第60話 エロスの騎士
「くそったれ、くそったれ、くそったれ!」
俺は師匠への恨みの念を飛ばしつつ、プラチナムドラゴンの攻撃から逃げ回っていた。
「くっ、ほんと硬いわね、私の魔剣じゃ歯が立たないわ!」
「だったら、魔獣の物量作戦で何とかしろよ!」
「無理なのよ、結界内に閉じ込められちゃってからは召喚が出来ないの!」
「ったく、ホントに役に立たねぇなあ!」
「そう言うアンタこそ何の役にも立たないじゃないのこのゴミカス!」
「うるせー、ただの人間になに求めてるんだよ!」
ギャーギャーと言い合う俺たちの頭上に影が落ちる。
「危なぇぞこの馬鹿!」
俺は罵詈雑言をがなり立てるワンダの腕を思いっきり引き、プラチナムドラゴンの一撃を回避する。
ズンと、巨大な地響きと共に波打つように地面が揺れる。
奴の攻撃は派手だが大雑把だ、このままかわし続ける事は出来るかも知れない。だが、それだけではらちが明かない。制限時間いっぱいまでかわし続ければ勝ちなんて甘いジャッジを師匠がするわけがない。
「何とかして、攻撃に出ないと」
とは言え、俺は無手、とてもじゃないが素手で何とかなるような相手では無い。
ポンコツドレイクのワンダは魔剣を装備しているが、こいつの魔剣は繊細極まる蛇腹剣。重厚さの極みであるプラチナムドラゴンの硬い鱗とはめっぽう相性が悪い。
「おい、良い事考えたぞ!」
「なによ人間!」
逃げ回る内に見えて来た弱点をワンダに話す。
「奴の鱗はとんでもなく硬い、外側から攻めるのは無理だ」
「そんなことわかってるわよ、このボケナス」
「だったら攻め手を代えるだけだ。おいワンダ、お前ちょっと奴の胃袋の中に入って内側から切り裂いて来い」
「お前が行けこの馬鹿!」
ワンダはそう言うと、俺をプラチナムドラゴンへと放り投げた。
「あっ」
ワンダはポカンと口を開け、無意識に投げ出した俺を見る。いや、正確には俺の手の中にある奴の魔剣をだ。
「ちょ! ちょっとタンマ!」
ドレイクにとって魔剣とは文字通りの自らの半身だ。万が一魔剣が折れる様な事があれば、激しいショックにより大半の能力を失い、心身ともに白紙の状態に陥ってしまうという。
ワンダは青白い顔をしてプラチナムドラゴンの眼前を舞う俺を見ていたが。
ぱくりと俺は巨竜の咢へ吸い込まれた。
★
「あわ……あわわわわわわ」
ワンダは顔面蒼白になってその場にへたり込んだ。
剣折れドレイクがどういう事になるか、ドレイクなら誰もが知っていて、誰もが心の底から恐れている事だ。
運よくショックから生き残ることが出来ても、その後の人生は差別と侮蔑の視線にさらされながら生きていくことになる。
「あた……あたし……」
血の気が引く、頭痛と吐き気でフラついて立ち上がる事さえできない。
これが噂に聞く剣が折れたショックなのかと思った時だ。
プラチナムドラゴンの口から血が溢れ、小さな陰がそこから飛び出して来た。
「はっはー! 中々の切れ味じゃねーか!」
全身を返り血でずぶ濡れにした馬鹿は、そのままドラゴンの顔面を駆け上がり大きな右目に剣を突き立てた。
ドラゴンは悲痛な雄たけびをあげ暴れ回る。だが、その時には既に馬鹿の姿はドラゴンの背中にあった。
その後も馬鹿は自分の小ささを逆手に取り、ノミのようにドラゴンの体をはい回った。
「ひー! やっやめて! はやく返して!」
「うわははははー! 勝つ為なら何だったやってやろーじゃねぇか!」
チクチク、チクチクと巨人を爪楊枝で攻撃するような戦いが続く。
そして、ついに。
「くそだらー! 行ってやらー!」
「ひー! 止めてーーーー!」
ワンダの叫びも虚しく。馬鹿は巨竜の肛門の中へと入って行った。
★
「ふう! ナイス切れ味だったぜ!」
「ふざけんなこの馬鹿!」
体中の穴と言う穴から血を流すプラチナムドラゴンを他所に、ワンダは泣きながらひったくるように馬鹿の手の中から魔剣を奪い去った。
「わっわた、私の魔剣が」
「んだよ、血と臓物で汚れるなんて剣の定めじゃねぇか」
「それとこれとは別だこの馬鹿!」
ワンダは何とか無事? に帰って来た剣を胸に抱き、おいおいと涙を流す。
その時だ、シャラリと結界がほどける音がして、宙に浮かんでいたリナリカたちが下りて来た。
「んー、20点と言った所だな」
「20点じゃねぇよ! ふざけんなこの馬鹿師匠!」
「寄るな、臭い」
その一言共に、疾風が吹き荒れ、ナックスは遥か彼方へ吹き飛ばされて行った。
「くくく。で、どうだ? キャルロット」
「あーあーいいわいいわ、負けよ負け、わたしの負け」
キャルロットは頭の後ろで手を組んで、そっぽを向きながらそう言った。
「くくく。だが、まぁだ」
リナリカはそう言ってキャルの頭にポンと手を置いた。
「奴が勝てたのは奴ひとりの力で無し。そこなドレイクの貴い協力有っての事だ」
「ほえ?」
急に話を振られたワンダは、そう言ってポカンと口を開ける。
「まっ、あれだ、今更2~3年帰るのが遅れたところで些細な話だろうよ」
「え! それじゃあ!」
「ああ、お前も折角アカデミーの一員となったのだ、どうせなら卒業証書と共に帰るのもいいだろうさ」
リナリカはそう言って笑みを浮かべた。
だが、それに異議を唱えたのはワンダだった。
「そんな勝手に決めるんじゃないわよあんた! キャルロット様をこんな所にひとりでおいておけるわけがないでしょうが!」
「ほう? ならどうするというのだ?」
リナリカは獰猛な笑みを浮かべる。
その底冷えする笑みにワンダはじりと一歩下がる。彼女を怒らせるとどういう目に合うか、魔王城に暮らす者なら皆知っていた。
「なら話は簡単ね、えーっとワンダって言ったかしら。アンタも一緒に学生生活を送ればいいのよ」
「……は?」
「ええそうよ、とても簡単な事じゃない。ねぇリナリカ、貴方ならそれ位どうってことないでしょ?」
「くく、ははははは。ああそうとも、どうってことないとも」
「ちょ! ちょっと待ってよーーーー!」
こうして冒険者クラスに新たな仲間がまたひとり加わる事になったのである。
エロスの騎士~ど底辺クラスから始めるハーレム生活~ 第2部完結
エロスの騎士~ど底辺クラスから始めるハーレム生活~ まさひろ @masahiro2017
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