第9話 2
祐介が2階の自分の部屋に入った時、想像していた膿んだ夏の空気の痕跡がまったくなく、湿度のない心地よい空間がそこにあった。
(典子のヤツ――)
祐介の部屋には高校受験の時に取り付けてもらったエアコンがあるが、妹の部屋にはない。だから祐介のいない時には、部屋に忍び込んで冷気を満喫しながらのんびりマンガを読んでいるらしい。
祐介が学校から帰った気配を感じた典子は、急いでエアコンのスイッチを切り、なに喰わぬ顔で階下に降りて来たのだが、部屋にはれっきとした証拠が遺されていたのだ。
しかし妹思いの祐介は、自分だけが快適な空間で勉強しているという後ろめたさがあるために、黙って自分の部屋に入られても文句を言ったことはない。これも夏の間だけのことであるし、祐介が部屋にいる時には姿を見せないから多少のことは仕方ないと思っている。
カバンをベッドに放り投げたあと、エアコンのスイッチを入れた。ある程度冷やされていた6帖の部屋はたちまち冷気に包まれた。学生服を着替えた祐介は急いでパソコンとモニターの電源を入れる。ピコンといった音がしてしばらくすると画面がライトブルーに明るくなった。
祐介はインターネットを接続し、ポータルサイトから『ミステリー甲子園』で検索すると、喰い入るようにして画面に映された募集要項に目を走らせる。
茜が言っていたとおりのことが書かれてあった。すべてを読み終えた時、昨年予選落ちしたリベンジの気持が沸々と湧き上がってきた。
その時、パソコンがメールの新着を報せてくれた。祐介が急いでメーラーを開けると、メールは真藤ノブオからだった。
真藤ノブオは、たまたま祐介が駅前のゲームセンターに顔を出した時に知り合った同じ年で、県立A工業高校の機械科に通っている。今年の春に父親の仕事の都合で大阪から引っ越して来たばかりなので、まだN市の地理には不案内である。
住まいは祐介の家から自転車で5分くらいのところにあるため、行き来するにはそれほど時間はかからない。
《 うィ~す! ユウスケ。
ちゃんと受験勉強やっとお?
ちょっとユウスケに相談があるんやだけど、
いまから会われへんかなァ。》
祐介はしばらく考えてから、メールではなくノブオにスマホから電話をかけた。
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