「最近気づいたけど。私、結構飲めちゃうみたいで」

 いつもの宿の一階の食堂で、珍しく俺の誘いに乗ってくれたアデリーが、サカロス印の葡萄酒(最近俺がひっそりと手に入れた一品である)を注いだグラスを手に、そう言う。

「へぇ?いいじゃねぇか。楽しみが増えるってのはいい事だ」

 俺も同じく、その葡萄酒をちびちびと飲みながら、相槌を打つ。

 ちなみに、ユカリも一応この場にいるんだが……一口飲んだだけでべろんべろんに酔っ払って、アデリーにべたべたと抱きついている。

 

 さて、なんでこんなことをしているかだな。

 姫様達の言っていたとおり、日が傾いてきた頃にエンストークがアデリーを迎えに来ると、どこかへ飛び去っていった後、一時間ほどして戻ってきた。

 ……何故かわからんが、何かに怯えた様子で、いつも以上にユカリに引っ付くようになったアデリーを連れて。

 何を話したのか、と聞いても、『君たちに共有するかどうかは彼女が決めることだ、私は決めることができる立場にはない』としか返してくれなかったし、ついでにユカリのことをすがるような目で見つめていたりもしたしで、重苦しいとも張り詰めているとも違う、妙な空気が流れていたのだ。

 で、とりあえずはアデリーに話を聞いてみることにするか、と思い───酒でも飲ませれば少しは気が紛れるだろ、ということで、今に至る訳である。

 うむ、我ながら名案だな。いつの時代でも酒と闘争は全てを解決する。

「明日死ぬかもわからねぇんだ。何時も刹那的に楽しまなきゃな。……ユカリは楽しみすぎてるけどよ」

「ふへへぇ。おさけより、アデリーのちのほうがおいしいですぅ」

 こいつはもう駄目かもしれんが。まぁめちゃくちゃ酒に弱いのは知ってたので、最初から期待はしてなかったけども。

 ヤキトは神殿、フェンは実家でやることがあるそうだし、俺がひと肌脱いでやらねえとな。

「お前はどうよ?人生楽しんでるか?」

「……うん。今は、皆がいるしね」

 べろんべろんに酔っ払っているユカリを、いつもとは違う……なんと言うか、慈しむような目で抱きしめながら、アデリーが言う。

 普段なら、アデリーがそうされる側なんだが。まったく、エンストークの奴は一体、アデリーに何を吹き込んだんだ?

「そりゃいいな。死んでもハッピー、でいるのがいいのさ」

 疑問に思いつつ、自論を展開していく。アデリーは静かにそれを聞いている。

 時たま俺にも視線を向けるが、やはりユカリを見る目と変わらない。まるでシーン様の神像みたいな、慈愛に満ちた顔、って感じだ。

 ……どうにもやりにくいな、やっぱ。せめて自分から話してくれるくらい、気持ちの整理ってやつがつくといいんだが。

「なんだい?長命な種にゃ刹那的なのは似合わねぇか?」

「んー。もしかしたら、そうかもね」

「そうかい。まぁ、今晩くらいは楽しもうや。せっかくのいい酒だ」

 ま、今日のところは心を軽くさせるくらいで満足して、こっから先は、こういうのをもっと上手くやってくれそうなユカリとヤキトに任せておくか。

 ……ユカリ、いつの間にか寝てっけどな。こいつ酒が入ると本当に駄目だな。

「ありがとね。今日は」

 結局、打ち明けてくれるには至らなかったが、帰ってきた時よりかはマシな顔で、グラスを空にして立ち上がった。

 夜も更けてきているし、何より精神的に疲れているだろうということで、無理に引き止めたりはしない。

「おう。じゃ、気をつけて。……ついでに、ユカリも連れていってやってくれ」

 気持ちよさそうに寝息を立てていたユカリを指差してそう言うと、アデリーは「あらら」笑いながら、起こさないようにそっと抱きかかえて、自分たちの部屋へと向かっていった。

 やれやれ。起きたらちゃんと俺のバトンを繋いでくれよな、ユカリさんよ。

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