだろう」

 続けて岬は左上腕部を狙って弾丸を撃ち込む。五反田は避けることもままならず、左肩も弾丸の加圧に耐え切れず肉片がぶち飛んだ。

「……生憎、こちらも始末書など書きたくないもんでね。犯罪者に同情する気など無い」

 命乞いではない。悠長に煽り文を並べるが、五反田には現状の打開策が思いつかない。丸腰の自分と、武器を持った男が二人。それも日本では流通するハズもない拳銃だ。――が悪い。五反田が岬を睨みつけるが、岬は冷たい視線。まるで見下すかのように向け「命乞いしろ」と命ずる。

「断る」

 間髪入れずに五反田が答えると、岬は返事の代わりにもう一発、銃声が轟く。

「白兎の仇だ、同じ死に方をしてもらう」

 最後の一発は心臓に放たれた。ジャケットには焦げ跡と上がる煙。五反田はそのまま力尽きるように倒れた。排莢した、空薬莢がカランッとアスファルトへとぶつかる。岬は「ハッ、もう聞こえねぇか」と空薬莢を蹴った。金属の光沢が月明かりで照り返す。カラカラカラと風鳴りと共に役目を終えた。

 意識が朦朧とするさなか、五反田は携帯電話へと手を伸ばそうとするが叶わず。己の血で出来た水溜りの中で意識を手放した。


(続)

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