第11話 エリートの壁

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ざまーみろだこの腐れども」


 普段から、ゴミだのクズだの言われてきた万年最下位の俺たち冒険者クラスだが、堂々たる一回戦突破をなした。


「まぁ、これも俺のおかげだがな」

「はっはっはー、スゲェじゃねぇかナックス」


 魔法試験では空気より存在が軽いジャレミが、バシンバシンと肩を叩いて囃し立てる。


「はっはっはっ、もっとだ、もっと崇め立てよ!」

「あーでも、凄いのはカーヤの方なのか? あの機械を作ったのはカーヤなんだろ?」

「馬鹿め! いくらマシンがすごくても、それを操ったのはこの俺だ! つまりはこの俺こそが最大最強なのだ!」

「ほーん、そういうものなのか?」


 バカはミーシャたちに振り向きそう確認するが、奴らは曖昧な表情で肩をすくめる。おいおいどうした? 君たちのヒーローはここにいるぞ?


「まぁ、凄いのは凄いわよ。バカ用にセッティングしてあるとはいえ、そいつ以上にこれを扱える人間はそう多くはいないでしょうね」

「ほら見ろ、製作者のお墨付きだ!」

「ほーん。バカはバカでも凄いバカだったんだな」

「ええ、凄いバカよ」

「はっはっはっ、そこら辺にしとけよ?」


 さもなくば怒るぞ? 若しくは泣くぞ?


「いやー参った参った」


 俺たちが和気あいあいと。言葉のダーツを投げ合っていると。からりとした爽やかな言葉が飛んできた。


「一応僕たちも本気でこの試験には参加したつもりなんだけどね。君たちの力を侮っていたよ」

 

 声の主は、俺と白熱バトルを繰り広げた商業クラスのレミットだった。


「お前たちに落ち度はないさ、ただ俺たちが強かっただけだ」


 俺は爽やかな笑顔と共に右手を差し出す。俺はカーヤとは違い、商業クラスに思う所などなにも無い。しいて言うなら「金持ってるなら少し分けてくれ」というぐらいだ。


「あははは、全くその通り。今回は完敗だよ」

「まぁお前の技も凄かったけどな、上には上があるというものだ」

「あんま調子に乗るなこのバカ!」

「ごふぅつ!?」


 右背部わき腹に突き刺さるピンポイントな一撃。カーヤちゃんその腎臓打ちどこで覚えたの? 世界狙えるよ、裏側の。


「このバカが失礼な事言ってごめんなさい。けどあなたの作品も凄かったわ。まさか無詠唱であれだけの威力を発揮できるワンドなんて想像も出来なかったわ」

「そう言って頂けると光栄だよ」


 カーヤとレミットはそう言って握手を交わす。


「負け惜しみ半分ではあるけどね、僕たちにとってこの魔法試験は試作品の発表会でもあるんだ、幾ばくかのアピールが出来ればそれで満足さ」

「まぁそうでしょうね。商業クラスの本番は、秋の文化祭ですもの」

「ははは、そう言う事。その際には君たちをもっと驚かせるような作品を見せられると思うよ」

「それは楽しみにしているわ」


 カーヤはニコニコ笑いながら自分の希望していたクラスの人間と談笑する。果たしてそれは優越感なのか、達成感なのか、それとも単に健闘をたたえ合ってー的なものなのか。まぁ笑っているのでマイナスの感情ではないだろう。


「それじゃあ、君たちの健闘を祈っているよ」


 レミットはそう言うと軽やかに手を振りながら去って行った。


「むぅ、敵ながらあっぱれなヤツ」


 俺ならば、自分を負かした奴の所に挨拶になんて行きやしないだろう。


「流石は商業クラスって感じよねーレミットちゃんって」


 いつの間にか俺の傍にいたミーシャがそう呟いた。


「ふむ。そうだな」


何が流石なのかは分からないが、取りあえず頷いておこう。


 ★


 商業クラスとの戦いに勝ち抜いた俺を待ち受けるのは、この競技の本命である魔術師クラスだ。

 魔術師クラスは聖騎士クラスに次ぐ第二のエリートクラス。このアカデミー創設当初より存在する由緒あるクラスだ。

 このクラスを卒業すれば、王宮魔術師を始めとする、魔術師エリートコースへとまっしぐらに駆け上がることが出来るそうだ。


 このクラスに入るために必要なのは何と言っても卓越した魔法能力。先天的なものが大きく作用する魔法能力がかなめという事では、ある意味ではもっとも選ばれた民が在籍するクラスと言えよう。


 下馬評を覗くまでも無い。俺たちの大敗は約束された様なものだった。

 誰もがそう思っていた。

 そう、俺たち以外の誰もがだ。


「唸れ! 必殺! ファイヤーボール!」


 正確性試験では、相手が召喚獣の多重召喚という反則じみた魔法を使ってきたものの。カーヤの必死の頑張りで、何とか引き分けに持ち込んだ。

 つづく発動速度試験では、まさかのお色気攻撃によってパルポが敗退すると言うピンチがあったが、魔力増幅装置栄光の手の威力はやはりものすごく、俺たちは辛くもサドンデス勝負に持ち込むことに成功した。


 俺の相手は上級魔法をぶっ放すという大技をはなったものの、生憎とそんなものはポンポン連発して放てるようなものではない。身の丈にそぐわない魔法をはなったそいつを横目に、俺は続けてファイヤーボールをぶっ放した。


「はっはー! 生憎とこっちは初級魔法だ! 何十発でもぶっ放せるぜ!」


 栄光の手が嫌な悲鳴を上げるのを、俺は大声を出して誤魔化し続ける。

 俺の余裕に平常心を失った相手は、上級魔法の連発にチャレンジして、もくろみ通りに失敗した。


 ★


「やった! やりましたよ! 決勝進出ですよー!」


 コモエ先生は大はしゃぎだったが、俺たちはそう言う訳にはいかなかった。


「どうだカーヤ?」

「だめ、あちこち焼き付いてる。オーバーホールが必要、いや零から作り直した方がよっぽど早いわ」


 そう、サドンデス勝負に持ち込まれた時点で計画は崩壊していた。栄光の手は規定回数を超えて大いに頑張ってくれたものの。やはりその無理は祟ってしまった。


「昼からの決勝には間に合うか?」


 俺は分かり切った問いを口に出す。


「……」


 カーヤの沈黙がその答えだった。

 俺たちは最強の相棒を抜きに決勝戦を戦う事になってしまった。

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