第30話 ああ懐かしき修業時代
「ほう、貴様生きていたのか」
ドレイクはニヤリとそう笑う。
「うるせーぞこのロリコン! そいつは俺のハーレムに迎え入れる女だ! 好き勝手に手を出してんじゃねぇ!」
勇ましい反論したはいいがこれからどうしたものか。死んだふりからの全力不意打ちアタックを首筋に叩き込んだものの、奴にはまったく応えた様子がありゃしない。
「くっくっく、勇ましいな小僧。それで? これからどうするつもりだ?」
どうするったって、どうしよう。俺ひとりなら一目散に逃げ出している所だが、奴の向うにはディアネットがいる。そんな事できる訳はない。
「しかし、腑に落ちんな小僧」
「あ? 何がだ?」
腑に落ちないのは貴様の存在だこのロリコン。なんでテメェみたいな大物がホイホイ闘技大会に混ざってきてるんだ。我が子の活躍する様をその目に焼き付けに来やがったのか? 生憎とモンスターは入学禁止だこの野郎!
「改めて言おう。貴様何故生きている?」
「はっ、あの程度の攻撃でご丁寧に死んでたら、師匠の元で暮らしていけねぇよ!」
雷撃、火炎、氷撃、風撃、あらゆる魔法を出鱈目な威力でスナック感覚に使いこなす師匠の元についていたんだ。たかが上位魔法の一つや二つ屁でもねぇ。
「ほう……貴様の師の名は何という」
「おっぱいモンス、いやリナリカ・ナーガだ! 文句はそっちに言ってくれ!」
と言うか今すぐ師匠の元へ飛んで行ってくれ。そんでもって超人ふたりで限界バトルでも繰り広げてくれ。生憎とこっちは一般人なんだ。
「くは、くはははははは」
ロリコンは何がおかしいのか腹を抱えて笑い出した。なんなんだ? もしかしてあのおっぱいモンスター、蛮族の皆さんにご迷惑でもかけてるんじゃなかろうか?
「よかろう、師の不始末は弟子の不始末だ。貴様には死を持って償わせてやる」
「ってなんでそうなんだよ!」
一通り笑いきったロリコンが出した結論がそれだった。ふざけんなあのおっぱいモンスター! 遠く離れた弟子に迷惑をかけてんじゃねぇ! 今どこにいるか知らねぇけど!
「では死ねい!」
「死んでたまるかくそったれ!」
俺はそう言うと一目散に逃げ出した。不幸中の幸いで奴の注意は俺に向き切っている、ディアネットが巻き込まれる心配はもうないだろう。
★
ズガンズガンと背後から魔法攻撃の雨あられ、奴は嗜虐心たっぷりに追い詰めるよう遊んでいる。
そう言えばあのおっぱいモンスターとの修業時代もこんな感じだった。俺は敵に追われながらもそんな事を思い出していた。
『はいはーい、当たると死ぬわよナックスー』
『ふざけんなよこのおっぱいモンスター! ちょっと下着を失敬しただけじゃねぇか!』
『その根性が気にくわないって言うのよ!』
『いいじゃねぇか減るもんじゃ無し!』
『物理的に減ってるでしょうが!』
俺と師匠が出会ったのは俺が12の誕生日を迎えた頃だった。
旅の途中でふらりと俺の村へと立ち寄った師匠は、溢れんばかりのその才覚で村にあった様々な問題を瞬く間に解決していった。
その最たるものとすれば、村の近所の森にすみついた厄介なモンスターの退治だ。危険だからついて来るなとのいいつけを無視した俺はこっそり師匠の後を追い、その一部始終を目撃した。
いや一部始終と言うのは少しばかり語弊があるか、なにせ退治と言うにはあまりにもあっけなく、瞬きのうちにそれは終わっていたからだ。
『すっげー! 今のなに! 魔法ってやつ!』
『あらあら、困った坊やね、お母さんのいいつけを聞かなかったのかしら』
『そんなのどうでもいいよ! 魔法! 俺にも魔法を教えてくれよ!』
『ふっふーん。私の魔法は特別品なの、ハイそうですと言う訳にはいかないわ』
『いいじゃんかけちんぼ、なっ何でもするからよ!』
『ハイハイ分かった分かった、取りあえず村へとかえりましょ』
