第135話 女の感

「『ツイスターゲーム』…………いかがわしい、却下。『ポッキーゲーム』…………させてどうする却下。『水上尻相撲(水着で)』…………なんだそりゃ却下」


「ええ~尻相撲も駄目ぇ?」


「いかがわしいと判断されるものは却下です」


 姫乃は手にしているいくつかのくじを、『却下』と書かれた箱の中に投げ入れる。

 その様子に、源内は不満げな顔をしていた。

 現在、姫乃の厳正な審査のもと、ふらんとイヴの競技種目が決められていた。

 結局最初にくじにしていた種目は全て『いかがわしい』として却下された(邪な欲望に任せて書かれたくじだから当然と言えば当然だが)。

 なので、今は源内とクロウリーの二人に新しい種目を出してもらっている最中なのだが、状況はご覧の通り芳しくない。

 『却下』と書かれた箱の中のくじを、神無やメル、澪夢の三人が眺める。

 暁を呼びにいくと言ってから、全然裏庭から帰って来ない姫乃の様子を見に来て、今回の事に巻き込まれていた。


「おお、『野球拳』だって。何か格好いいね」


「いや、格好よくないですよ…………」


「しっかし……よくまぁこんなに次々と思いつくなぁ」


 いまいちくじの内容を理解していない神無と、内容を見て頬を赤らめる澪夢、姫乃に近い様子で呆れているメルと反応は三者三様だった。


「まさか、裏庭でこんなことがあってるなんてな」


「あの~……さっきから気になってるんですけど…………」


「ん?」


 横目でをチラチラと見ながら、澪夢がメルの肩をつつく。

 メルは澪夢の見ていたを見て、溜息をついた。


「どうせ姫乃を怒らせたんだろ。ほっとけほっとけ」


「本当に良いんですか!?」


 澪夢は驚き、猿轡さるぐつわをつけられている暁を指差す。

 暁は首から下を地面に埋められ、項垂れていた。

 暁は唯一動く頭を、必死に動かして、何かを訴え始めた。


「むぅううぅぅん! むむむんむむむむむんん!?」


「何言ってんだコイツ?」


「『苦しい! せめて猿轡は外して!?』だって」


「神無さん分かるんだ…………」


 ジタバタと(頭だけ)暴れる暁を見かねて、ふらんが暁の傍に寄るとつけられた猿轡を外した。


「っは!…………ありがとうふらん……」


「大丈夫? 暁ちゃん」


「ふらん、助けて良かったのかよ? 元はと言えば言い出しっぺはコイツだろ? 危うく水着なんて恥ずかしい格好で尻相撲なんてさせられるところだったんだぜ?」


今の姿ブルマも十分恥ずかしいけど……」とは流石にメルも言わなかった。

 しかし、メルの言葉に対し、ふらんは首を横に振った。


「確かに……恥ずかしいけど、暁ちゃんも何か考えがあってのことだと思うから……私が少し我慢すればいいだけの話だし…………」


(おやまぁ…………)


 ふらんの反応に、メルは内心驚く。

 あの恥ずかしがり屋のふらんが、ここまで言っているのだ。

 幼なじみだとは聞いていたが、そこまで付き合いが長いとこうも健気に信頼を寄せるものかと、メルは不思議に思った。

 もしかして、その信頼の起因するところが『幼なじみだから』だけではなく…………。

 そう考えて、メルは暁の方を見た。

 暁は未だに頭以外を地面に埋められた状態である。

 メルの視線に気づいた暁が、首を傾げた。


「なんだい? 僕に何かおかしな点でも?」


「いや、おかしい点しかないだろ」


(まさかね…………)


 暁のどうにも締まらない姿に、メルは自分の頭によぎった考えを打ち消した。

 それは、メルが暁に対して強い感情を抱いていないが故の判断であろう。

 だから、姫乃のようにふらんの信頼の本当の拠り所を看破することが出来なかったのだ。

 しかし、もう一人、暁に対して同様の感情を抱いている者がこの場にいた。

 そして、その者も姫乃と同じようにふらんの想いに感づいていた。


(ふらんさん…………)


 穏やかな、それでいてどこか満ち足りた表情のふらんを見て、澪夢の中で複雑な想いが微かに渦巻いていた。



 ※



「ならば、これならどうだ?」


 源内と姫乃のやり取りを見て、今まで沈黙していたクロウリーが得意気な顔をして、二人に一枚の紙を見せる。

 やけに自信ありげな様子に、二人は訝しげな顔をする。


「なんだいきなり」


「ふっ…………我輩もいい加減真面目に考えなくてはと思ってな」


「そう思うなら、始めからそうしてください…………最初の『水着審査』だってクロウリーさんが考えたんでしょ?」


「あれは我輩の最高傑作であるイヴの優れたボディを知らしめるためだ! 断じていかがわしい考えがあってのことではないぞ!」


「絶対嘘だぞ。コイツ昔からムッツリスケベだったからな。何かに理由をつけてエロいことしようとしてくるからな」


「えぇー…………」


「例えば昔…………」


「ああぁぁ! あーあーあああ!!」


 クロウリーが両手をパタパタさせながら、源内の言葉を遮る。

 そんな二人の様子に呆れながら、姫乃はクロウリーが持っていた紙を見た。


「えーっと……『ドッジ…………ボール』?」


 源内同様何百年もの時を重ねた錬金術師から出された意見とは思えない……いや、その幼げな容姿からしたらあまりに意見に姫乃は戸惑いを隠せなかった。

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