第22話 作戦タイム2

 オリエンテーリング試験はアカデミーが所有する広大な森にて行われる。

 たった一枚の地図を頼りに野山を駆け巡り、途中に隠されたプライズを探し出しながらゴールをめざし、そのタイムを競う競技だ。

 この競技には知力、体力、時の運、全ての要素が試される、正しく総合試験と言ってもいい。


「でっ。明日は休養日で、試験は明後日かー」

「まぁ運営側も色々な準備があるのじゃない? 色々とね」


 ミーシャは含みを持たせてそう笑う。

 まぁ言わんとすることは分かっている。俺たちに優勝してほしくない勢力がこのアカデミーに居る事は、今日の決勝戦でよく分かった。


「けど、試験の様子は使い魔によって中継されるんだろ? 滅多な子は出来ないんじゃないの?」


 最終決戦であるオリエンテーリングには、騎士団のお偉いさんを始め、様々なVIPが来るとの話だ。あまりにもあからさまなえこひいきをすることは自分の首を絞める事になるだろう。


「まぁ、そうだと良いけどね」

「ふーむ、えらい疑心暗鬼が過ぎるじゃないか、何か思う事でもあんのか?」

「うふふふふ。私はナックスちゃんと違って育ちが悪いからね、いろいろと悪い事を考えちゃうの」


 ミーシャはそう言って意味深に笑う。従騎士クラスとの戦いのおりに、相手方のカリーナとか言うボーイッシュ美人となんかあったようだし、こいつはこいつで色々とあるんだろう。


「うふふふふ。ナックスちゃんは何も聞かないのね」

「まぁ、野郎の過去に興味なんざありはしないからなー」


 それがカリーナちゃんとのフラグになっている場合は別問題だが、今は置いといていいだろう。過去なんざだれでも持っているもんだ、一々気にしても仕方がない。


「そう、問題は過去より現在だ」


 オリエンテーリングは5人一組の班で行われる。これは文句なしに今まで戦ってきた俺たちでいいだろう。残りのクラスメイトには裏方として頑張ってもらおう。


 また、オリエンテーリングはチーム戦だ、一番先頭の人間がゴールしたタイムでは無く、最後尾の人間がゴールしたタイムで争われる。そうでなければ俺が単独行動した方が手っ取り早いのだが、それがルールなら仕方がない。


「俺は山歩きには慣れているが、お前たちはどうなんだ?」


 俺は居並ぶみんなに視線を寄越す。


「はっはっはー、俺様はエルフだぜ? 森なんて庭みたいなもんだ」


 ジュレミはそう言って腕まくりをする。

 ああそうだったな。コイツの種族は一応エルフだった、まぁそれがオーガでも似た様なもんだ、森には慣れているだろう。


「ウチは……正直あまり自信は無いわね。街暮らしのドワーフだもん。けど体力にはそこそこ自信はあるわ。あと暗い所も任せて」


 ふむ。まぁ試験開始は朝一で、予定では昼前までには終わる事になっている、夜目が必要な状況にはならないだろう。


「まぁ、いざという時はジュレミにおぶってもらえ、ジュレミだったらカーヤひとり位屁でもないだろ?」

「はっはっはー、全員おぶっても大丈夫だぜ!」


 うむ、頼もしいバカだ。


「パルポは?」

「……(こくり)」


 奴は無言で頷いた。最近これだけで何が言いたいのか大体分かるようになってきた。取りあえず問題は無いという事だろう。


「最後は私ね。私は瞬発力は兎も角、体力には正直なことろあまり自信は無いのだけど、その辺は考慮してくれるのよね?」

「ああ勿論」


 焦らず欲張らずゆっくりと、何が起こるか分からない数時間がかりの行軍だ、今まではソロ活動だったけど、そこら辺は心得ている。


「まぁ取りあえず一番背の低いカーヤのペースに合わせつつ、一定時間ごとに休憩を入れて行けば問題ないだろう」

「まっ、そんな所よね」


 俺の基本方針に、取りあえずみんな頷いてくれた。まぁゴールが近づけば、へばった奴をジュレミに抱えてもらい全力ダッシュする予定なのだが。


「ところで、障害物ってどんなものが出て来るのか知ってるか?」


 俺は事情通のミーシャに話を振る。


「うふふふふ。そうね、例年ならゴーレム等の魔法生物が配置されるって言う話よ。プライズを守るガーディアンとしてね」


 成程そいつは分かりやすい。要するにモンスターを倒してお宝ゲット。勝者を決めるのはタイムとそのお宝の価値って訳か。


「そこら辺に仕込みが入るかもしれないわね」

「まぁそうだな」


 あからさまなえこひいきが出来ないとすれば、仕込むのはそこら辺だ。俺たちが入手可能なお宝は価値の無いモノばかりという事も考えられる。

 お宝が女性の下着ならば、パルポ驚異の嗅覚によって余すことなくかき集める事も可能だろうが、流石にそんな事は無いだろう。となれば地道に堅実に探していかなくてはいけない。


 その後も俺たちは装備品を始め、あーだこーだと作戦タイムを続けてたのであった。


 ★


「ほう、これがそうですか」


 マクガインの目の前には数体のストーンゴーレムが鎮座していた。


「ええ、見かけはレベル3タイプのストーンゴーレムですが、その中身は全くの別物です。コイツを攻略するとなれば、熟練の中級パーティでも難しいでしょう」


 そう言うのはフードを目深にかぶった如何にも魔術師ぜんとした人物だった。声の様子から壮年の男性という事は分かるが、それ以上の事は判断できない。


「危険性は?」

「安全装置は仕込んであります。腕の一本や二本間違って骨折するかもしれませんが命まで取りませんよ」

「それは結構。私も一教師です。生徒が死ぬところなど見たくはありませんからね」


 マクガインはそう言って肩をすくめる。しかしその表情に動きは無く、目の前のゴーレムに、そしてその向うにあるものに対して、それほど興味を抱いている様には見えなかった。


「これらの個体を配置する先は把握していますね?」

「勿論です」

「結構です。それでは報酬は何時もの通りで」

「はい、毎度ありがとうございます」


 フードの男はそう言って恭しく頷いた。

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