第14話

「ごめんね、いやなこと思い出させて」

 茜は、ノブオからじかに父親が亡くなったことを聞かされて胸の詰まる思いがした。

「かめへんよ。オヤジが生きとった時は、ウザくて早よ死んだらええのにと思とったけど、いざ死んでしまうと、正直なところちょっと寂しく思った。でもオレよりも母親のほうがもっと可哀そやった。オヤジが死んでショックやったにもかかわらず、それをオレに見せまいとする姿にさすがのオレも胸が痛とうなった」

 ノブオが本音で話していることが茜と弘務に伝わったのか、ふたり揃って小さく点頭している。

「じゃあ、お父さんが亡くなってしまったから、いずれ大阪に戻るの?」

「まだ死んだばっかだからいろんな手続きとかがあるし、すぐに大阪に帰るというても住むとこも探さんといかんやろ、そやからオレが学校を卒業するまでのあと1年半はこっちにいてるはず」

 ノブオは椅子から立ち上がると、グラスを手にして水を取りに行った。

 気がつくといつの間にか中学生くらいの女の子が3人と、散歩の途中で立ち寄ったのか、中年の夫婦が坐っていた。

「ノブオ、おまえがこの前メールに書いてきた『ミステリー甲子園』のことなんだけど……」

 席に戻っていきなり祐介に言われたノブオは、どうリアクションしていいか戸惑っている。

「じつを言うと、オレたち3人はすでに去年あのイベントに応募して予選で敗退したために今年こそは本選に上がろうと団結したばかりなんだ。そこへ偶然にもノブオからメールが入ったというわけだ」

「そうなんや……。そういうことやったら別にオレのことは気にせんでええから。この間もメールに書いたように、夏休みの予定がなんもあれへんやったから祐介を誘ったまでで、どうしてもというわけやないんや」

 ノブオはこうなる結果を予測していたかのように、表情を変えることなく恬淡と言った。

「まあ話を最後まで聞けよ。ミステリー甲子園は1グループ4人までOKで、ラッキーなことにうちのメンバーにひとり入れる余裕がある。そこで茜や弘務と相談してノブオをメンバーに加えることをみんなに提案したんだ」

 祐介がそこまで話した時、ノブオのスマホの着信音が邪魔をした。

「ちょっと、ごめん」

 ノブオはスマホを見ながら店の外に出て行った。彼は5分ほど帰って来なかった。

 その間に祐介たち3人はノブオの参加を決めた。

「わるい、友だちからやったんや。そいで、さっきの話のつづき聞かせてくれるか?」

「うん。つまりィ、オレはノブオのことをよく知ってるけど、このふたりはおまえのことがまったく白紙の状態だったので、面通しする意味でおまえをここに呼んだんだ。その結果、このふたりが言うには、ノブオ、おまえだったら上手くやっていけそうだって、いまOKが出たんだ」

 祐介は、ようやく肩の荷が降りたという清々しい顔で話した。

「ってことは、オレ、メンバーに入ってもええんか?」

 ノブオは嬉しそうな顔で目の前の弘務と茜を交互に見て言った。

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