第37話 私、おとりになります
「さ、どうだ?」
暁がその場で一回転する。
すると、赤チェック柄のプリーツスカートがふわりと浮き上がる。
七生学園の女子制服を着た暁は、何故か得意げにポーズをとっていた。
それを見た彼の臣下たちの反応は……。
「にゃははははキモいキモい!」
「あー……似合ってる……よ?」
「殺すぞ」
「キモい」を連呼して爆笑する神無、顔をひきつらせて目を泳がせるふらん、露骨に嫌悪の表情を見せる姫乃と、あまりいいものではなかった。
芳しくない反応を見せる彼女たちに対し、暁はわざとらしく頬を膨らませる。
「なんだいなんだいその反応。折角、恥ずかしいのを我慢して
「その割には暁ちゃん嬉しそうに着てたような……」
「鼻息も荒かったよね」
いやらしい顔をしながら着替えていた暁を見ていた神無とふらんは、口々にその時の様子を語る。
暁はスカートをピラピラとはためかせながら、不満げな顔をしているが、それ以上に不満げな顔をしている者がいた。
姫乃である。
何を隠そう、今暁が着ている制服は、姫乃のモノなのだ。
目の前で自分の制服を鼻息荒く着られた姫乃の心中は穏やかではなかった。
「くそっ……何故こんなことに……」
「ん~? どうした姫ちゃん? まさか僕に制服を貸すのが嫌だとは言わないよね? 『疑ったお詫びに何でも力になる』って言ったのは姫ちゃんだよねぇえ?」
(このゲスがっ……!)
(ゲスいなぁ……)
(ゲスゲス)
三人が同様に暁に対する評価を下げている中、暁はそんなこともお構い無しに準備を続ける。
鏡を見ながら器用に軽く化粧をすると、茶髪のウィッグをかぶる。
一見すれば、暁とは分からないくらいの容姿に様変わりした。
「暁ちゃん……お化粧上手だね」
「ふっ……日頃の努力の賜物だよ」
三人が「何の努力だよ」と思ったことは置いておいて、暁の準備はこれで完了した。
「さて、それでは『ドキドキ☆お色気「私、おとりになります」作戦』を始めるとするか」
「なんだその作戦名は」
相変わらずの命名センスに、姫乃はツッコミを入れた。
※
「上手くいくかなぁ……」
「いくわけないだろこんな作戦」
ふらんの心配そうな呟きに、姫乃はキッパリと言い切る。
姫乃、神無、ふらんの三人は女子更衣室の前の茂みで息を潜めていた。
今、女子更衣室の中には暁が一人でいる。
暁は自分を囮にして、覗き犯を誘きだそうとしているのだ。
作戦中に他の女生徒が来ないように、姫乃たちが人払いの役割を担っているわけだ。
「意外とあっさり捕まったりしてね」
神無は「にゃはは」と笑う。
そんな神無の言葉を姫乃は鼻で笑う。
「今まで一度しか姿を気取られなかったような奴だぞ? そんな簡単に捕まるなら、私たちもそんな苦労は……」
「いたー!! 待てコラァァ!!」
「『いた』ってさ」
「えええぇぇぇぇぇ!?」
あまりにも早すぎる犯人の出現に、姫乃は驚愕する。
三人が慌てて声がする更衣室の裏手にまわると、丁度更衣室の窓の近くで暁とパーカーのフードを深く被った犯人とが揉み合いをしているところだった。
犯人も、窓から飛び出してきた暁に驚いたのだろう。
逃げ遅れ、組みしかれている状態だった。
「止め……離し……て……!」
「このっ……! 暴れるな! 大人しくお縄につけぇい…………ん?」
「ひゃうっ……!」
取り押さえようとしていた暁は、手に異様に柔らかい感触を感じ、首を傾げる。
暁は確認するように、何度も手をワキワキと動かす。
手を動かす度に、覗き犯から甲高く短い悲鳴が上がる。
いつの間にか、覗き犯は抵抗するのを止め、息を荒くして大人しくなっていた。
「んっ……止め……て……あっ……」
「この感触は……姫ちゃんに勝るとも劣らぬ胸……程よい肉付きの尻……男性を魅了して止まないこの色香……まさか君は!」
暁は覗き犯のフードを捲る。
フードの下からは、栗色の髪が現れる。
顔を紅潮させた、美少年とも美少女とも言える綺麗な顔がそこにはあった。
「
「…………」
暁に名前を呼ばれ、覗き犯は黙り込む。
覗き犯と顔見知りの様子の暁に、三人は首を傾げる。
「暁ちゃん知り合い?」
神無の問いかけに、暁は頷いた。
「同じクラスの凛々沢
予想外の人物の登場に、暁も驚きを隠せない。
そして、澪夢と初対面の女性陣三人は、一様にある疑問を抱いていた。
「暁……さっきから『くん』づけで呼んでいるが、
姫乃の諌言に他の二人も何度も頷く。
姫乃の諌める言葉に、暁は慌てて手を横に振る。
「いや、違うんだ。
「じっ……自分は男です!」
黙り込んでいた澪夢が突然立ち上がる。
すると、澪夢の丸みを帯びた女性らしい体つきが徐々に変化していく。
肩幅は張り出し、大きく主張していた胸や腰が縮んでいく。
気がつけば、先ほどまでの
澪夢の突然の変貌に、三人は驚き、ある一つの答えに達する。
「まさか……デモニア……!?」
「そう、彼は『夢魔』のデモニア。彼に決まった性は存在しない。言うならば『男性』でも『女性』でもない『中性』ってところか」
三人は澪夢を見る。
澪夢は決まり悪そうにしながら、自分の体を両腕で隠した。
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