第25話 秘密兵器

「ともかくだ、俺たちは優勝しなければならない!」

「……もう十分では?」

「はいそこパルポ! シャラップ!」


 俺がハーレム王になるになる為には、是が非でもここで点数を稼いでエリートクラスへと舞い上がらなくてはならないのだ。


「その為には、栄光の手が必要だ」


 俺は真剣なまなざしをカーヤに向ける。


「そう言うと思ったわ。

 ウチも改めて設計図をチェックし直したけど、何処をどう改良すればいいのかさっぱりなの。

やっぱりあれは酔っぱらったお父さんと、深夜テンションのウチが起こした一晩の奇跡でしかないわ」


 カーヤはそう言って赤線だらけの設計図を俺に差し出してくる。

 うん! 全く分からん!


「もう一度親父さんの力を借りれないか?」

「駄目ね、お父さん急な仕事が入ってしまって今は手が離せないの」


 むう、俺にとっては何よりの一大事だが、所詮は子供の闘技大会。仕事を差し置いてこっちに取り掛かれとは言い辛いか。


「かと言ってストーンゴーレム相手にロングソードじゃ文字通り歯が立たねぇしなぁ」


 俺はそう言ってレンタル品のロングソードを眺める。あちこちに傷が入った中古品だが、刃は良く研がれておりがたつきも無く状態は良い。だがこんなもんでストーンゴーレムを切りつけた日にはポッキリ折れる事間違いなしだ。


「がはははは! じゃあ俺の出番と言うことじゃねえか!」


 ジュレミは元気そうにウオーハンマーをグルグル回す。たしかにこいつの腕力とその武器さえあれば、普通のストーンゴーレムならば大丈夫だろう。


「問題は特注品のストーンゴーレムっていう事なのよねぇ」


 ミーシャはボウガンをもてあびながらそう呟く。

 なにせ相手は対ドラゴン戦を想定してあるような特別品。なまなかな攻撃なんぞ弾かれてしまうだろう。


「……無視するのは?」


 パルポはポツリとそう呟く。たしかにそれも一つの手だ、プライズを無視してとにかくゴールへひた走る。そう言う戦法もあるだろう。


「けど、あちらさんもそれくらい想定済みよねぇ」


 そうなのだ、敵は運営側。ゴールタイムよりもプライズの得点の方を重視されたらそれで終わりである。


 俺は逃げるのと、不意打ちと、だまし討ちと、罠は得意だが、正面切っての戦いはあまり得意では無い。修業時代にはドラゴンと遭遇したこともあったが、全力で師匠に押し付けた。

 って言うか、まともに戦ったこと自体ないな。相手と言えばどれもこれも遥かに格上のモンスターばかりだったし。


「いや、方法はあるな」

「あら、何か閃いたのナックスちゃん」

「ああ、正面切って戦おうとするから詰んじまうんだ」


 俺はとっておきのアイディアを皆に話した。


「さいてー」

「……人間のクズ?」

「うふふふふ。それはそれで困難よ?」

「がはははははー!」


 ふむ、反対2、消極的賛成1、バカ1と言った所か。俺を入れれば賛成2、反対2のイーブンになるな。……バカは知らん。


「いやいや、冷静に考えてくれ、現実的な案だとは思わないか?」

「そうでもないわよーナックスちゃん」


 寝返るのかミーシャ!


「確かに別のクラスが獲得したプライズを横取りするというのは、件のストーンゴーレムと正面切って戦うよりもよほど現実的な案よ」

「そうだろう?」


 そう、俺の案とは単純な事。取れそうなところから取る、それだけの話だ。


「けど、競技場はアカデミーが所有する巨大な原生林。それも同じ場所からヨーイドンで始める訳じゃなく。お互いの姿が見えないぐらい離れた場所からスタートするのよ」

「だけどゴール地点は同じなんだろ? 兎に角全てをスルーしてゴール近くまで先行し。後は物陰に隠れて追いはぎすればいいんじゃないのか?」

「残念ながらそうはいかないわ」


 ミーシャはそう言って一枚の紙をよこしてくれた。


「ん?」

「オリエンテーリングのルールよ、ここに『生徒同士の戦闘はご法度』って書いてあるわ」

「ん? んーーー、んーーー!」


 成程、確かにそう書かれてあった。ってか、こんなもの初めて見た。まぁ俺は説明書読まないタイプだからな! 仕方がないね!


