第42話 異変
「いやーどうだ!? 俺様の活躍見てくれたな!?」
俺は氷漬けになった3頭のキマイラの前で仁王立ちしながらそう言った。
「バカ言いなさんな。結局止めを刺したのはオリアンナ先輩じゃない」
カーヤはやれやれといった風に肩をすくめる。
「かー、分かってねぇなカーヤ。俺が奴らを引きつけていたからこそのこの結果だぜ?
ねっ、そうですよねオリアンナ先輩?」
「あははー、そうですねー、凄く助かりましたー」
「あんまりこいつを調子に乗らせないでくださいオリアンナ先輩。そのうち「俺のハーレムに入れ」って付きまとわれる事になりますよ」
にこやかに頷く先輩に、カーヤは眉を寄せながら釘をさす。なんだいジェラシーかい? マイ・リトルレディ?
「そうですよーオリアンナ先輩。コイツのハーレムなんかに入った日には、どんないやらしい事をされるか分かったものじゃありませんよ」
ディアネットはニヤニヤと笑いながらそう言った。おいおい、キュート・ガール。お前は俺のハーレムに入る事は決定しているんだぜ? 今更そんな事を言うのかい? やっぱりジェラシー? まぁエロイことをすることに否定はしないがな!
「私がアンタのハーレムとやらに入る条件はアンタが私に勝つ事よ」
俺の問いかける様な瞳に、ディアネットはビシッと指を付きつけながらそう言ってきた。
「うふふふふ。やはり面白い方ですよねナックスさんって」
そう言ってきたのはリップだ。彼女はやや釣り目がちな瞳をキラキラと輝かせながら俺を覗き込んでくる。
「聖騎士クラス筆頭のディアネットさんに、頑固者のカーヤさん、2人の女性をこんなにも意識させる殿方はそうそういやしませんよ」
「ちょ! 何言ってるよのリップ!」
「そうよ! 私はあくまでも決着が付いていないって言いたいだけで!」
リップの発言に慌てふためく2人。あれ? これはもしかして、もしかするのでは?
「こんなエログロ鬼畜のド変態! ほって置くと何しでかすか分かんないからウチが監視しているだけです!」
「そうよ! こんな軟弱者と何時までも決着を付けれない自分に不甲斐なさを感じる事はあっても、その逆なんて100%あり得ないわ!」
「ええ、こいつは自分の努力不足を棚に上げ、天地がひっくり返ってもあり得ないような事を吹聴してまわる大バカ者だわ!」
「まったくよ! 卑怯極まりない事を、誰も思いつかないテクニックだと勘違いしている大バカ者! そんなのは誰も思いつかないのではなく単に恥知らずと言うべきだわ!」
「あのーおふたりともその辺でー、ナックス君が脱皮に失敗したダンゴムシの様になってますよー」
「オ゛リ゛ア゛ン゛ナ゛ゼン゛バイ゛!」
俺はあふれる涙を堪え切れずに、黒衣の天使に抱き付いた。
そこは正にこの世の天国、約束された理想郷だった。ローブの上からでも自己主張の激しいその双丘は、正に百閒は一触にしかずと言った感じで、柔らかさの暴力となって俺の頬を包み込む。
ああそうだ、そうなのだ、おっぱいに言葉はいらない。人はおっぱいの前では無力になってしまう。言葉の暴力によりささくれ立っていた気持ちが嘘の様に落ち着いていく、いや柔らかさの中に沈んでいく。そこにあるのは永遠の安息。
言葉を失っていく俺の中に残された思いはたった一つ。やはり俺の夢は間違いなんかじゃなかった!
