第26話 神無の打開策
「あの竜巻の中心が弱点?」
暁の聞き返しに、神無はうんうんと何度も頷く。
神無が言うには、この巨大な竜巻は側面からは絶大な破壊力を誇るが、その中心はほとんど風のない、いわば台風の目になっているらしいのだ。
神無の自信満々かつ具体的な説明に、一同は同じ疑問を抱いていた。
「神無、何でお前ヤツの弱点が分かったんだ? しかもそんなに詳しく……」
姫乃の問いかけにふらんも頷く。
そこであることに気づいた暁が「あぁ」と言って手を打った。
「『ジャスティス・ウルティマ』か」
暁の言葉に、神無は鼻息を荒くして、自信満々に答えた。
「そう! 『ジャスティス・ウルティマ』の七つの必殺技の一つ『ジャスティス・サイクロン』!! 自らのエネルギーである光粒子力を全て解放して放つ『ジャスティス・ウルティマ』最大の必殺技!!」
「え? え?」
神無の熱心な説明に姫乃は首を傾げ、ふらんは戸惑う。
「えっと……」と暁は頭を掻きながら補足する。
「『ジャスティス・ウルティマ』ってのは日曜日朝八時から絶賛放送中の特撮ヒーロー番組で、神無はその番組の熱心なファンなんです」
「テレビ番組かい!」
「うん!」
姫乃のツッコミに神無は元気よく返事をした。
目に満点の星を輝かせた神無に、姫乃は頭を抱える。
「まさか……この状況の打開策かと思ったら、子供向け番組の話だったとは……」
「暁ちゃんは知ってたの?」
「今回の件を機会に、神無からDVDを借りて全話視聴したよ。全話っていっても今シーズン5が放送中だからまだ完結してないんだけど」
「第七十八話で、ウルティマの偽物『ブラック・ウルティマ』が『ジャスティス・サイクロン』を放つんだけど、ウルティマは竜巻の上空から中心に突入して、『ブラック・ウルティマ』を倒すんだ! その時の言葉がカッコいいんだよ!! 『自分の技の弱点など百も承知……まして魂のこもらない技に負ける俺ではないっ!!』ってね!!」
興奮気味に話す神無の肩を掴んで、姫乃は溜息をつく。
「いいか神無……これはテレビの中の話じゃない……現実に起こってることなんだ。現実はテレビのように上手くは……」
「でもでも!
「神無……」
神無の真っ直ぐとした一歩も引かないことを決意する瞳に、姫乃は困り果てる。
神無の言葉は、最早真っ当な、説得力のある答えとは言えない。
自らの感情に任せた見当違いなの気持ちの羅列だった。
悪く言えば幼い、良く言えば純真な神無にとって、自分の憧れるヒーローの必殺技で人々の平穏を脅かされること、そして、それを行う首なしライダー、もとい竜巻を黙って見ていられないのだ。
しかし、神無の話は架空の――――いわば作り話のことだ。
それを打開策とするのは普通ならば考慮にも値しないことだが、神無の気持ちを痛いほど理解出来ている姫乃には、それを頭ごなしに否定することが出来なかった。
神無をどう説得するべきか姫乃が考えあぐねていると、暁の手がその右肩に置かれた。
「暁……」
「分かった神無。君の……『ジャスティス・ウルティマ』の言葉を信じてみよう」
「暁!」
暁の言葉に、神無の顔がパァっと明るくなる。
それとは対照的に姫乃は暁に詰め寄った。
そんな姫乃に対して、暁は「まあまあ」と宥める。
「他に打開策もないし、これ以上あの竜巻を放置するわけにもいかない。なら、今は考えられる可能性を試してみるしかないよ」
「しかし……」
「それに、神無の言う作戦を支持するのにはもう一つ理由がある」
「もう一つ……理由?」
「僕もその七十八話を神無と一緒に観たんだけど……中々カッコいいシーンだったよ。男の子としては憧れちゃうね」
そういうと、暁はニヤリと小さく笑みを浮かべた。
※
「よし……二人とも聞こえる? 準備はいいか?」
暁は『ヴァナルガンド』のアクセルを吹かしながら、最後の確認を行う。
無線機の先で、姫乃とふらんの準備が整ったことを告げる返事がそれぞれ返ってくる。
暁の指示のもと、それぞれに与えられた役割を果たすため、彼女たちはそれぞれの持ち場についた。
その言葉を聞き終えると、暁は自分の後ろで腰に手を回し掴まる神無に視線を送る。
その視線を受け取った神無は、自分の準備も出来たことを、力強く頷いて知らせた。
「さて、それじゃあ……覚悟しろよ首なしコスプレライダー。
そう言い終えると、暁は『ヴァナルガンド』のクラッチを解放する。
回転数の上げられた魔力エンジン(魔力を源とするエンジンのこと)は、最初からトップスピードで走り出した。
マフラーから地鳴りのような爆音が鳴り響き、巨大なタイヤは白い煙を吐き出しながら、アスファルトに黒いタイヤ跡を刻む。
道路に深々と
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