第118話 魔王依
「ん…………?」
周囲の空気が、重くなったような感覚をレナスは感じる。
水分を多分に含んだ服を着せられたかのような感覚に、レナスの顔色が変わった。
そして、すぐに変わったのが空気ではなく眼前にいる弱った男の放つ気配であることにレナスは気づいた。
暁の体から溢れ出る黒い
目に見える色合いは黒色だが、レナスが霊感で感じ取った色は全く別の色だった。
霊力や魔力にはそれぞれ個人の持つ色がある。
色によってその者の本質が映し出されるとされ、熟練のデモニアや霊力者ならばその色で相手の実力や言葉の真偽まで見極めることが出来ると言われている。
それは『
今まで幾千という人やデモニアの色を見てきたが、今暁が放っている霊力の色は今まで見たことがないものだった。
『白』である。
一切の濁りのない、純粋な白色。
確かに白い色の霊力や魔力を目にしたことはあったが、ここまで純度の高い白色は初めて目にした。
どこまでも、果てまでも広がる『白』。
本来、神聖さや無垢さを感じさせる色のはずが、レナスが感じたのはそれらとは全く違うものだった。
全てを押し潰し、何もかもを滅茶苦茶にしてしまうような危険さ、暴虐さ。
色を持った破滅そのものを、レナスは目の当たりにしたような気がした。
「なんだ……それは…!?」
次にレナスが目にしたのは、暁の手に現出した白い短剣だった。
暁が手にしていた魔剣によく似ているが、全くの別物であることが分かる。
何より、その小さく細い刃から先ほど目にした凶暴な霊力がひしひしと感じられた。
「これは『聖剣』……。君が知るところの麻葉一族だけが使う力だ」
「セイケン……だと?」
暁はレナスに見せるかのように『聖剣』を掲げる。
見れば見るほど頼りなく、なんと脆そうな刃だろうか。
とても今自分が感じている威圧的な霊力の根源だとは思えない。
だが、確実に追い詰められているであろう暁がその局面の末に出してきた力である。
見かけに惑うことは危険であるとレナスは判断し、構えをとった。
「『聖剣』だろうが何だろうが、何も変わりはしない。俺がお前ごとその剣を折って、それで今度こそ終いだ。今度は回復する暇も、猶予も与えない」
「早合点するなよ…僕は
「何だと?」
暁は、自分自身の力の結晶である聖剣を見つめる。
そして、弱り切った顔で笑みをこぼす。
自らを恥じ入るような、自嘲気味の笑みだった。
「コイツはね……
「使わない…忌むべき力…ならば何故お前は今その力を手にしている?」
「気づいたんだ……いや、正確には気づいてはいたけど試す機会がなかった。正直に認めるよ。君は強い。僕は今追い詰められている。
「言ってることが矛盾してるぞ? その力は使わないだろう?」
「そうだ。僕にはこっちの力があるからな!」
暁は聖剣を持つ手とは反対――――魔剣『ドラクレア』を持つ手を高く上げる。
すると、『ドラクレア』は紅い光を放ち、先ほどのように飛び散った破片を吸収し始めた。
「『魔剣』の再々生……!?」
「そうだ! 『魔剣』は僕が『聖剣』の力を使わないでいいように編み出した技だ! だから、力の源は違っても、本質は同じもの!!」
『ドラクレア』の輝きが収まる。
折れて粉々になったはずの刃は、元通り紅く鋭い輝きを放っている。
暁の両手には『聖剣』と『魔剣』、二本の剣が握られていた。
「いくぞ……はぁあああっ!!」
暁が二本の剣を乱暴に打ち鳴らす。
二本の剣が火花を散らしながら、その刀身を激しく明滅させ始めた。
「何をしている!?」
「考えれば当然の答えだった! 僕はいつも一人で戦っているわけではない! いつも誰かが共に戦ってくれた!! 傍に立ってくれていた!! 僕一人の
「何を…お前は何を言っている!!?」
「はぁあああああああああああああああああ!!!」
眩い紅と白の光が、さらに激しさを増す。
そして、二つの異なる光は斑状に混ざり合い、一つの形を成し始めた。
剣である。
『
一振りの剣が、暁の手に握られていた。
レナスは掲げられた紅白の剣に、目を大きく見開いた。
「それは……その力はっ……!!」
「見せてやる……これが…『魔王』である僕の力……
暁は掲げた光の剣の先を、自分の胸元――――心臓に向ける。
そして、剣の柄を離すと、全てを受け入れるかのように腕を広げた。
暁の手を離れた光の剣は、重力に逆らうことなく落下し、そのまま暁の胸元に突き刺さった。
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