第24話 隠された真実
ぶっつけ本番で慣れない武器を振るうのは止めといた方がいい。とのお姉さんのアドバイスを受け。オリエンテーリング試験を翌日に控えた俺たちは、王都近郊にあるダンジョンへとやってきていた。
「ねぇ、ホントにガイドを雇わなくても大丈夫なの?」
「へーきだろ、金がもったいない」
「そうよねぇ。私たち以外にもお客さんは大勢いるみたいだし」
ミーシャの言う通り、ここは最早ダンジョンと言うよりは観光洞窟と言った感じだった。
「うおー! 敵はどこだー!」
「やめろジュレミ、うっとおしい」
ウオーハンマーを頭上でブンブン振り回すジュレミを注意する。人に当りでもしたら一大事だ、ジュレミの力なら頭がはじけ飛ぶ。
結局俺たちの装備はこうなった。
俺がロングソードで、ジュレミはウオーハンマー。それぞれ前衛と後衛を担当する。
中心にはスタッフを持ったカーヤだ、彼女は得意の土系魔法で補助と攻撃に当ってもらう。
両サイドはミーシャとパルポ、2人はカーヤの護衛だ。2人はボウガンを装備する事となった。
「私ボウガンなんて持ったの初めてなのよねー」
「大丈夫だろ、お姉さんの店で試し打ちした時は問題なかったし」
2人とも百発百中の腕だった。まぁ動かない的と実際では話が違うだろうが。
★
魔道ランプや手すりなども設置された観光地ぜんとしたダンジョンを下って行く。時折現れるモンスターと言えば、ジャイアントバットぐらいなもの。だがそれも見つけ次第ミーシャが撃ち落としていく。
「うおー! 敵はどこじゃー!」
「ジャレミうるさい」
ダンジョンなので音が響く。とは言え退屈なのは確かだ、これじゃ試し切りもくそも無い。
「でもジャレミのいう事も最もよね。これじゃーコモエ先生に頼んでストーンゴーレムでも用意してもらった方が良かったかも」
手持無沙汰のミーシャがそう呟く。
「まぁ装備一式背負って歩き回るだけでも意味はあるんじゃねーの?」
試験会場である森林とこのダンジョンでは勝手が違うだろうが、それでもグータラ寝てるよりは意味があるだろう。
★
「そろそろ時間だ、休憩するぞー」
行軍では一定時間ごとの休憩は大切だ。今回は50分ごとに10分の休憩を取るペースで進んでいる。
「うがー! 退屈じゃー!」
「ジャレミうるさい」
俺たちはダンジョンの中の開けた場所で腰を下ろす。本来ならば変わりばんこで歩哨を立てる所だが、今回は省略。だって周りに他のお客さんがいっぱいだもの。
そうして休息していると、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「やあ、君たちも来てたんだね」
「ん? あー、商業クラスのー」
「レミットだよ。忘れちゃったのかい悲しいなぁ」
「いや、男に興味が無いだけだ」
「あはははは。まったく君は正直ものだねナックス君」
レミットはそう言って爽やかな笑みを浮かべる。奴らも5人パーティと言う事は明日に向けての調整という所だろう。
「で、なんだ? お前さんはまたとんでも兵器の試運転か?」
「もちろん、僕たちはその為にこの闘技大会に参加しているからね」
レミットはそう言って腰に差したワンドを引き抜く。俺との競技で使った例のワンドだ、たしかにあれなら軽さと威力に優れている。行軍にはもってこいの武装だろう。
「君が使っていた例の装置、残念ながら壊れたみたいだね」
「いや、残念ながらというか予定通りだ。元々あれば魔法試験の間持てばいいって仕様だったからな。そうだよな、カーヤ」
「えっ、ええ、そっ、そうね」
カーヤは目を泳がせながらそう返事をした、なんだ? 変なヤツ。
ともかくあの栄光の手は、耐久性や反動、メンテナンス性、あらゆるものを犠牲にして威力のみを追求した装置だ。
まぁ設計図は残っているので復元することはできるだろうが、オリエンテーリングには向いていない。重いしかさばる。
「ところで、君たちは大変みたいだね」
「んー何がだー」
思い当たることだらけで何が何やら。
「君たちも分かっているだろう? 君たちはやり過ぎた、競技大会の事務局、即ちアカデミー上層部に目を付けられているよ」
「ああ、その事か」
「そうその事。アカデミーにとって何よりも大事なのは聖騎士クラス。アカデミー一番の出資者が聖騎士団だからね」
「まったくけち臭い話だ」