その時は全く相手にされなかったが、生憎と俺はその頃から諦めが悪かった。何度言ってもはぐらかされる師匠に業を煮やした俺は、師匠の馬車に潜り込み。無理矢理弟子になる事にした。
俺は飽き飽きしていたのだ、老人と子供しかいないあの村を。
『まったく、困った子ね、貴方って子は』
『へっへー、なっいいだろ! 俺に魔法を教えてくれよ!』
おそらくは村に引き返すのが面倒くさかった師匠は、小間使いの一人ぐらい居てもいいかなーという軽い感じで、俺の同行を許可してくれた。
『分かったわ、特別に面倒見てあげるわ』
『やった! やったーーー!』
『わっこら! 抱き付くんじゃない! ってか胸を揉むなこのスケベ小僧!』
『ふぎゃーーーー!?!!???!!!』
こうして俺と師匠の二人旅は始まった。
幾つもの海を越え、幾つもの山を越え。様々な場所に赴き、様々な人に出会った。
師匠はとんでもない実力者であり、またとんでもなく破天荒な性格の持ち主だった。
『はいじゃーこれが今回の解決料ね』
『こっ、こんな額とても払えません』
『いやいやいやー、私分かってるのよー貴方が国の目をごまかしてため込んでる分』
『なっ何のことですか、私は……』
『残念ながらすべてお見通しなんだよ、その為に俺がドブの中を這いずりまわらせられたんだからな』
『くっ……こうなったら仕方がない! 者どもであえであえ!』
『おーっほっほ! 正体現したわねこのバカ領主!』
『って俺が居るのにそんなもんぶっ放すんじゃねーーー! うぎゃあああああああ!!!』
師匠は最高に無軌道で、最高なボディの持ち主だった。
『なっ、いいじゃねえか、少しぐらいおっぱい揉ませてくれよ』
『あんた、日ごとに性格がおっさん臭くなってるわよ、それも悪いタイプの』
『ふざけんな! 毎日こんな虐待を受けてるんだ! 少しぐらいサービスしてくれてもいいだろが!』
『ハイハイ、分かった分かった。じゃあ好きな時に夜這いでもかけてみなさい、もし私に触れる事が出来たら抵抗しないであげってまだ言い終わってないわよこのエロガキ!』
『ふぎゃーーーー!!!!』
師匠の引き金は羽毛より軽い。俺は師匠の魔法攻撃にさらされまくった。
そしてある日、別れは突然やって来た。
『ねえナックス、あんたなんで私について来たんだっけ?』
『はっ? 何を今更、俺はハーレム王になる為にこうして修業を積んでるんだぜ?』
『あーハイハイ、そうよねー、そうそう』
師匠は欠伸交じりにそう返事をする。
『んーそうねぇ、そんじゃあんたアカデミーに行きなさい』
『はっ? アカデミー?』
『そっ、この国で出世しようと思ったらそこが一番手っ取り早いわ』
『なんだよ、このままじゃいけないのかよ』
俺はまだ師匠への夜這いを成功させていない。このわがままボディと別れるのは非常に惜しかった。
『そうね、このままじゃアンタは一生私の使いっ放しよ。それは貴方も望むところじゃないでしょ』
『……』
『貴方には十分な実力がついた、ここらで私から巣立ちしても良い頃合いよ』
師匠はそう言って優しく俺の頭をなでる。
『なーに、これが今生の分かれって訳じゃないわ。貴方が立派になった時また会える日を楽しみにしているわ』
『……そん時は俺のハーレムに入ってくれるのか?』
『うふふふふ。あなたの成長具合ではそれも悪くないかもね』
師匠はそう言って俺の頬にキスをしてくれた。
それが別れの時だった。
★
「だから、こんな所で死んでられねぇんだよ!」
俺はまだあのわがままボディを俺のものにしちゃいない!
こんなロリコン野郎のむさくるしい攻撃によって死ぬわけには行かない!
わがままボディだけじゃない、ディアネットの若々しく張りのあるボディだって、カーヤの未発達キュートボディだって俺はまだ味わっちゃいないんだ!
俺はハーレム王になる男! 死ぬときはベッドの上で極上の女に囲まれながらって決めてるんだ!
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