第6話
祐介の家の左隣りはクリーニング屋で、右隣りの佃煮屋は3年前に店を閉めたままになっている。向かいには履物屋があるがその両隣りは仕舞屋となっている。
昔この商店街には道の両側に様々な店が軒を並べてそれなりの賑わいを見せていたが、あちこちに大規模店舗がオープンするようになると、買い物客が徐々に少なくなり、それにつれて一軒の店がシャッターを降ろした。それが引き金となり、やがて連鎖反応のようにつぎつぎと閉店していった。
それと、アズマ商店街の廃った原因のひとつに、道路の幅が広いということがあった。普通どこの商店街もアーケードがあって雨が降っても安心して買い物ができたり、道路の中央を歩いていれば左右どちらの店にも目を向けて物色することができるのだが、ここは自動車やバイクが通ったりするのでのんびりと買い物をするというわけにはいかないという欠点があった。
祐介はこのところどことなく寂しい思いをしている。以前は学校から戻って来ると、必ず商店街の誰かが声をかけてくれたものだが、いまではそれもなくなってしまった。
学校から帰った祐介は、自転車を店の横から入って通用口のところに停めると、扉を開けて6帖の座敷に上がり、カバンを投げ出すと台所の冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し、コップについで咽喉を鳴らしながら立てつづけに2杯飲んだ。
その時、2階から典子がゼリービーンズの入ったカラフルな袋に右手を突っ込みながら降りて来た。
祐介には典子という中学1年の妹がひとりいる。ふたりは必ずといっていいくらい日課のようにして口喧嘩をする。しかし、別にいがみ合っているわけではなく、それはふたりにとって潤沢なエネルギーを発散させるための一種のパフォーマンスなのだ。
佐倉兄妹は、毎日母親が指先を油まみれにしながら自分たちのために働いていることを重々承知している。母親のそんな姿を見ている以上家族が結束しなければならないことは充分わきまえていた。
「いま帰ったの、お兄ちゃん?」
典子は、バイオレット色のゼリービーンズを口に放りこんだ。
「ああ」
「遅かったから先にお昼食べちゃったよ」
「おまえ、飯食ったのにもう摘み食いしてんのかよ。だからブクブク肥えちゃうんだよ」
祐介は空腹がもとで腹立ち紛れに禁句を吐き出す。
「いいじゃん、別に」
年頃の典子はいま体形のことをいちばん気にしている。いくら兄妹といえどもあまりのデリカシーのなさについ口を尖らせて横を向いた。
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