第12話  3

 3人は祐介の家を出ると、大通りを渡ったところにある「美濃や」に向かった。ノブオとの待ち合わせ場所である。

「美濃や」は冬の時期大判焼きやみたらしを売り、夏になるとかき氷やソフトクリームを売る言わば子供の喫茶店で、ことあるごとに祐介たちは美濃やに入り浸っている。

 店は婆さんとその娘のふたりだけでやっている。娘といっても50に手が届こうという年回りなので、この店に来る子供たちは「オバさん、オバさん」と呼んでいる。

 3人は4つあるいちばん奥のテーブルに陣取り、祐介はかき氷のメロン、茜はいちごミルク、そして弘務はソフトクリームを頼んだ。

 いちばん先に弘務のソフトクリームが届いた。つづいて茜のいちごミルクが搬ばれて、スプーンを使おうとしたその時、店の前に自転車を停めたノブオが、Tシャツに迷彩柄のカーゴパンツを穿き、パープルのクロックスをつっかけて店に入って来た。

「おう、こっち、こっち」

 目聡く認めた祐介は右手を軽く上げながらノブオを呼んだ。

「こいつがさっき話した、真藤ノブオ」 

 と、祐介がパイプ椅子に坐ったまま紹介する。

「よろしく」

 ノブオは小さく顎を前に出して挨拶したが、なぜここに呼ばれたのかまだ知らされていない。

「こっちが篠塚茜で、こっちが田沼弘務。ふたりとも同じ高校で同じクラスなんだ」

「こんにちは」と茜が頭を下げ、「どうも」と弘務が低い声で言った。

 ノブオをはじめて見る茜は、何事にも物怖じしない性格なのになぜか様子がこれまでと違っている。毎日見ている受験という2文字に慄いている普通科の高校生とはどこか違った雰囲気を感じたからだ。

「まあここに坐れよ」

 祐介は横に場所を移動しながら指さした。

「ああ」

 ノブオはやや照れ臭そうに俯いたままでパイプ椅子に腰掛けた。そしてメロンのかき氷を持って来たオバさんに、もうひとつ同じものを注文した。

 いちばん先にソフトクリームを食べはじめた弘務はすでにコーンが半分になっている。茜はもくもくといちごミルクのスプーンを口に搬んでいる。祐介はなにから話したらいいかを考えながらメロンのかき氷をスプーンで突き崩した。

 やっとノブオの注文したものが目の前に置かれると、みんなに追いつこうとして急いでかき氷を口に含み、その瞬間に「うっ」と呻きながらコメカミをゲンコツで押えた。

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