第173話 捜索
「やっぱり見当たらないな…………」
森の上空を滑空していたメルは、空からの捜索を諦め、地面に降り立つ。
降り立った先、荒れに荒れた周囲の森の様子を見て、メルの不安はさらに大きくなる。
あの二人のことだからそんな大事になっているとは思えないが、こんな荒廃した森でいくら探しても姿が見えないとなるとやはり心配になる。
メルが唇を噛んでいると、下で探していた神無が近づいてくる。
「メルちん……」
「どうだ? いたか?」
神無は無言で首を横に振る。
神無の優れない表情から見ても、望み薄のようだ。
この夜の暗闇の中、探すには神無の鼻を頼りにしていたのだが、こうも周囲が荒れ果てていると、匂いを見つけるのも難しいらしい。
何より、
「何だか二人の匂いは微かにするんだけど、方向が定まらないんだよねぇ~。あっちこっちから匂いがしてる気がする」
「クソッ……! 携帯にかけても反応がないし………一体どこに行ったんだアイツら?」
「二人とも……ちょっと来てくれ」
「どうしたのイヴちん?」
頭を悩ませていた二人を、イヴが手招きする。
二人は呼ばれるままイヴの下に来ると、目の前に広がる光景を目の当たりにする。
二人は、その光景に驚き、目を丸くした。
「何だこの大穴!?」
「ひゃあ~」
「二人を捜索していたら見つけた。もしかすると、二人はここに落ちたのではないか?」
「本当だ! ここで二人の匂いが途切れてる! 二人はこの先にいるのかも!!」
「だったら話は早い! 早速潜って二人を……」
ようやく掴んだ二人の手がかりに、メルは勇んだ様子で穴に飛び込もうとする。
しかし、その前をイヴが手で制止し、引き留めた。
「なんだよ?」
「止めた方がいい。この穴に入ることは奨励できない」
「なんでだよ!? この先にアイツらがいるかもしれないんだぞ!?」
「聞こえないのか? この音が」
「音?」
メルは穴口に向かって耳をそばだてる。
すると、穴の奥から何かが流動する低い音が微かに聞こえてきた。
「この音は……」
「地下水脈だ」
「地下水脈?」
イヴは頷くと、手首の時計を見るかのように手首の内側を上に向ける。
すると、手首から光が放たれ、空中に立体映像を映し出す。
映し出されたのは、何かの地図のようなものだった。
「なぁにこれ?」
「これはさっきこの周辺の地形情報をスキャンしたものだが、今いる辺りはかつて川があったようだ」
「それが今地下水脈になってるってことか?」
「肯定だ。音から聞いて深さは約三.二メートル、流れの速さは時速約四十キロメートルの急流だ。恐らく海に向かって傾斜が急になっているんだろう」
「俺なら飛べる。急流も関係ない」
「急流だけが問題ではない。この地図を見ればわかるだろう。黄緑の線が地下水脈だ」
メルと神無は、イヴから示された地図に目を凝らす。
イヴの言う黄緑の線は、一本の蛇行した太い線から、いくつも枝分かれしている。
「あっちこっち分かれてるね」
「この無数にある支流の一つ一つを飛んで調べられるか? しかも、光のない暗闇の中を」
「うっ…………」
イヴの言葉に反論できず、メルは言葉を詰まらせた。
流石のメルでも、コウモリのように暗闇の中を自由自在に飛び回るのは不可能だった。
「じゃあどうすんだよ! このままアイツらが海に流れてくるのを待ってろってのか!?」
「安心しろ。手は打つ」
「え?」
無表情で淡々と述べるイヴに、二人はキョトンとした顔をする。
表情を変えぬまま、イヴは得意げに鼻息を「フン」と鳴らした。
※
「ぶわっくしょいっ!!」
「暁、親父くさい」
「ううっ……今日はやたら水に縁があるな……」
暁は水の滴る上着をしぼりながら、自重気味な愚痴をこぼす。
暁と姫乃は無事だった。
地面の陥没と共に落下し、地下水脈に流された二人だったが、何とか陸地を見つけだし、そこに避難していた。
無論、泳げない暁は姫乃に助けられてだが。
僅か五メートルほどの小さな陸地だが、二人は肩を寄せて一息ついた。
暁は『アルマ・リング』から魔石を取り出すと、地面に置く。
魔石から放たれる光が、周囲を明るく照らした。
「しかし……参ったな…………携帯も流されちゃったし…………」
「助けは呼べないのか?」
「一応僕の義眼の発信器を起動させたからその心配はないけど、すぐには来ないだろうね」
「なら、しばらく待つしかないか……」
「まぁ、この状況なら仕方なっ…………」
頭を掻きながら隣にいる姫乃を見た暁は、思わず息を飲む。
魔石によって辺りが明るく照らされたことで、この暗闇の中でも、横にいる姫乃の姿がよく見える。
しかし、そのせいで今の姫乃があられもない姿を晒していることに暁は気づいてしまった。
水に濡れたことで、姫乃の服が体に張りつき、その豊満なボディラインをこれでもかと暁に見せつけてくる。
しかも、濡れた上着からは下着がうっすらと透けて見えており、紫という下色から白のレース柄まではっきりと見えてしまっていた。
「うっ…………!?」
「? どうした暁?」
「いっ……いや、何でもない。何でもないよ…………」
姫乃の扇情的な姿を見て、暁は全身に鳥肌が立ち、体温が熱くなるのを感じていた。
胸の鼓動も、どんどん激しくなっていく。
普段も姫乃のこのような姿を見れば確かに喜び興奮するが、今のこの状態は明らかにそれとは異質のものだった。
(この感覚……まさか……!?)
暁は唇を噛む。
そして、姫乃に気づかれないように自分の胸に手を添えると、強く押さえる。
激しくなる一方である胸の鼓動を何とか抑えようと、暁は祈りながら胸を押さえ続けた。
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