第32話 逆転の咆哮
「くっ、貴様、一度ならず二度までも!」
「うっせーぞこのクソロリコン!」
俺はそう叫びつつ、ファイヤーボールを連打する。ダメージは皆無だろうが視界を遮る事位は出来るだろう。
俺がそうやってわずかばかりの時間を稼いでいる間に、ミーシャの先導によって仲間たちは姿をくるませていた。おそらくはこう言った事も予見したうえで配置についていたということだろう。
(流石ミーシャ、恩に着るぜ!)
「いい加減にしろ小僧!」
「うおっ! 急にキレんじゃねぇよ!」
ロリコンの一閃を紙一重でかわす。だがそれは一撃だけでは終わらない。俺はショートソードで何とかそれを凌いでいく。
(取り回しのいいショートソードで結果オーライだ、ロングソードなら捌き切れなかった)
ロリコンの魔剣を真っ向から受け止めるのならショートソードじゃ役に立たない。だが軌道を反らすぐらいなら、十二分に事足りる。
動体視力はパルポだけの専売特許じゃない、俺だって地獄の修行生活で十二分に身に付けている。
「ファイヤーボール!」
一瞬のスキを突き、近距離から顔面にファイヤーボールを叩き込む。
「あばよロリコン!」
俺はその隙を突き、一目散に逃げ出した。
★
たどり着いたのは森の中の開けた草原。ようやく目的の場所にたどり着いた安堵から、俺は一瞬気を緩ませる。
「うがっ!」
だが、その瞬間を見逃すようなロリコンでは無かった、俺はロリコンの放った魔力弾を背中に受けて吹き飛んだ。
「うっぐっ……」
はじけ飛んだ衝撃で、ショートソードがからからと転がっていく。立ち上がる体力も使いい果たした俺は地面を這いずるようにして――
「ふっ、手間をかけさせてくれたじゃないか小僧」
「ぐあっ!」
あともう少しと言う所で、伸ばした右手をロリコンに踏みつけられる。
「ちくしょう、離しやがれ」
「今回はほんの様子見だ。だが手ぶらで帰るのも性に合わん。あのお方のご子息の代わり言えばはるかに格が落ちるが、貴様の首で勘弁してやろう」
ロリコンはそう言うと、赤黒い魔剣を高らかと天に掲げる。
「あっ」
その時だ、俺は剣のはるか先、上空を見て声を上げる。
「む?」
奴が俺の視線に引きずられ、ちらりと上を覗いた時だ。
俺は素早く左手を伸ばし、自爆装置のスイッチを押した。
★
「げほっ、げほっ、ぱねぇな! まじ半端ねぇ!」
爆発の余波で、広場の片隅まで吹き飛ばされた俺は、口の中を砂でじゃりじゃりにしながらそう咳き込んだ。
広場には大きなクレーターが出来ており、そこは広場というより元広場と言った感じだ。そのうち雨水でもたまり、新たな池が出来上がるだろう。
広場にたどり着いた時、俺はあえて奴の魔力弾を背中に受けた、ちょうど罠の位置まで吹き飛ぶように計算ずくでだ。
奴はまんまと罠にかかった。圧倒的に有利な状況というのは、絶対的に油断している状況でもある。のこのこと罠の上まで進んできたやつを逃がさないために、俺は立ち上がる力も残っていないように、ジリジリとショートソードに手を伸ばしていたのだ。
奴の嗜虐心は十二分に味わっている。俺がそんな行動をとっていれば、奴は間違いなく俺の手を踏みつぶしに来るだろう。
俺はあえて手を踏まれる事で、奴を射線上に固定したのだ。
「奴の気が長くて助かったぜ」
奴が死に掛けの獲物をいたぶることなく、真っ直ぐに俺の首を狙ってきていたら計画は失敗していた。その場合は狙いが不十分な状況で罠を作動させなくてはいけなかった。
「あのロリコンはどうなったか……」
俺は注意深くあたりを観察する。直撃はしたはずだが、残念ながら倒しきれたという感覚は無い。というかあんな化け物と真面目に戦った事なんて無いので、その感覚が分からない。
もしかしたら倒せたのかもしれないし、やっぱり倒せてないのかもしれない。俺は、戦闘経験は豊富だが、そのほとんどが逃走経験と言ってもいいのだ。
「やった……のか?」
奴の気配は感じ取れない、クレーターの中にも奴の姿は無い。安堵のため息をもらそうとしたその時だ。
「やってくれたな小僧」
地獄の底から湧き上がるようなその声に、俺は咄嗟に回避行動に入るも、それは半歩遅かった。
「ぐぁッ!」
背中に燃える様な鋭い痛みが走る。突然俺の背後から現れた奴に、俺は背中から切りかかられた。
「てめぇ……どこから」
「ふん、勉強不足だな貴様」
奴は奴で無傷と言う訳では無い。鎧はボロボロだし、ご自慢の翼はところどころ裂けただれている。
「我のような高位のドレイクは闇に潜むことが可能なのだよ」
奴はそう言って魔剣を構え俺を注意深く睨みつける。
「へっ、根暗ロリコンにはピッタリの特技だな」
「どこまでも減らず口を。まぁいい、それもここまでだ」
奴が剣を振ろうとしたその瞬間。
「今だ!」
俺は全力でそう叫ぶ。
「なにっ!?」
奴は咄嗟に防御の構えを取る。だが何も起こらない。それは当然、最後の切り札は使っちまってる、今のはただのはったりだ。
「くっ、どこまでも往生際の悪い!」
俺は背中を走る焼ける様な痛みを無視して必死に走る。一歩一歩でも奴ら遠くに。
「ふんっ!」
「ぐあっ!」
だがそれは、あまりにも無力な抵抗だった。森の中へ引き返した俺は、3歩と経たないうちに再度背中に奴の魔剣を受けた。
痛みと出血から気が遠くなる。俺は大地に這いつくばりながら、それでも少しでも離れようと試みる。
「今……だ……!」
俺は血を吐きながらそう吠えた。
「ふん、そうなんども――」
「ええ、分かっているわ」
「何っ!?」
俺の合図と共に、木の陰に隠れていたディアネットが剣を振るう。それはバサリと奴の翼を叩き切った。
「ぐあっ!」
「ふん!」
更に一撃、もう一撃、ディアネットの連続攻撃は止まらない。
「きっ貴様!」
「はぁあ!」
恐るべしはディアネットか、彼女は全く臆することなく剣を振り続ける。
「大丈夫! ナックスちゃん!」
「あっ、ああ、大丈夫だ、それよりよく我慢してくれた」
ぶっつけ本番どころか、打ち合わせすらしていない連携攻撃だ。俺の意を良く組んで実行してくれたものだ。
「ちょっと我慢しなさいよ、大地の精霊よ、この者の傷を癒したまえ、アースヒール!」
「うがああああ!」
身体の治癒能力を魔法の力で無理矢理活性化する治癒魔法には激しい痛みが伴ってしまう。弱った人間にかけようものなら、逆にショック死してしまう事もあるらしい。
「……援軍、来た!」
パルポが珍しく大声を出した。金属鎧のガチャガチャとした音が森の向うから聞こえて来る。ここにいたってようやくと援軍のお出ましだ。
「どうする! 多勢に無勢よ!」
ディアネットが一旦距離を取ってそう叫ぶ。
「くっ、覚えておけよ人間ども!」
奴はありきたりな捨て台詞と共に闇の中へと消えて行った。
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