第11話
日曜の午後になって茜と弘務が祐介の家に集まった。もちろんイベント参加の打ち合わせのためである。
冷房の効いた6帖の部屋に顔を揃えた3人は、典子が搬んで来たコーラを飲みながら雑談をはじめる。お互いが様子をうかがっているように思えるくらい、ミステリー甲子園の話はまったく持ち上がっていない。
その時、意を決したように祐介が口火を切った。
「あのう……じつはふたりに相談があるんだけど……」
祐介はこの2日間ノブオの気持を汲んで胸が痛むほど悩んでいた。
「相談って?」
茜はコーラの入ったグラスを手にしたまま祐介の顔を覗き込む。
「ミステリー甲子園のことなんだけど、ひとりメンバーに加えたいヤツがいるんだけど、だめかなあ……」
祐介はふたりの顔をまともに見ることができない。
「どういうこと?」
茜が小首を傾げながら険しい目で祐介を見据える。
ベッドの端に祐介と並んで腰掛けている弘務は、2日前に自分が言った言葉も忘れて茜の顔を見るばかりだった。
祐介はノブオと茜たちの狭間に立たされて苦痛の表情を隠せなかったが、このままでは前に進む展開はないと思い、ノブオとの出会い、そして大阪から引っ越して来て間もないこと、極めつけは自分と同じ父親を亡くしたという境遇であることをふたりに話した。
ノブオが大阪から引越して来てひと月ほどした時、突然父親が心臓発作で亡くなったのだ。祐介の父親の場合は交通事故だったので、原因は異なってはいるが結果は同じだった。
それを聞いた茜は小さく唸った。
「ねえ、ヒロムはどう思う?」
さすがの茜も自分ひとりでは決めかねている様子。
「うん――」
弘務は返事に詰まった。ふたりの手前あの時は優等生的な意見を口にしたものの、祐介が父親をなくして悄然としている姿をまじまじと見ているために、見知らぬノブオの気持がわからなくもなかった。そしてつづけた。
「っていうか、そのノブオって祐介の友だち、見たことも会ったこともないんだから、どう答えていいのかわからないよ」
「確かにヒロムの言うとおりよね。祐介の話だけでは彼がどういう人物かはミステリーだわ」
「ふたりがそう言うんだったら、ノブオを呼び出そうか?」
祐介は、少し余裕の顔になりながらベッドの端に坐り直して言った。
「いいけど……」
茜の言葉は、対顔して合格点ならメンバーに加えてもいいといった口振りに取れた。
「オレも同じだ」
「よし、じゃあさっそくあいつに電話する」
祐介の顔にようやくいつもの明るさが甦っていた。
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