「ふむ、では山賊に変装するのは?」

「面白い案だとは思うけど難しいでしょうね。私たちの行動は運営側の使い魔によって中継されることになっているの」

「まぁそれはそうよね。折角お偉いさんが観戦にくるんだもの。それ位しなければ退屈な事この上ないわ」

「じゃあ交渉して譲ってもらうのは?」


 今日中に脅迫材料をかき集めれば何とか!


「運営側が敵なのよー、そんなグレーゾーン通してもらえるとはとても思えないわー」


 むぅ、駄目か……。


「じゃあやっぱり栄光の手に掛けるしかないな」

「それは駄目、メカニックとして許可できないわ」


 カーヤは真剣な面持ちでそう言った。


「ねぇナックス、ウチたちは頑張ったわ。下馬評を幾度となく繰り返しここまで来ることが出来た。そりゃこんな事で負けちゃうのは悔しいけど、命あっての物種だわ」

「そうねナックスちゃん。チャンスはこれっきりじゃない。今回は安全策を取って次回に掛けるのも立派な戦略よ」


 ここで引く理由は幾らでもあげられる。そもそも運営ルールが敵なのだ、駒である俺たちが何をしようが全ては奴らの掌の上。どうすうる事も出来やしない。

 だが、だが!


「そうか、分かった」

「そうね――」

「俺はお前らとは別行動をとる、お前らはゴール前で俺がありったけのプライズを抱えて来るのを待っていてくれ」

「ナックスちゃん!?」


 そう、俺はハーレム王になる男だ。この程度の障害に首を垂れてなんかいられない!


「バカ! そんな事できる訳ないじゃない!」

「ふっ、俺を甘く見るなよ? 俺は師匠のシゴキを生き抜いて来た男だぜ」

「そんなこと知ったこっちゃないわよ! ウチたちはチームなのよ! アンタ1人に任せるなんて事できる訳ないじゃない!」

「だそうだけど、そこのところどうなのナックスちゃん、勝算はあるの?」

「栄光の手が使えるのなら問題は無い」

「だからアレは!」

「おっと話は最後まで聞けよカーヤ、俺は栄光の手をそのまま使うとは言ってないぜ?」

「……どういうことなのよ」


 俺はいぶかしがるカーヤを見て、口角を上げる。


「栄光の手はいつ爆発するか分からない欠陥品って言ったな」

「……ええそうよ」


 カーヤは渋々そう認める。


「なら、このタイミングなら確実に爆破するように設定を弄る事は出来るか?」

「……アンタまさか」

「そう、俺は栄光の手を爆破トラップとして利用する。

 逃げるのと、不意打ちと、だまし討ちと、罠は俺の得意技だ。その為には俺一人の方がやりやすい。

 いいか、俺は師匠のイジメから生き抜いて来た人間だ。寄ってたかって集まらなければ、ドラゴン一匹倒せないような木偶人形。纏めてそろえて爆破してやる」


 俺は笑ってそう言った。


「何言ってんのよこのバカ! ミーシャも何とか言ってやって!」


 カーヤはすがるようにそう言った。だが。


「本気なのね、ナックスちゃん」

「ああ勿論」

「だそうよ、カーヤちゃん。ここはリーダーの意見に従いましょ」

「ミーシャ!」

「けどね、忘れないでナックスちゃん。私たちはチームよ。これはチームの戦いなの」


 何時もへらへらニヤニヤしているミーシャが鋭い視線でそう言ってくる。


「そうだな、その通りだ」


 今回だけじゃない。魔法試験も白兵戦試験もチーム戦だった。俺一人の力で戦ってきたわけじゃない。

 俺は師匠のシゴキから生き残って来た。それも全てハーレム王になるためだ。だが一人では何もできやしない。みんなの助けあっての事なのだ。

 どうしようもないど底辺クラスの事を思い出す。みんなやさぐれたクズばかりだ。俺は一刻も早くあのクラスを抜け出したかった。

 その想いは今も変わらない。けどこのくそッたれのクラスのおかげで俺はここまでやって来れた。

 運営サイドがどんな手段を使っても冒険者クラス俺たちの優勝を認めないというのなら、俺はどんな手段を使っても、その傲慢な意思に抗ってやろう。

 みんなの為なんてのはガラじゃない。俺が俺である為に、俺は俺のままど底辺クラスの意地を見せてやろう。

 その為に――勝つ!


「それが分かっているなら私からは言う事は無いわ。貴方が迷わず進めるよう、道は整えておくからね」

「ああ、ハーレム王の歩む道だ。レッドカーペットを敷き詰めといてくれ」

「ふふ。期待していていいわよ」


 ミーシャは笑ってそう言った。

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