第8話 午後のひと時
紅神姫乃――――
他者の血液を摂取し、自らの魔力と混ぜ合わせることで血の糸を操ることが出来る。
能力の使用には時間制限があり、摂取した血液の量に比例する。
また、自分の血液を使用することは出来ず、必ず外部から血液を体内に取り込む必要がある。
狼森神無――――
魔力によって自らの肉体を狼のような強大な獣に変化させ、強化することが出来る。
肉体の変化は全身、もしくは一部とコントロールが可能。
身体能力は常時高まっており、肉体を変化させずともある程度は人間離れした能力を発揮することが出来る。
また、月の満ち欠けによって魔力が増減し、満月時は最高潮に達する。
逆に新月時は魔力が無いに等しい状態となり、身体能力も常人並みに低下する。
平賀ふらん――――
魔力の源である『魔核』を移植されて後天的にデモニアとなった人工デモニア。
四肢が魔力を原動力とする義手・義足になっており、単純な力だけならば下手なデモニアを軽く凌駕する。
しかし、魔力の量が肉体の活動限界に直結するため、肉体を酷使し過ぎると身体機能そのものが停止してしまう恐れがある。
※
「――――と、まぁこんな風に一言にデモニアと言っても色んな種類がいるし、能力や欠点も千差万別なわけ」
「はぁ……」
柔らかな日差しが心地よい午後のひと時。
昼食を終えた暁達は、館の中央に位置する中庭でお茶をしていた。
テーブルの上には紅茶が並々と入れられたポット、サンドイッチやスコーン、小さなケーキが載せられている三段重ねのティースタンド。
そんなアフタヌーン・ティーの時間をそれぞれが思い思いに過ごしていた。
姫乃は眼鏡をかけ、小さな文庫本を静かに読んでいた。
時折、ページをめくる音や紅茶を飲む音を発するぐらいで、姫乃は微動だにせず無心に文字を目で追っていた。
その隣のベンチを占領している神無は、だらしない恰好で昼寝をしていた。
昨晩に見せていた鋭い獣の眼光はなりを潜め、無防備な寝顔を晒している。
更にその横で嬉しそうな顔をしながらお菓子を食べているのはふらんだった。
志歩も驚いたが、この中で誰よりも食が太いのは、誰よりも華奢で小さいこのふらんだった。
昼食をみんなの五倍以上は平然と平らげ、今もティースタンドのお菓子を次々と口に運んでいる。
一体その細い体のどこに入っていっているのか志歩は不思議で仕方がなかった。
そして、志歩はどうしているのかというと、暁の話を聞きながら大人しく紅茶を飲んでいた。
昨晩の襲撃事件の翌日、暁から様々な質問をされた。
自分のこと、家族のこと、学校のこと、休みの日にしていること。
まるで面接でも受けているような気持ちになったが、何か特別なことを聞かれたわけではなく、本当に当たり障りのないことばかりを質問された。
そんな質問の中で暁が興味を示したのはある一つのことだった。
「妹?」
「はい……妹と言っても双子の妹ですけど……」
家族のことを質問された時のことだった。
自分が一卵性双生児で、同じ年齢の妹がいること。
この話をした時、暁だけでなく、姫乃も驚いていた。
何故なら、志歩は妹のことを姫乃にも話していなかったからだ。
「あれ? 妹さんは別の学校に通ってるのかい?」
「私も校内で見かけたことがないな……」
「いいえ、妹はずっと病院で寝たきりで……学校も院内学校に通ってるんです」
「寝たきり? 何でまた?」
「…………」
志歩は何も話さない。
妹のことを質問してから、急に黙り込んでしまった。
黙り込んでしまった志歩を見て、暁はしばらく考えて、「話したくないなら無理に話さなくていいよ」と言って、それから妹のことについて何も尋ねてこなかった。
結局その後はいくつか質問をして終わった。
それから先は昼食を挟んで今に至る。
「あのぉ……逢真先輩」
「ん?」
「昼食からずっとこうやってのんびりしてるんですけど……いいんですか?」
「『いいんですか?』って何がだい?」
「いや、昨晩先輩が言ったじゃないですか『倒したわけじゃない』って。こうしているうちにもまた
「その時はまた僕たちが守るよ。今は『待ち』の状態」
「『待ち』?」
「そ。それに相手の正体はおおよそ掴めてるし」
「え!? それなら尚更早く動かないと……」
「まあまあ落ち着いて。多分もう少ししたら……おっ、噂をすれば……」
「暁様、お待たせしました」
暁の元にムクロが茶封筒を持って現れる。
暁は茶封筒を受け取ると、中に入った書類に目を通す。
しばらく無言で書類を見ていると、「ふむ」と言って暁は立ち上がった。
「よし。それじゃ行くか」
「へ?」
「ほら、みんなも行くよ。神無も起きろ~パンツ見ちゃうぞ~」
「まっ……待ってください逢真先輩、『行く』ってどこに行くんですか?」
「ん? ドライブだよド・ラ・イ・ブ。ほら双﨑さんも行くよ」
そう言いながらそそくさと立ち上がる暁に黙って従う三人のデモニア娘。
それに続くように、志歩は慌てて立ち上がった。
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