「「いい加減にしろこのド変態!」」
「―――――――!!!」
今度は衝撃が下から上にやって来た、具体的には足の間、痛みを通り越して声すら出ねぇ。
すまねぇな、白兵戦試験の決勝で戦った、何とかという優男、やっぱりちょっとばかしやりすぎたかもしれねぇ。
「んー! んー!? んー?!」
ゴロゴロと床を転げまわる俺を無視して、こんなひどい虐待を行ったふたりは、オリアンナ先輩に言葉をかけている。「いい弁護士を紹介しましょうか?」というセリフはやめてくれディアネット、その攻撃は俺にきく。
「うふふふふ。やっぱり面白い人ですわねナックスさん」
かくかくと生まれたての小鹿の様になっている俺に声をかけてくれたのはリップだ、彼女は俺の傍に近寄ると腰をかがめてこう言った。
「私も少しばかりあなたに興味が出てきましたわ」
「僕の隣は何時でも貴女の為にあけていますよ、レディリップ」
「「少しは節操という言葉を知れ!」」
「はぼらっ!」
今度は下からじゃなく横からだった、ただしパンチじゃなくてキックだったけど。
★
「えー、ナックス君が何故か多大なダメージを追ってしまったのでー、今日はこの辺にして引き上げようとおもいますー」
「大丈夫なんですか先輩?」
「ええ、初日の探索としてはもう十分すぎるほどの成果を上げていますよー」
「そうですか……って、そこのゴミはどうしたの?」
「うふふふふ。オリアンナ先輩が掛けてくれた回復魔法のフィードバックで気絶中ですわ」
回復魔法とは自然治癒力を魔法によって無理矢理押し上げるものである。それ故に何の代償も無く回復が行われるという訳では無い。具体的な例を挙げるとすれば、ダメージを負った時に生じる傷みが、倍返しで襲い掛かり、痛みや発熱も生じてしまうという諸刃の剣と言ってもよい魔法であった。
「ねぇ、やっぱりオリアンナ先輩、ナックスのセクハラに怒ってるんじゃないの?」
「かも知れませんわね。ほっとけば収まるっているのに、無理矢理ヒールウィンドかけてましたから」
カーヤとリップはそう小声で会話を交わす。この人を怒らせるのはよそうと、ふたりは固く心に誓ったのであった。
「ん? あ? 俺ドンぐらい寝てた?」
「5分と立ってないわよ、相変わらずタフねアンタ」
俺の質問に答えたのはディアネットだった、彼女はいかにも手持無沙汰と言った感じで、気の抜けた声を俺に向けて来る。
「オリアンナ先輩とリップは今後の打ち合わせ、カーヤは周囲の警戒、それで私は荷物の見張りって事ね」
彼女は退屈そうに欠伸交じりにそう話す。あれ? その言い方だと俺って荷物扱い? 雑に床に転がされていたし、そもそもここは少女の膝枕で目覚めるシーンじゃないの?
「まっ、アンタが目覚めたのならそれでよかったわ。もう少し遅かったら強制起床も視野に入れる所だったから」
なんか俺の扱い雑すぎやしませんかねぇ!
俺がそんな事を考えていると、みんなが集まって来た。
「さてー、ではナックス君が目を覚ました事ですし、地上へと帰りますかー」
オリアンナ先輩の気の抜けた合図に俺たちはほんわりと頷いた、その時異変は生じた、立っていられないほどに床が大きく揺れたのだ。
「キャッ!」
本棚が唸り声をあげながら押しかかってくる。俺の手は2本、
「本棚如きが俺の女たちに指一本触れるんじゃねぇ!」
倒れて来る本棚にファイヤーボールをぶつける、稼いだその一瞬で本棚の側面に蹴りをいれ軌道を反らす。要は一対多の戦いだ、同士討ちを誘発させていき、安全地帯を確保すればいい。
この程度の揺れなんざ、
俺は倒れ落ちて来る本棚を足場に軌道修正を掛けながら飛び回る。
ズシンと言う重い音共に、視界が無くなるほどの埃が舞い上がった。
「みんな! 無事か!」
「ええ! 私は大丈夫!」
「ウチもよ!」
「私もですわ!」
「私もですー」
ジャックポット! 狙い通りだ!
俺は埃の向うから聞こえて来た声に、安どのため息を漏らした。
だが……
「さーて、これからどうするかねぇ」
本棚の大雪崩によって、帰り道は完全に塞がれていた。
どうやらこの大図書館様は、そうすんなりとは俺たちを返してくれる気が無いらしい。
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