第3話 エリートの女
唐突だが、俺たちの母校であるアカデミーの造りを説明しておきたいと思う。
先ずは正門からドーンと南北に走る中央通、その中ほどには大きな噴水付きの中央広場が配置されており、そこから放射状に各クラスへの校舎へと歩道が設置されているという単純な造りだ。
ちなみにメインのクラスである聖騎士クラスの校舎は勿論ど真ん中の一等地。城と見間違うようなピカピカの白亜の建物が鎮座している。ついでに俺たち冒険者クラスはと言うと、校舎の右端、湿ったかび臭い場所を目指して行けばその場所に突き当たる。
まぁそんな訳で、今日も今日とて、昼食後の腹ごなしがてら中央広場にて日課のレディウオッチングに精を出していたのだが、突然理不尽な因縁を付けられる事となった。
「ふむ、やはり女性の太ももは良い……癒しみ」
「ちょっと! いい加減にしてちょうだい!」
中々に美女係数の高い声にふと我に返ると、そこにいたのは期待にそぐわぬ見事な美少女だった。
その少女は真昼の陽光を受けまぶしく輝くゆっくりとしたウエーブが掛けられたプラチナブロンドを腰の高さまでなびかせていた。やや気の強そうな釣り目がちな目を始め、鼻はスラッ、唇はプリッっとしており、王侯貴族に出される特別なスイーツのような計算されつくした美があった。
勿論、スタイルも抜群だ。
もう少し視線を下げると、ミニスカートとハイソックスからなる絶対領域が目に飛び込んでくる、ムチムチプルンと鮮度よく輝くそれは神の作りたもうた芸術品であろう。
「ふっ、とうとう俺にもモテ期と言うものがやって来たか」
俺は少女の絶対領域から視線を――
「その視線を止めろって言ってんのよこの色魔」
上げようとした俺の視線に飛び込んできたのは靴の裏側だった。
数多の修羅場を潜り抜けて来た俺の動体視力は伊達じゃない。小癪にもスカートを抑えつつケリを放ってきたようだが、どうしても一瞬の隙と言うものは生じてしまう。それを見逃すような愚か者では断じてない。
白い布きれを拝見出来た代償として、蹴りはもろに食らってしまったのだが。そんなものはこれっぽっちも……あーあかん、最後の最後まで凝視していたから、思いっきり後頭部から地面にたたきつけられてちょっとフラフラすりゅ。
「……って、大丈夫貴方?」
女の方も、このアカデミーの生徒がここまで無防備に蹴りを食らう事は想像していなかったのであろう。恐る恐るそう聞いて来た。
「喧しいわこの純情可憐な白パンツ! 人様の顔面にいきなり蹴りくれるとはどういう案件じゃ!」
「って覗いてんじゃないわよ!」
少女は顔を赤らめながらそう叫ぶ。照れは極上のスパイスである、良きかな良きかな。
「ふっ、とんだじゃじゃ馬が居たものだぜッ!」
俺は背中に付いたゴミを払いつつ速やかに立ち上がる。ちょっと足元がおぼつかないがそこを気にするのはマナー違反だと思うよ!
「どうしたいベイベー、デートのお誘いかい?」
俺は、過去の暴力なぞさらりと水に流せる器を持った男だ(美女限定)。こんな美少女からのお誘いとなれば、蹴りの一発や二発安いものである。
「そんな訳ないでしょこの色情魔! アンタの視線が気持ち悪くてこの付近を通れないって苦情が来てんのよ!」
「変な言い掛かりはよしてくれ! 俺は有りのままの美を眺めていただけなんだ!」
日々の勉強で疲れた目には何よりも天然自然の美が効果的だ。具体的に言えば乳、尻、太もも。その大いなる天の恵みを余すことなくこの目に焼き付ける事こそが、将来のハーレム王への第一歩だ。
学生だもん! 予習は大事だからね!
「ふん、何処まで行っても下品な人間ね。こんな生物が同じ学舎で生きているなんて思いたくも無いわ。アンタその恰好を見るに、冒険者クラスの人間でしょ」
かと言う少女の制服は聖騎士クラスのものだ。俺たち冒険者クラスとは生地の品質からして段違い。艶が違う、艶が。
「まったく、落ちこぼれの吹き溜まりには相応しい人間だわ」
「ふざけるな! 冒険者クラスの事を悪く言うのは良いが、俺の事を悪く言う事は許さん! 俺はまごうこと無き善人だぞ」
俺ほど裏表ない素直な人間なんざ見た事は無いというものだ。
「はっ、まったく訳の分からない事をぺらぺらと。ともかくアンタの存在が邪魔なの。今後この場所に二度と近づかないか、その目を潰すかどちらかにしてくれないかしら」
彼女はゴミ虫を見るような視線で俺にそう言った。
うーん、可愛い顔してかなり積極的なお嬢さんだ、そのアプローチの仕方は嫌いじゃないが好きじゃない。不可能な事の二者択一なんて押し付けられても俺にどうしろと言うのだ。
「そんな事を言われてもな、まぁ俺も来期のクラス編成では同じ教室で学ぶことになる予定なんだ、未来のクラスメート同士仲良くしようじゃないか」
「はっ冗談は大概にして、アンタみたいなド変態が聖騎士クラスに入れるわけないでしょ」
「やってやれない事は無いと思うぜ、俺はナックス・レクサファイ、ハーレム王になる男だからな!」
びしっとポーズを決めてのその一言、ヤバイな俺様かっこよすぎる、ここら中にいる女性とみんな俺に惚れてしまったんじゃないだろうか?
「……キモ」
「って、傷つくので少し離れるの止めてくれませんかねぇ!」
少女は俺から数歩後ずさりして体を腕で抱きながらそう呟いた。
「はぁ、アンタが真正の馬鹿っていう事はよく分かったわ」
「みゅ? 惚れた? 夢に向かって馬鹿正直にひた走る俺に惚れちゃった?」
「アンタが矯正不可能な馬鹿って事はよく分かったわ!」
少女はそう言うと、手袋を脱ぎ俺に投げつけて来た。
「……なんだこれは? サインでも欲しいのか?」
俺はその手袋を受け取り匂いを嗅ぐ、うっすらと香水の匂いのするそれは上質な絹の手袋だった。
「トコトン馬鹿か貴様! これは決闘を申し込むって意味よ!」
「決闘だと?」
「私の名前は、ディアネット・ランセット・ル・ド・オルタンス! 貴方に決闘を申し込むわ!」
まったくテンションの高い娘さんだ、何を食ったらそんなに元気いっぱいになるのやら。
「ちょっと待ってくれ、お誘いはありがたいが、俺には女に手を上げる趣味は無いぜ」
聖騎士クラスの連中は腕も魔法も頭も切れるとの評判だ、おまけにディアネットなんちゃらかんちゃらと言えば、聖騎士クラスの主席を預かっている上に超の付く貴族の出身だというもっぱらの噂。そんな荒ぶるユニコーンみたいな奴と決闘なんてした日には勝っても負けてもいい事なしだ。
「はっ、その手袋を受け取った以上アンタに拒否権なんて存在しないわ」
ディアネットはそう言って重力なんて知ったこっちゃないと言わんばかりに胸を張る。一言で言うのならロケットおっぱい。畜生、いい形してるじゃねぇか。
こうして、穏やかな昼休みは嵐吹きすさぶ昼休みとなってしまったのである。
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