第2章 栄光への架け橋
第6話 闘技大会
闘技大会と一口に言っても何も格闘技大会と言う訳では無い。クラス編成の時と同様に白兵戦、魔法、筆記試験と行われ、最後にはその全てを駆使して争うオリエンテーリングが待ち構えている。
「ふっ、楽勝だったな」
「おー、スゲェ自信じゃねーか」
筆記試験終了後、相変わらず間抜け面を晒した筋肉ダルマが話しかけて来る。
「いやー俺には何が何だかさっぱりだったぜ」
そう言ってキラリと満面の笑み。こいつはホントにエルフなんだろうか? やっぱりオーガの隠し子とかじゃないんだろうか?
「はっ、寄るな寄るな馬鹿が映る」
「随分と大層な口を利くじゃない、アンタそんなに自信あるの?」
カーヤがそう言って訝しげな眼で語り掛けて来るも、今日の俺は今までの俺とは大違いだ。
「ふっ、任せろ。五問に一問は解けたぜ!」
俺はそう言って親指を高らかに上げる。
★
「なっ……何故だ……」
「授業中に寝てるからでしょ、まぁ他にも色々と理由はあると思うけどね」
採点が終わり、全校生徒のテスト結果が掲示板に張り出される。
冒険者クラスは流石はアカデミーの吹き溜まりと言った感じの点数で、見るも無残な地獄絵図。その中でカーヤだけは全校でも上位と言っていい成績を収めていたのが異常な光景に見える程だ。
「お前……本当に頭良かったんだな」
「はっ、アンタとは違うのよアンタとは、あの日は体調が悪かっただけなの、私が本気を出せたらこんなものよ」
うーむ、やるではないかこのちびっ子。だがしかし、筆記試験なぞは、所詮はただの前哨戦。本当の戦いはこの後にあるのだ。
「そんじゃお前、他の試験はどんな感じなんだ?」
「うっ……」
カーヤはそう言って言いよどむ。ドワーフは指先は器用である、金属加工に必要な細々とした魔法ならいざ知らず、あまりそのほかの派手な魔法に長けている種族と言う訳では無かった筈だ。
「まっ、魔法は、まぁアレよ、土系統の魔法なら何とかなるわ」
つまり、それ以外は何とかならないと言う事だろうか? なんとも不便なものである。
「ウチの事なんてどうでもいいわ。アンタは筆記試験の惨状を挽回できるものを持ってるのかしら?」
「ふっ、任せろ、俺は
「それを言うなら習わぬ経を読むね」
「まぁ、そうとも言う」
★
筆記試験は自分自身との戦いだが、魔法試験からは他人との戦いになってくる、クラスごとに3人の代表選手を出しての魔法能力の競い合いなのだが、そのジャンルは3つに分かれる。
一つは魔法の正確性。どれだけ緻密な魔法コントロールを出来るかの競技。
一つは魔法の発動速度。どれだけ素早くその魔法を発動できるかの競技。
一つは魔法の威力。何と言ってもこれが一番派手な目玉。どれだけ派手にぶっ放せるかの競技だ。
ここで、クラス代表を決めるための熱い戦いが……と言う風にはならなかった。
「ったく、どいつもこいつもやる気がねぇなぁ」
俺とカーヤと言ったごく一部の向上心に溢れる連中以外には、クラス代表として手を上げる人間が居なかったのだ。
「はっはー、誰もやらないなら俺がやるぜ!」
「黙ってろ筋肉ダルマ、お前の出番はまた後でだ」
ジュレミは脳みそまで筋肉出てきている似非エルフ、こいつがちっとも魔法を使えない事なんてのは皆知っている。
「ねぇ、ナックスちゃん。貴方とカーヤちゃんはどの競技に出るつもりなの?」
俺がジュレミを黙らせると、ミーシャがそんな事を聞いて来た。
「はっ、俺は当然メインである魔法威力だ」
「ウチは威力と速度には自信が無いから、正確性よ、けど正確性ならかなりいいとこ行くと思うわ」
俺たちがそう言うと、ミーシャは目を細めてこう言った。
「そう、なら私はパルポちゃんを速度に押すわ。彼ああ見えても逸材よ」
むぅ、確かにそうかもしれない。奴は地味なコボルトだが、そのスケベ心と素早さは、俺も舌を巻くほどのモノを持っている。
スカートが風でめくれる度にどこかしらから奴のシャッター音が聞こえて来るとの評判だった。
「なるほど、隠密性と素早さに優れたパルポか、適任だな」
「それは良いけど、ナックスちゃんの方は大丈夫なの? 試験の目玉って事は強敵ぞろいの筈よ」
「ふっ、それなら問題は無い」
門前の小僧生煮えハンバーグ。
「紅蓮の炎よ! 眼前の敵を焼き滅ぼせ! 唸れ必殺! ファイヤーボーーーール!」
拳大の火の玉がヒョロヒョロと標的へと飛んでいくと、着弾と同時に一気に燃え上がった。その火力は凄まじく、人間の一人ぐらい優に焼き尽くしてしまえるほどだ。
「……ってあれ? どうしたの?」
「うーん、ナックスちゃん、確かにファイヤーボールとしてはその威力は凄まじいと思うわ、けどそれ初級魔法よね?」
ミーシャはそう言って小首を傾げる。
「だってしょうがねぇだろ? これが俺の全力投球だぜ?」
俺たちが習っているのは初級魔法だけだ、冒険者クラスに入ってから高々一月でここまで来れた事を誉めて欲しい。
「残念だけどね、ナックスちゃん。他のクラスの代表はおそらく中級、下手したら上級魔法を使ってくるわ」
「かっ、カリキュラムはそんなに変わらない筈ですよね?」
「残念ながらそうじゃないの。例えば魔術師クラスならば、最低限中級魔法を使えるものとしてスタートするわ」
そんなの反則でござる。
俺はすがるような目でミーシャを見つめる。
「ああん、情熱的な瞳ね。けど残念ながら私も使えるのは初級魔法。威力で言ったらナックスちゃんより劣るわ」
まずい、これは非常にまずい。これでは試験で大活躍して聖騎士クラスに内定すると言う俺の野望がとん挫してしまう。
なぜだ、何処で間違った? いやそもそも
「……無能?」
「こらそこパルポ! 聞こえてるぞ!」
詳しくは語ってくれなかったが、師匠はアカデミーに随分と顔が効くらしい。俺は簡単な面接のみで入学できてしまったので、すっかり勘違いしていただけのうっかりボーイなのか?
否、断じて否! 俺は将来ハーレム王になる男だ、師匠は俺の秘められた能力をなんやかんやと感じ取りそれを開花させるため、このアカデミーに入学させたに違いない。
「くくく、くーっくっく」
「あら如何したのナックスちゃん、頭のねじが緩んじゃった?」
「大丈夫、要は勝てばいいんだ勝てば」
そう、どんな手段を用いようと勝てさえすればそれでいい。ペテンだろうが、反則だろうが、勝っちまえばこっちのもんよ。
俺は師匠との訓練の日々を思い出し、暗い笑みを浮かべたのだった。
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