第13話
その姿を見て思わず茜が噴き出した。
「どうしたんだよ、茜」と目の前に坐っている祐介が怪訝な顔で訊く。
「だって、彼ったら、そんなに急いで食べなくたっていいのに、いきなり口いっぱいに氷を入れるんだもん。そりゃあアイスクリーム症候群になるわよ」
茜はツボにはまったのか、まだ笑っている。
「アイスクリーム症候群?」
弘務が真面目な顔で横の茜に訊ねた。
「あら知らないの? 冷たいもの食べて頭が痛くなるのを、アイスクリーム症候群って言うのよ」
「へえッ、そうなんだ」
何気ないその会話が4人で話をする切っ掛けとなった。
「ねえ真藤くん、きみは工業高校に通ってるって祐介に聞いたんだけど、どんなこと勉強してるの?」
ソフトクリームを食べ終わって手持ち無沙汰の弘務は、茜の気持を察して代わりに訊いた。
「オレは機械科。ほかには建築科、電気科、電子科があるんや」
「きみの機械科って、工場なんかにある機械を拵える勉強をするの?」
「そやなァ、まあ大きくゆうたらそうなんやけど、そればっかやあらへん。実習ではアーク溶接、ガス溶接や鋳造もやらされるんや。そんなんやりとうないんやけど、授業のなかに入ってるから仕方ない」
「鋳造?」と弘務。
「ああ。鋳造っていうのんは、ようあるやんか……灰皿とか風鈴とか鉄瓶とか……」
ノブオは器の底に残ったミドリ色の氷水を啜った。
「わかった。そう言われれば爺ちゃんの部屋に置いてあったのを思い出したよ。あんなのを作ってるんだ。なんか面白そうだな」
「おもろいことなんかいっこもあらへん。まあ椅子に坐り、黒板に向かって凝っと授業を聞いてるよりはましやけどな」
「真藤くんって大阪なんだよね」
これまで黙って弘務とのやりとりを聞いていた茜がようやく口を開いた。
「そや。大阪の住吉ゆうとこに、生まれてからこの春まで住んどった。大阪はええとこやし、友だちもようさんおったけど、オヤジの仕事でやむを得ず引越して来たんや。
後ろ髪引かれる思いでこっちにに来たんやけど、引越して1ヶ月もしたかせいへんうちに心臓発作死んでしもた。家族のみんなが長いこと築いてきたすべてを向こうに置いてきてしもたんはなんやったんやろな……」
ノブオはなにかを思い出したように寂しく話した。
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