第27話 競技開始!
観光客がそうそう訪れる訳でもない、荒れ放題の原始林だ。木々は茂り、ツタは好き勝手に絡みついている。
行く先を示すのはかすかに残る獣道のみ。あわよくば、搬入されたストーンゴーレムの足跡などが残っていることを期待したが、流石にそんな間抜けはしないらしい。飛行魔法か転移魔法でご丁寧に運んだんだろう。
ジュレミがサブウェポンのブッシュナイフでガシガシ道を切り開いていく、その後を俺たちは進んでいき。
「よし、ここで俺は分かれる」
目当ての地点にたどり着く。ここから先は別行動だ。
「分かったわ、後の事は私たちに任せといて」
「おう、任せたぜ」
思えば師匠の弟子として、艱難辛苦を乗り越えて来た。こうして後を任せられるような対等な存在と巡り合えたのも、このアカデミーに入ったおかげだ。
俺たちは拳をぶつけ合って別れの挨拶をした、まってろプライズ、俺が全てを回収してやる。
★
獣道どころではない、正しく道なき道を一直線に駆け抜ける。これも師匠との修行のおかげで身に付いた方向感覚のたまものだ。
「この感じじゃヤバイモンスターも居なさそうだしな」
その辺は皮膚感覚で分かる。幾つもの強敵と戦ってきた後遺症の様なものだ。まぁ全て逃げるか、師匠に押し付けるかして来たけど。
とすれば厄介なものは件のストーンゴーレムのみ。ミーシャやレミットの話だと例年ではプライズを守るガーディアンとして配置されているという話だが。
「まぁ、アイツらの方に現れたら全力で逃げろと言ってあるから大丈夫か」
筋肉バカが突っかかって行かないか心配だが、ミーシャあたりが上手くコントロールしてくれるだろう。
ひた走ること小一時間、ようやくと目標地点にたどり着いた。
しかし中々意地の悪い配置をしている。真っ当にやろうとしたら間に合うかどうかはかなり微妙、どれかを捨てる様な戦略性、あるいは賭けが必要になってくるような配置だ。
「まったく、意地の悪い設計者だな」
俺は小声でそう呟き、木の陰からこっそりと周囲を確認した。視界の端にちらりと見える灰色の巨体。間違いなくストーンゴーレムだ。
「……なんか、嫌な感じだな」
俺は多少の違和感を抱きつつ、逃走経路を頭の中で描き始めた。
★
「過酷極まる最終試験と聞いていたのに大したことは無いのね」
ディアネットはそう呟きながらパーティの殿を務めていた。
『聖騎士クラスの最大戦力を遊ばせておいたのでは、最後の勝負はままならない』リッカルドのその主張をうけたマクガインは、命令には絶対服従の条件でディアネットの謹慎処分を一時解凍したのだった。
聖騎士クラスがスタートしたのはナックスたち冒険者クラスから離れる事約1kmの地点だ。そこは、ナックスたちと比べればはるかにしっかりとした歩道が整備されており、まるでピクニックと言った所だ。
リッカルドは勝手知ったるなんとやらと言った感じで、迷わずスイスイとパーティを先導していく。それもその筈だ。彼には昨日の段階で地図が手わたされており、一日タップリかけて現場の下見を行っていたのだ。
「地図だとこのあたりだ、もう少しでプライズを守るガーディアンが居る筈だ……よ……」
リッカルドは地図を片手に前方を指さした。
そこには確かに灰色の物体が存在していた。人間を遥かに超す巨体は、確かに魔法試験に出て来たストーンゴーレムの一種だろう。
「なになに? どうしたの?」
前方のざわめきに、ディアネットはひょいと横から顔を出す。その視線の先にはストーンゴーレムの残骸が転がっていたのだった。
★
「なんか……違うな……」
俺は微動だにしないストーンゴーレムを注意深く観察した。
何かが違う、師匠との修行で培った危険察知能力がけたたましくアラームを鳴らしていた。
その時だ、ストーンゴーレムの後方に突如転移ゲートが現れた。
「運営か?」
俺は一瞬そう判断した。だが、それが間違いであったことは直ぐに分かった。
ゲートから現れたその何かは黒い甲冑を身に纏った戦士だった。そいつは禍々しい赤黒いの長剣をたずさえ、額には禍々しい角をいだき背中に漆黒の翼を生やした、見るからにヤバそうなオーラを漂わせているモンスターだった。
「なんだ? この木偶人形は?」
そいつはそう呟くや否や、軽く手を振り払っただけで、ストーンゴーレムを真っ二つにした。
(うそだろおい!)
レミットの話では、このストーンゴーレムは対ドラゴン戦を想定して作られているという話だ。
(それをあんな雑な攻撃で倒しただと!?)
強い、尋常じゃなく強い敵だ。師匠より上とは言わないまでも、その片鱗をうかがわせる強さだ。
(どうする?)
幸い奴は俺には気が付いていない、ここは逃げの一手なのだが……。
(それは俺がひとりだったらの話だ)
この森の中にはオリエンテーリングに参加している数多くの生徒がいる。ここでこの化け物から目を離してしまうのはあまりにも危険すぎる。
(ってマジかよ!)
ゲートから出て来たのはそいつだけでは無かった。数多くのモンスターたちがうじゃうじゃと湧いて出て来たのだった。
(こいつはヤバイ、とてもじゃないが俺には手が負えない!)
俺はそう判断する。そうと決まれば逃げの一手――
「そこにいるのは誰だ!」
指揮官と思われる黒鎧が俺の方を見てそう叫ぶ、それと同時に、モンスター共も一斉に俺の方へと向き直った。
「くそっ!」
逃げる逃げるダッシュで逃げる。元来た道を引き返すのは駄目だ、そうしたら最悪、モンスターの群れを引き連れてあいつらと合流しちまう事になる。
俺は来た方向とは逆方向に、一目散に逃げ出した。
★
一旦逃げると決めたなら、わき目もふらずに全力で。俺はモンスターの群れを引き連れながら暗い森の中を必死に駆けずり回った。
(誘導するなら森の外だ、アカデミーまで逃げ切ればなんとかなる)
他力本願大いに結構。こんな数を独りで相手にできるのは俺が知る限り師匠ぐらいなもんだ。
そうして逃げている俺の耳に、有ろうことか絹を切り裂くような悲鳴が届いてしまった。
「ちっ!」
くっそ最悪だ、俺は悪くねぇ! いやホント。方角からして俺が逃げて来た方向とはまた別の方向なの。
それはすなわち、ゲートはあの一か所だけでは無く、複数展開されているという事になる。
「いや、これは逆にラッキーか?」
各パーティには実況役の使い魔が付き添っている。という事はこの異常事態を運営サイドが素早く察知してくれるという事だ。
だったら、俺は逃げるが勝ち?
「いや、駄目だ!」
俺はハーレム王になる男だ! か弱き少女の悲鳴を聞いて見過ごすような男では無い。
木を足場に直角ターン、俺は悲鳴が聞こえた方角へ進路を変えてひた走った。
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