第53話 リベンジ
「作戦? 無いよそんなの」
さも当然というような口振りで、暁は告げる。
姫乃、神無、ふらんの三人はキョトンとした顔で、棒状のチョコレート菓子をくわえる暁を見た。
『魔王審査』の数日前、怪我を完治させた三人は対メルへの作戦を自室で寛ぐ暁に乞いていた。
しかし、暁から帰ってきた答えは、上述したような気の抜けた答えだった。
「無いって……本当に何も考えてないのか?」
「いや、細かい戦い方は考えてるけど、彼女に対する特別な対策や作戦は別に必要ないよ」
三人の少女は眉をひそめる。
メルと自分たちには、大きな実力差がある。
悔しいが、それは三人とも自覚していた。
そして、今回の『魔王審査』には、暁自身の命がかかっている。
下手をすれば死ぬ恐れがあるにも関わらず、暁はのほほんと構えていた。
その様子を見て、三人はただただ不安であった。
「暁……悔しいが私たちと
「あたしたち手も足も出なかったからねぇ……」
「だから、私たちは暁ちゃんの言う通りに動くから、何か作戦を教えてほしい。じゃないと、足手まといにしかならないよ」
暁はお菓子を
三人はどこまでも一途で、真剣な眼差しをしていた。
おそらく、自分の命がかかっているということを話したからだろう。
彼女たちの今の心境は、以前の雪辱を晴らそうという気持ちより、魔王である自分の命を守らなくてはという意思の方が強いようだ。
(有難いことだよ……本当に)
暁は心の中で微笑むと、食べ終わったお菓子の空き箱をゴミ箱に入れた。
「……確かに今の三人の力は彼女には敵わない。今から訓練したとしても、その差はあまり縮まらないだろう」
「それならやはり……!」
身を乗り出す姫乃を、暁は制し言葉を続ける。
「でも、三人が彼女より『弱い』わけじゃない」
「ふぇっ?」
「それってどういう……?」
首をは傾げる神無とふらんに、暁は笑みを浮かべる。
「君たちは難しいことを考えず、自分の思った通りに戦えばいいさ。そうすれば、自然と君たちの『強さ』が発揮できる」
そう言うと、暁は部屋を後にする。
部屋に取り残された三人は、顔を見合せ、暁の言った言葉の意味を考えた。
※
「ふざけんなっ!!」
メルは、目の前の『ヘルクレス』に向かって拳を放つ。
拳は『アンチ・スケイル』で覆われており、強固なガントレットが身に付けられた状態になっていた。
「おおっっ!?」
暁は先ほどのように防護陣を張り、拳を受け止めようとする。
しかし、防護陣は『アンチ・スケイル』によって魔力を吸収され簡単にかき消された。
メルの拳は、そのまま『ヘルクレス』の右腕を粉砕し、胸部の装甲に深々と突き刺さった。
「驚いた……『ヘルクレス』の装甲をこんな簡単に貫くとは」
「当たり前だ! 俺の『アンチ・スケイル』はあらゆる魔力を吸収する! 例えそれがどんなに強力な魔力防壁でもな!!」
「へぇ……なら、これはどうかな?」
「へっ……?」
メルが呆けた声を出した瞬間、目の前に立ちはだかっていた『ヘルクレス』が光の粒子となって消えてしまう。
そして、その光の中から黒い毛に覆われた脚がメル目掛けて飛んできた。
「なにっ……!?」
メルは咄嗟に両腕を交差させ、その蹴りを受け止める。
その時メルは『ヘルクレス』の中から襲いかかってきた者の正体に気づいた。
最初に出会った時も、こうやって飛びかかってきたのを思い出した。
「人狼がっ……お前も『
「く~ら~えぇ~!!」
耳には獣耳、
メルの防御を足場に宙に飛び上がり、踏みつけるように蹴りの雨を浴びせた。
「っ……! この…………しゃらくせぇっ!!」
防御に徹していたメルは、両腕で蹴りを繰り出す神無の脚を思い切り振り払った。
力任せに振り払われた神無は、そのまま他方へと吹き飛ばされる。
しかし、吹き飛ばされた神無の腕に赤い血糸が巻きついたことで、神無が地面に叩きつけられるのは防がれた。
「糸……!? どこから……!!?」
メルが周囲を見回すと、血糸を伸ばす姫乃とその糸を引くふらんの姿を見つける。
ふらんはまた新しく換装した完全戦闘用の機工義肢『グラディアル・ギア』のパワーを全開にして、血糸を引いた。
血糸に引っ張られ、神無の体は凄まじい勢いでメルの方に戻ってきた。
「もいっちょ!!」
神無はその反動を利用して、再び強力な両足蹴りをメルに見舞う。
あまりに変則的な攻撃に、今度は防御が間に合わず、メルはまともに神無の蹴りを受けた。
「がはっっっ!!」
横腹を強打され、メルは大きく吹き飛ばされる。
メルは吹き飛ばされながらも、地面に踏ん張り、何とか体勢を保った。
しかし、そんなメルに対して、今度はふらんが一直線に向かってきていた。
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