第54話 本当の『強さ』
走ってくるふらんの右腕が粒子状に分解され、別の形へと再構築される。
ふらんの新しい手足たる『グラディアル・ギア』の大きな特長として、その全てがナノマシンによって構成されているという点がある。
このナノマシンはふらんの意思と同調し、様々な形状に変化させることができる。
そして今、再構築された右腕は丸太のように大きいハンマーへと変化していた。
魔力による推進装置で加速しながら、ハンマーは弾丸を超える速度でメルを捉える。
横腹の痛みを堪えながら、メルは両手でハンマーを受け止めた。
メルは受け止めたハンマーを力強く握り、そのまま握り潰そうとする。
しかし、握っていたハンマーはすぐに手応えを失い、また別の形状へと変化していく。
新たに再構築された右腕は、今度は『魔光砲』を放つための筒状へと姿を変えた。
以前までなら腕の形を残した形状をしていたが、今は完全に砲身の形をしており、威力も射程も精度も格段に向上している。
そのパワーアップした『魔光砲』が超至近距離からメル目掛けて放たれた
「っっっっ!!!!」
メルの体は空気を震わすような大爆発に巻き込まれ、後方へと転がる。
『魔光砲』の直撃を受けたことで、メルの服や肌はあちこちが焼け、目に見えてわかるほどのダメージを負っていた。
「くそっ……! なんで!!」
倒れるメルが地面を叩き悔しそうに歯を鳴らす。
地面にはメルに叩かれたことで大きな亀裂が走った。
そんなメルに、暁がゆっくりと歩み寄る。
「魔王への道・明日のためにその二、『過信することなかれ』」
「なんだとっ!?」
「君の『アンチ・スケイル』は確かに強力で強固な鎧だ。しかし、絶対の防御ではない。こんな風に絶え間なく攻撃をされると防御が追いつかないんだ」
「ぐっ…………」
「君は自分の力を過信し、その弱点に気づこうとしなかった。それは全てを司る魔王として致命的だ」
「黙れぇぇぇっ!!」
メルは暁に向かって、飛びかかろうとする。
しかし、暁の傍らに控えていた姫乃の血糸が体中に巻きつき、その動きを制した。
「なんだこんな糸! すぐに魔力を吸収してやる!!」
宣言通り、メルは自分の体に巻きつく血糸の魔力を全て吸収し、ただの血液へと戻してしまった。
そして、再び暁に飛びかかろうと全身に力を入れる。
しかし、いくら力を入れてもメルの体は、その意思に反してまったく動いてくれない。
メルは歯が欠けるほど、歯を食い縛って力を込めるが、やはり体はまったく動こうとしなかった。
「なんでだ!? ちっくしょう!! なんで動かねぇんだっ!!」
「私がお前に『針』を打ち込んだからさ。さっき体に血糸を巻きつけた時にな」
「『針』…………!?」
メルは唯一自由がきく目だけを姫乃に向ける。
姫乃は淡々とした口調で言葉を続けた。
「お前の『アンチ・スケイル』は体の表面を覆うものだ。ならば、体内に侵入した魔力までは吸収できないのではないかと思ってな。血糸から『アンチ・スケイル』の隙間に、小さな血針をいくつも刺して体内に侵入させた。そして、上手くいけば体内に侵入した血針を糸状にし、全身の動きを封じることができると思ったのだが……どうやら大当たりのようだな」
「なんだとっ…………!」
メルの表情が悔しさと怒りに歪む。
全身の自由を奪われ、地に伏しているメルにはそれしか反抗する手立てはなかった。
「魔王への道・明日のためにその三、『何ものも軽んずなかれ』。君は姫ちゃんたちのことを最初から敵として認識していなかった。その結果、彼女たちの攻撃に対抗できなかった」
「ぐっ…………くぅっ…………」
メルは何も言い返せない。
確かにメルは力で劣る姫乃たちを軽んじ、戦力と見なしていなかった。
それ故にこのような屈辱的な状態に追い込まれてしまった。
「そして……魔王への道・明日のためにその四……これが君には一番理解の足りてないものだ」
「…………何だ」
「『強さとは一つではない』ということさ。確かに彼女たちは君には『力』では到底敵わないかもしれない。だけど、彼女たちの本当の『強さ』はそんな『力』だけじゃない。互いに互いを支え合い、合わせることで自分の力以上の実力を発揮することができる。個の『強さ』に固執する君は絶対に
「暁……」
暁の言葉を聞いて、姫乃はあの日の言葉の真意をようやく理解した。
暁が「特別な対策や作戦は別に必要ない」と言ったのは、自分たちは既に自分たちの『強さ』を発揮できる戦い方を知っているからだったのだ。
確かに、自分たちはいつも誰かといっしょに戦っていた。
しかし、メルに敗北した時はそれぞれ個別に戦ってしまっていた。
暁はメルに「個の『強さ』に固執している」と言っていた。
しかしそれは、メルだけではなく、敗北した三人も同じだった。
(暁はそれを私たちに分からせるために、『魔王審査』に参加させたのか……負けたことで『力』に固執しかけていた私たちを止めるために……)
姫乃の胸の内が仄かに熱くなる。
暁の自分たちに対する想いを姫乃は理解し、どれ程暁が自分たちのことを考えてくれているかがわかったからだ。
そして、それは姫乃だけでなく他の二人も同じだった。
「確かに、時には個としての『強さ』も必要だ。だが、『強さ』の多様性を理解できない者に魔王は絶対務まらない!!」
暁は倒れるメルに対して叫ぶ。
暁の言葉が、メルの頭の中に響き渡る。
その響きは、メルの奥底に眠る
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます