第8話 鼻持ちならぬはあの人と (2018.12.03)

 通報を受けて一番近くの駐在から派遣されたのは、八丈島もよく知る人だった。実況見分の資料となる写真を収める職員を横目に、六郷の顔色をうかがう。当然のように不満だらけの表情を張り付けていた。

「お久しぶりですね、」

 無論、この流れで声を掛けないわけにもいかない。控えめな態度で八丈島は歩み寄るが、六郷はかつての部下が順調に出世していく様子が気に入らなかった。

「偉くなったもんだな。ヒトの仕事を取り返すまでも暇なのか?」

「……冗談だと受け取ってきますが、」

「が? なんだ。管轄外で点数稼ぎをしろと教えた事は一度もないぞ」

「そうですね、教わったことも無いですし」

 そもそも六郷の性格上、人にモノを教えるというのが大層苦手なタイプであった。例に倣って配属された新任はふるいにかけられる。他の駐在所や交番では約三割でとどまっている離職率。ただ六郷が教育担当をしている交番は別だった。何故、某所交番だけが離職率を八割と高めているのか。いったい誰によって、新任警察官がその任を捨ててしまうほどに、気を病ますのか。四から六人程度で回っているシステムだ、考えるまでもないだろう。六郷辰二、彼には向上心も無い。定年が近づいた近年においても、巡査長の肩書で満足しているが故、明白だった。下っ端をいびり、圧力をかける性格はいまだ健在で、あいも変わらずである。そんな教育担当を引いてしまったのにもかかわらず、離職しなかった二割である八丈島からしてみれば、人となりを知っているが故、想像に容易かった。


(続)

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