第27話 打ち破れ!
轟々と渦巻く竜巻に向かう暁と神無。
二人が向かう竜巻の前にはふらんの姿があった。
ふらんは右手で手刀を作ると、その掌を深々とアスファルトに突き刺した。
突き刺した手刀の指先を曲げ、地中で岩盤を掴むと、畳を引っぺがすかのように持ち上げた。
持ち上げられた岩盤は、暁と神無の乗る『ヴァナルガンド』の前で竜巻の方へ傾斜を作り出す。
暁は『ヴァナルガンド』の前輪を上げ、車体をウィリーさせると、タイヤを岩盤へと滑らせた。
十分な加速のついた車体に、ふらんが持ち上げ、即席のジャンプ台となった岩盤が組み合わさったことで、『ヴァナルガンド』はその巨大な車体を感じさせないくらい高々と宙に浮いた。
高く跳び上がった『ヴァナルガンド』は、勢いを保ったまま刃の如き竜巻の外円に突っ込んでいく。
正面から突っ込めば、暁も神無もただでは済まない。
その体をバラバラに引き裂かれてしまうだろう。
しかし、実際にはそうはならなかった。
宙に浮いた『ヴァナルガンド』が、車体を竜巻に接触させる手前で、暁は体を勢いよく傾かせ、わざと車体のバランスを崩した。
バランスを崩した『ヴァナルガンド』は、車体を横にして竜巻の外円と接触する。
車体を横にしたことで、『ヴァナルガンド』は竜巻の流れに正面からぶつかることなく、そのタイヤを風の流れに乗せることが出来た。
暁は無事、風に乗ったことを確認すると、再びアクセルを全開にする。
風に乗った『ヴァナルガンド』は、竜巻の外周に沿うように走り出し、天へと続く竜巻を駆け上がっていく。
魔力によって生み出された魔剣であるからこそ出来る芸当だ。
さらに、風に乗ることが出来たからといって安心は出来ない。
暁たちが乗っているのは魔力で生み出された凶暴な暴風だ。
少しでも気を抜けば、その切れ味の鋭い風の刃は容赦なく牙を剥いてくる。
しかも、常に変化し、暴れ回る風の道を走ることは並の技術や集中力で出来ることではない。
魔剣の力に、暁の超人的な技術と集中力が合わさって初めて出来る芸当だ。
荒れ狂う風と、吹き飛ばされた瓦礫や
雲を抜け、何も遮るもののない夜空へと跳びあがると、神無は煌々と輝く満月に向けて吼える。
神無の咆哮が夜空へと響くと、神無の姿は黒い狼へと変貌した。
狼形態へと変化した神無は、『ヴァナルガンド』を踏み台にすると、さらに空高く跳躍した。
跳躍した神無の体は、竜巻よりさらに上空へと昇る。
そんな神無に向けて、暁は左手に宿した赤い光を投げた。
その光は予め姫乃から受け取っていた魔剣『ドラクレア』の光だ。
「行け! 神無!!」
暁が叫ぶと、赤い光は大剣へと姿を変えた。
神無は投げつけられた大剣の柄を口に咥えると、その切っ先を地面に向け、竜巻の上空からその中心へと突入していく。
神無が竜巻の中に突入したのを見送った暁は、『ヴァナルガンド』を解除し、重力に身を任せ落下していく。
その表情は何かを確信するかのような笑みが浮かべられていた。
※
「まったく……相変わらず無茶をするな」
姫乃はやれやれといった様子で溜息をついた。
そんな呆れ顔の姫乃に、暁は笑みを返す。
「そんな無茶が出来るのも、姫ちゃんや神無、ふらんがいてくれるからだよ。本当に感謝してる」
暁の素直な感謝の言葉に対して、姫乃は冷めた表情を返す。
予想外の反応に、暁は首を傾げた。
「あれ? 姫ちゃん何か反応薄くない? 人から感謝されたら素直に喜ばないと。冷たい人だと思われるよ」
「確かにそうだな。だが、私としてはもう少しちゃんとした格好できちんと感謝の言葉をもらいたかったな」
暁は姫乃の糸に絡まり、ブラブラと逆さ吊りになったまま苦笑いをした。
周囲には、幾重にも折り重ねられた赤い糸の切れ端が風に
これは、落下してくる暁を受け止めるために姫乃が血の糸で編んだセーフティーネットの残骸だ。
姫乃は、落下してくる暁を確認すると、瞬時にこの網を幾重にも編んだのだ。
そのおかげで暁はアスファルトに叩き付けられずに済んだというわけである。
「しかし……本当に上手くいって良かった」
「だね。僕も正直ホッとしたよ」
珍しく安堵の表情を見せる暁に、姫乃は目を丸くする。
「まさか……成功するって確信はなかったのか?」
姫乃の問いかけに、暁は困ったように頬を掻いた。
「成功するって思ってはいたよ。でも、今回の作戦で実際に竜巻の中に突入したのは神無だからね。そりゃあ心配もするさ」
「……」
「僕にとっては三人のことが一番大切だからさ。大事な大事な幼馴染だ」
「……そうか」
(幼馴染として……か)
暁の言葉に、姫乃は僅かな
気を取り直した姫乃は、未だ逆さで宙ぶらりん状態の暁を力づくで引っ張り、地面に下した。
乱暴に下ろされた暁は頭を地面で軽く打ち、「ぐえっ」と低く呻く。
「いたたっ……もちょっと優しく下ろして欲しかったな……」
「そんな甘えたこと言ってる場合か? 周りはあの竜巻のせいで滅茶苦茶だ。新妻さんに連絡して『カーペンターズ』を手配してもらわなきゃいけないだろ」
「そうだね。それじゃあ、取りあえず新妻さんに連絡入れますか……しかし、いつまでも吼えてるな……」
「余程嬉しいんだろう。憧れのヒーローの名誉を守ることが出来て」
「だね」
そう言うと、二人は竜巻が発生していた場所の中心で吼え続ける神無を見た。
狼形態で満月に向かって吼える神無の傍らには、完全にノビて元の姿で気絶している馬寺と『ドラクレア』で串刺しにされ、両断されたバイクが横たわっていた。
その時の神無の姿は、獲物を捕らえ、喜び咆哮する狼そのもののようだった。
《第三章 完》
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