第15話

「いいわよ」

 茜は大きな黒い瞳をノブオ向けて警戒心のない顔で伝えた。

「そうと決まったら、あらためてメンバーの結束を誓おう」

 祐介はテーブルの真んなかに右手を差し出した。すると弘務、茜しばらく間を置いてノブオが順に掌を重ねた。

「本選に向けて頑張るぞ!」

「おう」

 大きな声が小さな店のなかに響いた。

 何事が起こったのかと、訝しげな顔で店の人もほかの客も祐介たちのテーブルに視線を向ける。

 気恥しげな顔をした茜が、

「……ところで真藤くんがメンバーになったところで、これからのことを話そうと思うんだけど、まず予選を通過するにはなにはともあれ好成績を修めなきゃなんない。だってそこで頑張らないと去年と同じ目に遭うことになるからね。みんなも同じだと思うけど、1次予選敗退なんて、あんな悔しい思いは2度としたくないでしょ?

 そこで、まず主催者側から出された問題に正解しなきゃならない、それが大前提。問題のジャンルは5つ。国語、数学、英語、そして一般常識、最後にクロスワードパズルがあるの」

 そう言いながらポケットから4つ折りにしたA4の白い紙を取り出した。

「それで?」と、弘務。

「うん。とりあえず自分の自信がありそうなジャンルを言ってみて」

「オレは英語が大の苦手だから、しいて言えば国語かな」祐介が真っ先に名乗り出た。

「じゃあ、オレ、クロスワードにする」と、つづいて弘務。

「だめ。ジャンルは5つあるから、どうしてもひとつ余るの。そこでクロスワードはみんなで相談しながら解くことにするから、そのほかから択んで」

 茜の言い方はまるで母親が子供にする押しつけのようだった。

「じゃあ、どれも得意なものがないから、一般常識にするかなァ」

「あかんてェ、オレは工業高校だから数学も英語も苦手なんや。そんなんできたら普通科に行ってるがな。そやから一般常識はこっちに回してくれや」

 ノブオは真剣な顔になって弘務に懇願をする。

「そんなに言うんなら数学にするか……」

 弘務は数学もあまり得意ではなかったが、まだ英語よりはましだと思った。

「大丈夫よ、そんなに心配しなくても。受け持ちのジャンルには責任持って臨んでもらうけど、4人ともすべての問題をやるのよ。そしてあとでその解答を持ち寄って答え合わせをするんだからさ」

「ええッ。ひとつのジャンルだけやないんかいな」

 言ったあとノブオは顔をしかめて残念そうな顔を見せながら、ほとんど水になった緑色の液体をズズズズっと音を立てて啜った。

「だからァ、できなきゃできないでもいいの。穴の開いたところはみんながカバーするから。そのためのメンバーでしょ? でもよおく考えてよ。みんなの頭脳を持ち寄っても正解がでなければ、間違いなく本選に臨むことはできないんだからね」

「いやあ、プレッシャーがかかるよな」

 弘務はテーブルに両肱をついたまま頭を抱え込んだ。

「みんなの受け持ちが決まったところで、ここにそれぞれの名前、生年月日、年齢と在籍校の名称を書いて。イベント参加申請時に必要だから」

 3人が書き終わるのを見た茜は、

「問題の答え合わせを今度の木曜日にやるから、それまでに正解を出しておくこと――いいわね」

 完全に茜はミステリー甲子園というイベントの主導権を握っているために、ほかの3人が異論を挟む余地はなかった。

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