「あはははは。けち臭いと来たか。まぁそうとも言えるね。けど大人の世界では面子と言うものが時には何よりも大事な時がある」
「はっ、そんなもんかんけぇねえ。ぶっちぎりで優勝してやるぜ」
「優勝ね、出来ればいいね」
レミットは含みを持たせてそう言った。
「ん? なんだ? 多少の妨害は覚悟の上だぞ?」
その程度、
「多少の妨害じゃ終わらないかもしれない」
レミットは真剣な顔をしてボツリとそう呟いた。
「僕の実家は兵器関係の商いをやっているんだ、そこでみょうな噂を聞いたんだ」
「妙な噂?」
「戦闘用ストーンゴーレムO-850という兵器がある。それが動いたって話さ」
「戦闘用ストーンゴーレム?」
「ああ、最新鋭の兵器だよ。小隊を組めばドラゴンだって打倒しうる」
「……そいつが俺達に回されると?」
俺の問いかけにレミットは無言でうなずいた。
「高々学生の競技会にそんなものを?」
「君は高々と言うけどね、そうは思っていない人も大勢いるという話さ。
アカデミーには聖騎士団を始めとしてそれぞれスポンサーが付いている。そりゃ単純にどのスポンサーがお金を持っているかといえば僕たちのバックである商業ギルドが一番だろう。
けど聖騎士団は王宮直結だ、商業ギルドは騎士団に遠慮した分しかスポンサードしちゃいないはずだよ」
むーん。なんだか話が面倒くさくなってきた。ジュレミなんかとっくに寝息を立てている。
「僕たちが学んでいるのは王立アカデミーだ、王宮の面子を潰すことは何があっても許可できない。その証拠に、闘技大会始まって以来、聖騎士クラス以外が優勝したことはたった一度も……無い」
レミットはたっぷりと間をおいてそう言いきった。
「これは出来レースということか?」
「そうなるね。残念ながら君たちが優勝できる可能性は無いだろう」
「……」
「まぁ、闘技大会で命を落としたという話を聞いたことも無い。そこら辺は安心してもいいだろうけど、油断は禁物だろうね」
「……その何とかというストーンゴーレムの弱点は?」
「ドラゴンクラスの攻撃に耐えられる設計なんだ。弱点は無いといってもいいだろうね」
レミットはそう言って肩をすくめる。
「カーヤ、栄光の手の修理は間に合うか?」
「……間に合うかというか、と言われれば間に合うわ。というか完成してる。白兵戦試験の間は暇だったからね」
カーヤは浮かない顔してそう言った。
「そうか、なら問題は無いな」
あの威力は師匠の魔法に匹敵する奇跡の装置だ。まぁ師匠なら無詠唱であの威力の魔法を連発出来るのだが。
「いえ、問題大は大有りなの」
「ん? なんでだ?」
俺がそう尋ねると、カーヤは目をそらしながらこう言った。
「あの装置が爆発せずに稼働していたのは正しく奇跡というより他は無いの」
「んーーーーーー?」
「あの時はお父さん酷く酔っぱらっていたし、ウチも深夜テンションでハイだったし、何がどうしてああなったのか……」
「んーーーーーー??」
「えーっと……つまりー、貴方が今生きていること自体奇跡というか?」
「んーーーーーー???」
カーヤはいたいけな少女が初めての告白を行うように、消え去るような声でそう言った。
何だろう、俺にはカーヤが何を言っているのかよく分からない。
「よっ、要するに! あれはとんでもない失敗作なの!」
「って殺す気かーーーーーーい!」
「あっあははははは。いっ生きてるならいいじゃない!」
「良いわけあるか! 爆発!? 奇跡!? 聞いて無いぞそんなこと!」
「しょっしょうがないじゃない! ウチだって終わってから初めて分かったんだもん!」
カーヤは開き直ってそう言った。
「あはっ、あははははは」
「やかましい! 笑うな
「いやー、まったく君たちは面白い」
「面白くねぇよ! こっちは死ぬところだったんだぞ! 知らなかったけど! なにも聞いて無かったけど!」
「んあ? もう飯か?」
「テメェは黙って寝てろジュレミ!」
「……もう帰っていい?」
「帰んなパルポ!」
「うふふふふ。忙しいわねぇナックスちゃん」
「そう思うなら助けろミーシャ!」
あーだこーだと、騒ぎつつ、こんなしみったれたダンジョンで暇をつぶしている時間は無いと俺たちは地上へと帰ったのだった。
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