幕間-肆・再びの浴室-
アン・リブレを討った帰り、自由都市同盟のレジスタンス基地にて。
アノーシャグさんへの報告を済ませた後、私達はまた浴室を借りることにした。
今度はフェンさんも一緒だ。もちろん女湯側で。
「あ。……ユカリさん、その……申し訳ないのですが」
三人で並んで湯船に浸かっていると、フェンさんが何かを思い出した声を出した後、そう続けた。
「ん。どうしました?」
「実はその、服がなくて……何着かお借りしてもいいですか?」
あぁ、なるほど。荷物までは取り返せなかったので、着替えなども失ったままか。
しかし私の服もそこまでたくさんある訳ではない。アデリーの方からも何着か───
「……アデリーのは少し大きいですからね。私のでよければ貸しますよ」
「い、いえ、決してそういうわけでは」
そこまで考えた所で、悲しい事実に気がついてしまったので大人しく私の物を貸すことにした。
大丈夫ですフェンさん、泣いてません。ちょっと目にゴミが入っただけです。
「お姉ちゃん、それ墓穴掘ってると思うよ」
アデリーからも追撃を貰いました。やっぱり泣きます。
「……というか、お姉ちゃんの服でも人前に出るにはちょっとあれじゃないかな。ほら、男の子っぽくしないと」
一人涙を流していると、アデリーが続けてそう言った。
確かに、サイズは合うかもしれないが別な所で問題があるか。
「とは言え男の子っぽく見える服は……ないですね。フード付きのマントがあるので、それでなんとか誤魔化してもらうしか」
流石に男性陣の服はサイズが合わないだろうし、仕方ない。
新調できるかディルクールに戻るまではこれで我慢してもらうことにしよう。
……それにしてもこう、フェンさんは気にしてないんですかね、大きさ。
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「しかし……お前と風呂に入るのも随分と久しいな」
「だな。何年ぶりかねぇ」
浴槽に浸かって間もなく、ヤキトとイッサの昔話が始まった。
そう言えばこいつらの関係についてあまり聞いてなかったな、と思いつつ、俺は大人しく二人の話を聞くことにしていた。
「懐かしいものだ。お前が『一緒に風呂入ろうぜ』と言ってきたことがあった。俺は断ったんだが、無理やり入ってくることが何度かあって。そうしているうちに……
気がつけば慣れていた」
「あったなぁ。結構最初嫌がってたよな」
「フロウライトは基本、肌を見せたがらないからな」
「当時はその辺あんまりわからなかったしなぁ」
どうやら昔から一緒に風呂に入る程度には仲が良かったらしい。
フロウライトの文化も考えると、イッサはかなり粘ったんだろう。
流石拳闘士、幼い頃から根気強い男だったみたいだ。
「しっかし……どーすんだあれ。 飛んでるんだぜ、相手」
しばらくして一区切りが着くと、話題はあの空飛ぶ城へと変わっていた。
「アパスタークがあった洞窟のドラゴン達にでも頼んでみるか?」
「あー、どうだか……ドラゴンってのはこう、なんか盟約とかあんじゃねぇの?」
こっからならいいか、という訳で俺も会話に混じる。
ドラゴンなぁ、乗れるもんなら乗ってみたいが。
「乗り心地悪いって聞くぜ。高位の騎手でもしがみつくのがやっとだと」
「マジかよ?勘弁してくれよ……」
「この際その程度の文句は言えんだろう」
「だなー……」
ぼやきながら、イッサが浴槽の端にもたれかかる。
乗り心地については……配慮してもらえることを祈るしかねぇな。
「他の国の状況も気になるなぁ……俺らは北部で活動してる訳だが、南部だかはどうやって対処してんだかね?」
俺もそれに倣って、縁に頭を乗せるようにしながらそんな疑問を二人に投げる。
あっちにも俺達みたいな精鋭部隊がいりゃあいいんだが。
「他は数が多いが野放しらしい。統制が取れてない分、面倒なようではあるな」
するとイッサがそう返してくれた。なるほど、将がしっかり決められてんのはこの辺だけなのか。逆に言うとこの辺の侵略に力を入れてるってことか?
「ま、次の任務も頑張ろうぜってことで。先あがってるぜ」
「俺もあがるか。お前は?」
「あいよー、少ししたら出るわ」
二人を見送って、誰もいなくなった浴室で今後の事をぼんやりと考える。
空飛ぶ城に魔神達の親玉、か。吟遊詩人の歌でもそうそう聞かないもんばっかり出てきやがったな。
だけどそれを乗り越えれば、それこそ俺達の活躍が歌になったりとか……すんのかな。そう考えると楽しくなってきた。
英雄エリアス様、と語り継がれる未来を夢見て、明日からも頑張っていきますか、などと思いながら、俺ものぼせる前に湯船から出ていくのだった。
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