第10話

 待ち合わせ場所は、はじめてふたりが喋った駅前のゲーセンにした。

 電子音の飛び交う店内を隈なく探したが、ノブオの姿はどこにも見当たらなかった。ゲームをする気のなかった祐介は人が遊んでるのを横目で見ながら店の前でノブオを待つことにした。

 10分ほどして、黒いボディで真っ新しのマウンテンバイクに跨ってこちらに向かって来る、白いTシャツにチェックの半袖を重ね着したノブオを見つけた。

「オッ、ごめん。家を出る時ちょっとあってな」

「いいよ。ところで、メールにあった相談ってなに?」

 祐介はまともに射す夏の陽射しに目を細めながら顔を斜めに逸らせた。

「バーガー食べへん? オレおごるさかい」

「いいけど……」

 ふたりはゲーセンのすぐ隣りにあるハンバーガーショップの自動ドアのスイッチを押した。店内はランチタイムが過ぎていたせいか、それほど混んでなかった。

 通りの見渡せる窓際に席を取ったノブオは、ひと口バーガーを頬張ってから、

「この前偶然にあるサイトの宣伝を見たんや。そのサイトが『ミステリー甲子園』っていうイベントを企画しててな……」

「知ってる」

「なんだ、祐介知ってんのんか。ほんなら話は早い。オレさァ、この夏休み、まったく予定があらへんのや。オヤジが死んで初盆とかなんとかで墓参りのために大阪へ帰るんやろうけど、オカンはなにもゆうてくれへんし、祐介と違って受験勉強もあらへん」

 口を尖らせてストローを咥えたノブオは、ジンジャーエールを音を立てて啜った。

「ちょっと待ってくれよ。それって、ひょっとしてオレとチームを組むってこと?」

「まあ、早い話がそういうことや。なんや、あんまり乗り気やないみたいやな」

「そ、そうじゃないんだけど……」

 祐介は心の準備ができてなかったために、つい言葉が澱んでしまった。

「あまりにも突然だから……」

 祐介は、カナヅチで後頭部を小突かれたみたいな鈍い感じがした。

 そのあとノブオの言葉を胸のなかで2度反芻した。まさかあのノブオがミステリー甲子園の話を持ち込んで来るなんて思いもよらなかったからだ。

 祐介は困惑した。ノブオの友人を求める気持がわからなくもないが、すでにミステリー甲子園への参加は決まっている。つい数時間前に茜と弘務の3人で結束をしたばかりだ。

 頭を苛めたあげく、まだメンバーの空きがあるから、いっそのことノブオを仲間に引き込もうかと考えるが、弘務の言った気心の知れないメンバーが加わることによってチームの和が乱れることは避けたいと言った言葉が耳朶に残っている。

(どうしたらいいのだろう――) 

 祐介は頭を抱えたものの、すぐには結論が出せなかった。だが、返事をしないわけにはいかない。しばらく考えた末、ノブオに「しばらく考えさせて欲しい」と言って別れた。

 それがいまの祐介ができる精一杯の答えだった。



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